ぬいぐるみは、おそろい
それからも舞花と僕は、創られた海の世界を一緒に歩いて。
そうして、その世界の端までやってきた。
いやただの出口なんですが。
出口を右に行くとすぐ、お土産屋さんを発見。
結構たくさん人が入っていて、舞花と僕もとりあえず入ってみた。
「秀映、何か買う?」
「せっかくだから買うか」
「うん。なんか可愛いものだらけ」
舞花の言う通り、海の生き物のぬいぐるみや文房具、アクセサリーなどいろいろなものが売っていて、可愛い系が全体的に多かった。
舞花はその中でもぬいぐるみに興味があるみたいで、てくてくぬいぐるみコーナーを巡回し始めた。
普通の水族館ならば、イルカのぬいぐるみとか、アザラシのぬいぐるみとか、サメのぬいぐるみとかが多いのかもしれない。
けど、ここはイルカも大きなサメも、アザラシもいない、なんだかんだでこじんまりとした水族館だ。
そういうこともあってか、カクレクマノミとか、イソギンチャクとか、チンアナゴとか、ハリセンボン(柔らかそうな素材)とかのぬいぐるみが並んでいた。
舞花が一つのぬいぐるみを手に取った。
「それ、なんのぬいぐるみ?」
「ダンゴウオの赤ちゃん、だって」
「そういえばいたなあ。そんな見た目の魚」
ていうか、水槽には種名書いてないのに、ぬいぐるみのタグには何のぬいぐるみか書いてあるんだな。
お土産コーナーで、さっき見た魚が何だったかわかるというのは新しい。
「これ、いいな。なんかまんまるくて」
「うん」
水槽で見たダンゴウオの赤ちゃんは、丸くて、ちょこんと海藻にくっついていた。
そんなところを再現してなのか、マグネットになっているものもあった。
けど、舞花が持っているのはキーホルダーで。
たまに鞄につけている人がいる、毛が生えてもふっとした球状の物体みたいなノリのものっぽい。
「それ、一緒に買おうよ」
「うんそうしたい」
舞花はうなずいた。
おそろいのぬいぐるみ。なんかいいな。
そんなふうに思っていると、舞花が続けた。
「学校の鞄につけようかな。ぼっちで寂しくてもこれ触ってると、秀映と少しはつながってる気がするし」
「そうだな。まあそういう使い方もあるかもしれないけど」
……舞花、やっぱり、結構緊張してるよな。
そりゃあそうだよな。
久々に学校に行ったら、周りはどんな人だか不安だし、色々とどんな立場に自分がなるのかなどの不安もあるし、勉強も置いて行かれてそうで怖いし。
だから僕は自分の分のダンゴウオのぬいぐるみを一つとって、言った。
「僕、明日これずっと握ってるよ。まあちょっと風変わりなおまじないみたいなもんだけど」
「ありがと」
舞花はそう言って、さっきに比べれば安心して緩んだ表情になった。




