舞花のお部屋
お勉強が全く分からない舞花お嬢様の部屋は、お勉強とお嬢様と無縁だった。
「なんか……整理が雑な女の子の部屋とオタクの部屋を混ぜたみたいな感じになってる」
「ひどい……その通りなんだけど」
舞花はベッドにうずくまって悲しむ素振りだけ表現する。
そのベッドにだって、某アニメキャラクターの抱き枕が置いてあった。
そして、勉強机では、勉強した形跡が見られない。
パソコンとマンガと、あとカメラ。
あとは女の子らしい小物とか、日焼け止めクリームみたいなものとかが並べて置いてある。
「あれだな、舞花」
「うん」
「勉強、してないな」
「うん」
まあそうだよな……。学校に行かないのに勉強するなんて、勉強と自分の好きなことが奇跡的に重なった人じゃない限りありえないよな。
でも、部屋の隅。
マンガやラノベや画集が置いてある本棚の一番端。
そこに、今にもはち切れそうな、古びた紙が大量に入っているファイルがあった。しかもそれが七個。
あれは……台本とかが入っているのかな。
舞花には訊かず、僕は勝手に結論づけた。
やっぱり、舞花は相当努力はできる人だ。
「宿題とかでたの? 教えようか?」
「教えてほしい……ごめんね。あ、あと、あのね」
「うん」
「今日学校で面談があって。どこの高校を志望するかっていう面談」
「あー、それ大事だな。なんて答えたの?」
「えーとね、渚ヶ丘学園」
「え? マジで? それてきとうにいった?」
「適当じゃない。この辺の高校で、同好会とかじゃなくて写真『部』があるのは、渚ヶ丘学園しかなかった。あと秀映がいる」
「そうか」
まあ……その写真部には今一組のカップルしかいないわけですけどね。でもいったん部になった以上部員がいなくならない限りはつぶれないというルールらしく、だからきっとしばらくはつぶれないだろう。
「それでね、そしたら先生が、渚ヶ丘学園に受かるには勉強めっちゃ頑張んないとやばいって」
「まあ、若干偏差値高い方くらいの位置づけだな。なんだかんだで渚ヶ丘は」
「だからなおさら秀映に勉強教わりたいの」
「おお、おし、教えるか」
「お願いします。じゃあ早速……」
舞花は、よい……しょ、と部屋の真ん中あたりに置いてあった手提げ袋から紙の束を取りだした。
取り出したというより、運び出した? というレベルで、どすん。とその紙の束は置かれた。
「すごい量」
「これが今日配られた補習プリント」
「いやすごいな。まあそういうの用意してくれるってことは、いい先生なんだろうな」
「うん。そうかも。秀映、一緒に座って」
舞花が勉強机の前の大きめの椅子に腰をおろし、そして、僕がギリギリ座れるくらいのスペースを開けた。
「ちょっと狭くない? 書きにくいと勉強の効率も落ちるし」
僕としては、舞花とはそれくらいの距離で座っていたいけど。
「うーんたしかにね。じゃあ、お姉ちゃんの部屋から椅子持ってくるから待ってて」
「おっけ、ありがと」
舞花は隣の部屋に向かい、そして僕は、舞花の補習プリントの一枚目を眺めてみた。
なんか昔学校の授業でやったなあ、という思い出。
おそらく中二の内容。
舞花は確かに勉強は遅れているけど、今日からちゃんと、やろうとしている。
僕はそれに全力で力にならないと。
それが、一緒に飛ぶということだ。




