舞花② お姉ちゃんとの会話
少し時間が戻り、舞花視点です。
旅行から帰って二日。
あんまり普段家にいなくて、いる時もそこまで話さないお姉ちゃんに、私は珍しく呼ばれていた。
「どうしたのお姉ちゃん」
「ううん特には。舞花とのおしゃべりもいいなって思ってね」
ほんとかなあと思ってしまう。
だって私のことなんかそんな興味ないでしょ。
そんなふうに思っていた私は、お姉ちゃんの一言で、椅子に座る途中の体勢で硬直してしまった。
「最近、一緒に歩いている子はだれ? あれは彼氏?」
「え、え、いやお友達で……」
「そうなのね、まあお友達ができるのは嬉しいわ、お姉ちゃんとしても」
「うん……」
私はうつむいた。そっか、見られてしまってたのか。
別にそんなにやましいことはないんだけど。
あるとしたら、旅行に二人で行ったくらいで。
だけど、なんだか私は、びくびくしていた。
「舞花、オーディション受けてみない?」
「え?」
「今度撮影するドラマ、女子校に通う子が主人公の話で、女の子のキャストがたくさん必要だから募集してるの。だから舞花どうかな?」
「えっと……やめとこうかな」
私が言うと、お姉ちゃんは予想がついてたよと言うように息をはいた。
「ねえ、舞花。もうチャンスはあんまりないと思う。けど、チャンスが全然ないわけじゃないんだよ。私と同じドラマに出ようよ」
お姉ちゃんは私を真剣にみて、そんなふうに言う。
「お母さんとお父さんは舞花が今のままでもなんも言わないけどさ、それは、舞花のことを割とどうでもいいと思ってるからだよ。私は違う。私は、舞花のことどうでもいいなんて思ってない。舞花は絶対、演技のポテンシャルだってあると思うし。だから舞花、今のままじゃ、やっぱりもったいないよ」
「……」
何もいい返せなかった。
だってお姉ちゃんの論理に、隙はないから。
お姉ちゃんに比べて明らかに何もできていない私が、反論するところなんてない。
「オーディション、まだ申し込み締め切りまであるから。いつでも言って」
「う、うん……」
私はうなずいて、そしてコップを持って、自分の部屋にとろとろと向かった。
自分の部屋に入ると、私はコップに入ったお茶を一気飲みした。
はあ。
私の部屋って、なんか寂しい。
先輩と蝶を探す日々は楽しいし、水色の蝶は見つけたいけど。
それはそれとして、私自身のこれからの話。
私は、どういうことがしたいんだろう。
私は、何を目指しているんだろう。
それが全然、自分でもわからないなあ。




