舞花③ 昔の友達と、久しぶりに
また逃げてしまった。
走りながら私はそう思った。
それにしても……あの蝶が、悪魔のアゲハチョウだったなんて。
何という悲しい結末だろうか。
やっぱり私は悪魔だったんだなあと思う。
そんな悪魔の私は、周りに人の気配のない、空き地に来ていた。
そこのまだ少し濡れているコンクリートブロックに腰を下ろす。
そしてそのまま、何を考えようにも頭が動かない状態に陥った。
ただただ、雲の多い空を見上げ、息を吸ってから、吐いているだけだった。
そんな私は、ふと、隣に誰かが座ったのに気づいて、腕が、ぴくっとした。
だって、予想もしてなかったんだから。
そして隣を見た私ははっとして、でもまだ頭は思うように動かなくて。
そんな私に、隣の女の子が言った。
「久しぶり。あのね、私、愛実なの」
☆ ○ ☆
私と愛実の会話は、愛実のごめんねからだった。
愛実は何にも悪くないのにそうなってしまったのが、私は申し訳なくて、だから私もごめんなさいと言った。
「あの蝶が、悪魔のアゲハチョウだなんて知らなくて、知った時はもう遅くて」
「うん、愛実は悪くないから。というより、愛実、ありがとう」
愛実は悪魔のアゲハチョウの存在を偶然、ある蝶園を訪れた時に知ったらしい。それを見て、あの蝶だと愛実は思った。
そして……あの私たちが悪魔のアゲハチョウを見た場所の近くの植物園にも、かつて様々な外国の蝶が飼われている蝶園があって、しかし土砂崩れで壊れてしまった。
公にはなっていないが、その結果、あの辺りには本来日本にいないはずの蝶が、わずかに生息している。
そんな歴史があるらしかった。
愛実は、そんなことを調べて、そして私を悪魔のアゲハチョウに喩えてしまったと、気づいてしまったのだ。
でも外国に引っ越すことになり、ずっと私と会えなかった。
「ねえ、これで許してもらえるかなって思って用意したものがね、これなんだけど」
愛実は、一つの箱を取り出した。
そこには、水色の蝶の標本が。
悪魔の蝶とは似ているけど、でも少し違う。
「この蝶は……なんの蝶なの?」
私は訊いた。
「この蝶は、ユリシスって言うの。オーストラリアに生息する、幸せになるっていう蝶。私、これを渡したくて、ずっと東京にいる友達に預けてたの。その友達、すごくいい人だから一生懸命舞花を探してくれたんだけど、そんな簡単には舞花とは会えなくて。こんなに遅くなっちゃった」
そっか。
私はうなずいた。
ちょっぴり深呼吸した。
愛実とまた、目を合わせる。
そして、口を開いた。
「ありがとう。でも私、受け取らない方が、いい気がする」
「……私ね、実はそう答えてくれるかなって思ってたよ」
愛実は、楽しそうに微笑んだ。




