抱きしめてほしいな
「たくさん食べた。うん、食べたね、食べちゃったんだね私……ま、いっか、おいしかったもんね」
舞花が若干呆然としかけているが、とにかく幸せなご飯だったのでいいでしょう。
舞花と僕は、駅前から住宅街の方へのんびりと歩いていた。
舞花は特に門限とかは決まってないみたいだけど、遅いと色々と言われる恐れはあるみたいなので、まあ夜遅くにはならないようにという感じ。
舞花と僕の家は駅から見たら少し違う方向にあるけど、彼女を家まで送るのは使命とどこかで読んだ気もするので、一緒に舞花の家へと歩く。
「明日寝坊しないようにしないと」
「それはそうだな。がんばれ」
「うん……あの、秀映」
「おお」
「焼肉で励ましてくれたのも嬉しかったんだけどね、あのね」
舞花は夜空の少しだけ欠けている月を目で捉えて、そして続けた。
「ちょっと、抱きしめて励まして欲しいなって……わがままでごめんね」
「いや……僕でよければ、するよ」
「……じゃあ、お願い、します」
舞花が僕のすぐ前に立ち、そして、足半個分ずつくらい、僕に近づいてくる。
僕は腕を回してゆるく抱きしめた。
やっぱり舞花は、小さいけどなんだか包んでくる。それは本当に、僕にとって舞花はすごい大きいから。
あと……胸のあたりにおける物理的包容力も原因だろうけど。
「あー、なんか安心する」
「よかった」
誰も通っていない、似たような道が全国にありそうなごく普通の道路で、突然二人でくっついてしまった舞花と僕。
舞花はなんだか体温が高くて、夏も来そうなこの頃は、少し暑いかも。
その暑さがお互いを行き来して、それが何回でも続いたらいいなって思う。
舞花が腕の力をちょっと強めた。
「パワー取り入れてる。でも秀映のパワーは減らさない」
「うん、僕もなんか、元気たまってる感じするよ」
物理学の法則を無視してるけど、やっぱり好きな人と時間を過ごすっていうのは、本当にそういう感覚になる。
これも舞花と出会ってから、初めて知れたことだ。
「……」
「……」
「……秀映」
「どうした? 舞花」
「ううん」
胸元から体を伝わって聞こえる舞花の声を、僕は耳に好きなだけ響かせた。
お互い離れたいって言わないから、このまんまか。
結局、菜々から電話がかかってくるまで、抱きあって元気を与え合ってしまっていた。




