一緒に、水面を見る
「水族館って案外写真撮るのむずかしいね」
「そうだな。魚は動いてるし」
タツノオトシゴを見て、そしてその後チンアナゴやらまた名前の分からない魚やらを眺め、時折写真を撮ろうと頑張っていた舞花と僕は、順路の中ほどまでやってきていた。
そんなに大きくない水族館なので、まだ一時間もたっていない。
「あと、秀映の写真もあんまり撮れない」
「まあ暗いからな……お、でかい水槽だ」
「よくこれがあのビルの五階の中に入ってるね」
「それな」
それだけ、大きく見せるのがうまいのだろうか。
いやでどう見ても普通に大きいし、中を泳ぐ魚も、エイやコブダイといった、大きめの魚も多い。相変わらず細かい種類は分からないけど。
舞花と僕は、大水槽を眺められるように設置された、二人掛けの椅子に腰を下ろした。
「そうだ秀映」
「うん」
「あのね、私明日、学校行ってみようと思う」
「お、学校か」
「うん。ちょっと勇気入るけど、私勉強しないといけないなって」
「そうだな、まあ勉強はした方がいいのはそうだな、僕が言えたことじゃないけど」
「秀映に、勉強でわかんないところあったら、どんどん質問しちゃうかも」
「うん、中学の勉強はきっと答えられるような……気も大体する」
いや、やっぱり自信がないかも。久々に色々と勉強するか、学校のテストだってあるし。
そう思いながらも、やっぱり今は舞花との時間を楽しむのみ。
「なんか、海の底に、二人きりで座ってる感覚になるね」
「ああ、確かにそういわれると、そうかもなって思うな」
大水槽の上の方を見上げると、大水槽を見ている他の人はあんまり目に入らない。
ただ隣の舞花の存在だけは確かで、そして美しく光るように整えられた水面と、すぐ下を泳ぐイワシとサヨリらしき魚の群れを眺めていられる。
その整った水面まで遠い位置にいる舞花と僕の状況が、少し現実の舞花と僕を反映しているような気がして。
それでも、やっぱり、一番は舞花とは絶対に一緒だってことだった。
舞花が、ちょんと、椅子の上に置いていた僕の手に触れてきた。
僕はちょっとだけ指をうごかして、舞花の手に絡めた。
舞花の手は小さめで、手だって例外になく可愛くて、だからちょっと、指が舞花の手から滑り落ちそうだった。
「……なんか謎に手を触られてる気がする」
「ごめん」
「いいよ。先に秀映の手にさわったの私だし」
となりで、舞花がちょっとだけくすぐったそうにするしぐさをして、それから水槽を見上げていた。
僕も改めて水槽を見上げる。
そしてそのまま、時間を気にせずに、一緒に水面を眺めた。




