表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/110

初めて喧嘩しそう

「なるほど。海辺で日の出が見たいのね」


「そう。写真も撮りたい。私、暗いうちから歩いていって、そしてちょうど海に着いた時に日が昇ってくるっていう経験をしてみたいの」


「めっちゃすごそう」


「付き合ってくれる?」


「うんうん。行こう。いつくらいにする?」


「今週末の朝とかどう?」


「いいね」


 大満足で食べ終わった僕と舞花は、洗い物をしながらそんな会話をして、予定を決めた。


 舞花とひたすら歩いて、そしてその結果、すごいきれいな景色が見れる。


 すごく楽しそうな体験だ。


 隣で舞花がお皿をふいている。


 舞花と一緒にしてるなら、お皿洗いももちろん楽しい。


 これからもっと色々なことを舞花とするっていう思い出を作って、全部、楽しみたい。


 そう素直に考える僕だった。


  ☆   ○   ☆


 週末の思わずゆっくり寝たくなるような朝は、天気が良いという予報だった。


 それまで、舞花と勉強する日々を過ごした。


 舞花はこの三日だけでも、結構学力が伸びているような気がする。


 学校の授業も、少しわかるようになったと言っていた。


 当日の朝二時半。


 九時半に寝たおかげで、そこまで不快感なく僕は目を覚ました。


 そして、荷物とカメラをまとめ、家を静かに出る。


 舞花から電話がかかってきた。


『秀映、起きてる?』


「起きてるよ」


『一応モーニングコールでした』


「モーニング……星が見えるなあ」


『そうだねえ』


 電話を通して早朝の夜空に笑い声を投げ、僕は待ち合わせ場所へと急ぎ目に歩き出した。




 待ち合わせ場所は、街を流れる小さな川辺の道。


 そこから川に沿って歩いていけば海に着くという、相当原始的な方法。


 ただ舞花によれば、そこまで川が蛇行していないので、そんなに遠回りにはならないらしい。


 川までやってくると、ちょうど舞花が歩いてきていた。世界で僕と舞花だけ目を覚ましてるような気がしてきた。そんなことはないけど。


「おー、なんだか家出少女の気分です」


「なるほど。それが第一感想か」


「うん。秀映の第一感想は?」


「暗い」


「それはそう……あいたっ」


「どうした?」


 舞花は髪をおさえていた。


「なんか当たった」


「え? 虫かな」


 僕が舞花の足元あたりをスマホの懐中電灯で照らすと、立派な角のシルエット。


「うお、カブトムシだ。時期が早いな。羽化したばっかりかな」


「うわわわわ。カブトムシ苦手……」


「え、そうなの? 蝶はあんなに好きだったのに」


「だってなんか太ってるじゃん」


「太ってるっていうかこういう身体の形なんだけど」


「でもなんか怖い」


「わかったわかった」


 僕はカブトムシを手で捕まえた。


 投げて遠く飛んで行ってもらおう。


 僕はカブトムシを宙に舞わせた。


 そうするとカブトムシは空中で翅を広げて飛んでいくはず……ほら飛んだ……ん?


 飛んだはいいものの、そのままぐるぐると回りながら飛んで……舞花の頭に着いた。


「いっ、ひえええええええええええええええ!」


「うるさい! 夜中だ静かに」


「秀映のせいだはやくとって!」


「わかったって」


 舞花の髪の毛にもぐろうとしているカブトムシを掴み、今度は近くの木に止まらせておいた。


「ごめん」


「秀映と初めて喧嘩しそう」


「割と根に持たれそうでビビってるんだけど……」


「早く行くよ。時間余裕なくなってきた」


「おお」


 川の下流へと歩き出す舞花を、僕は舞花の機嫌をうかがいながら追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ