水族館の雰囲気
駅前までやってきた。
今まで蝶の写真を撮っていたっていうことで、結構人が少ない方に歩いて行っていた僕たちだったが、今日はすごくたくさん人がいる。
だからなのか、それともやっぱり付き合い始めたからなのか、いつもより舞花は僕にくっついていた。
僕は僕でその感覚がなんかちょうどいい程度鳥肌が立つ感じで、なんだかいい意味で落ち着かなかった。
「あ……」
舞花がふと、右上を見上げた。
五年前くらいにできた大きな総合施設。
その五階が、なんだか外壁からして幻想的な青色だった。
「あ、あれは水族館。そんなには大きくはないんだけどね。半年くらい前にオープンしたんだ」
「そうなんだ」
「うん……あそこ、行ってみる?」
訊いてみたら舞花はうなずいた。
その時ほっぺが僕の肩につくくらい、やっぱり近い。
水族館は、魚や海の生き物について学べるというよりは、美しい見た目の展示をする方向に行っている感じだった。
「秀映、これなんて魚?」
「それが書いてないんだよなあ」
蝶の写真を撮っては名前を調べていた舞花と僕からすれば、どうしても魚の名前や生態が気になってしまうところだけど。
まあ普通に遊びにきている人にとっては、わー、なんか変わった魚、でいいもんな。
むしろ黒をベースとした空間の中に、カラフルな光とサンゴ、そして魚たちがいるというこの雰囲気が、この水族館の一番の魅力だし、それを楽しむのが正しい過ごし方なのだ。
そういうこともあってか、周りには好奇心旺盛な子供や生き物好きの人たちというよりも、カップルで来ている人が多いように見えた。
……ってそうだった。舞花と僕も、カップルで来てるってことなんだよな。
うん、なんか信じがたい。
「どうかした? 秀映」
舞花が暗い中僕を見つめていた。
数秒に一度、ピンク色の光が回ってきて、舞花の横顔を照らす。
なにこれ、数秒に一度隣の人に見惚れてしまう装置ですか?
「ううん、舞花、か、かわいいなってなった」
「か、かわいい……あ、ほらあそこにいるタツノオトシゴなんか可愛いよ。ほら行こう」
頑張ってかわいいと言ってみた僕を、かわいいと言われて照れている舞花が引っ張っていく。
ああ……舞花に腕を掴まれて動いている僕は幸せだ。
僕はタツノオトシゴのように体から力が抜けていて、とろんとろん舞花について行った。




