一緒に焼き肉、励ましの肉
ぬいぐるみが入った小さな袋をそれぞれ持って、舞花と僕は水族館を後にした。
「楽しかった。こんな近くに水族館があるって知らなかったよ」
「僕も初めてだったし、すごく海の中の雰囲気出ててよかったな」
「ほんと雰囲気よかったね。もしかしたら、秀映といたからかもだけど」
「僕もおんなじ気持ち。雰囲気は、一緒にいる人とつくるもんだもんな」
そう返して舞花の横顔を見る。
「ご飯食べに行くか」
「う、うん。あ……お腹なった私?」
「いや、なってないけど、なんか、おなかすいてそうな顔に見えた」
「ええ……そんなのわかるの。わたしももっと秀映の顔観察してわかるようになろ」
舞花がさっそくじっと僕の顔を見つめてくる。
「……落ち着かない、うん、恥ずかしい」
「……っていう気持ちに秀映がなってるなってわかった」
「あそう」
舞花と僕は、自分たちだけのペースでのんびりと会話を進めていく。
「どこで食べようか。舞花、量ほしいタイプだよね」
「ほんとは量ほしいけど、控えめにしないとなんだよね。また太り始めてるから」
「じゃあ、焼き肉とかはどう?」
「私の言葉認識してた?」
「してたよ。だって、舞花の控えめって、普通の運動しまくりの高校生くらいでしょ」
「……そうなのかな」
「そうな気がする」
「じゃあ、学校行った時に気を付けないと。お弁当が大きすぎて引かれて、昼休み誰も話してくれないかもしれない……」
「いや、そんな人いないし大丈夫だよ。好きなだけ食べるのはきっといいことだよ。まあ……やりすぎると、太るかもしれないけど」
「うん。じゃあ……焼き肉行きたい」
「おっけ、場所知ってるから、早速行こう」
僕と舞花は駅前の焼肉屋を目指して歩き始めた。
「おおー食べ放題~」
「そう食べ放題」
「の割には安いね」
「うん。ギリランチの時間なのがでかい」
焼き肉店にたどり着いた僕たちは好きなだけお肉を焼いていた。
もっとも舞花はちゃんと野菜も食べる主義で、結構野菜も焼いている。
水族館って体力使わないようで長い間立ってるから意外と疲れるんだよな。
だから時間帯としては少し早いけど、ちょうどいいくらいお腹がすいていた。
「そういえば秀映って、学校ではどんなキャラなの?」
肉を裏返して、そののちに、野菜を焦げる前に回収した舞花が訊いてきた。
僕は空いたスペースに肉を追加しながら考える。
どんなキャラも何もなあ……
「キャラとして認識されていない気がする」
「え、どういうこと? なんかアニメだと、画面にも映らないけどきっとそこにいるんでしょうみたいな感じ?」
「まあそうだな」
「それでも大丈夫なの?」
「まあ、意外とね。休み時間は昼寝か、写真でも撮りに行くか、うとうと寝るかしてると時間は過ぎるし」
「寝るのが多いっていうのがわかった」
舞花は納得、とうなずいた。
「お、ここの二枚焼けてる。舞花どうぞ」
「優しい、ありがとう」
肉をつまんで舞花のところに置いた。
確かに、学校で良くも悪くも何も起こらないから、僕はぼっちでも平気だし好き勝手に行動してられるのか。
舞花の場合は、菜々の妹だってことでいろいろ関わってきたりする人もいそうだし、そうもいかないかもしれないよな。
とにかく行ってみないとわからない。
舞花はその行ってみるっていうことを、明日やろうとしている。
「お、また焼けた。はいどーぞ」
「え、もう秀映食べなよ。私裏返しとくから」
「いいの。これは励ましの肉……」
「励ましの肉……そっか、ありがとう」
舞花はそう言って、少し控えめに、肉を口に入れた。
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