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たらふく食べた

 僕たちはしばらく景色を眺めた後、時計を見た。


 もう6時を回っている。


 五月の終わりということで日が長めの時期だから、まだ外は明るいけど、いつのまにかお腹が空いていた。


「夕飯ってなんかさっきホテルの案内見た感じだと色々あるみたいだな」


「はい。いろいろあります。そしてどこでも使える夕食券がここに」


「す、すご」


 マジで一番高い部屋とプランを選んだんじゃないのかな、舞花のお母さん。


 僕の想定していた予算より高くなるかも。


 いやでも全然嫌じゃないけどね。


「先輩は、何食べに行きたいですか?」


 うーん。どうしよう。なんかすごそうなコース料理が出てきそうなところもあるけど……やっぱり、山菜とか川魚とかの天ぷらかなあ。山の中にいるわけだし。


「私は……天ぷらを食べたいです!」


「意見が一致した」


「ほんとですか? やった、息があってますね」


 息があってる、そうかもな。


 僕がこんなに人と楽しく関われるっていうのは、たしかに珍しいような気もする。


「よし、食べに行くか」


「はい!」


 舞花と僕は、部屋を出た。


 エレベーターで五階まで降りて、渡り廊下で隣の建物へと渡る。


 渡り廊下は少し涼しく感じた。


 多分外は少し寒いくらいなのかもしれない。


 やっぱり標高も高いからな、結構気温差は激しいのかも。


 


 ひぇ……。


 天ぷらを食べるのがこんなに恐れ多いとは思わなかった。


 目の前で天ぷらをつくってそのまま出してくれる。


 それが揚げたてなので美味しすぎてやばい。


 そして作ってる人が、絶対ガチプロ。


 語彙力が低下するタイプの興奮の仕方をしていた。


 そして……舞花は、めちゃめちゃ食べていた。いやなんか見知らぬ誰かと競争してるように見えるけど。


「あれですね、おいしいと無限に食べられますね」


「無限に……」


 もしかしたらお昼に食べたパスタもだいぶ少ないと感じたのかも知れない。


 特に今日は朝ごはんは相当早く済ませてきたはずだし。

 

 そんな僕もつられてかなりお腹に詰め込んだ。


 高級そうなところなのでもっと上品に味わうべきな気がするけどもう知らん。


 


「たららん、たらふく食べました」


「だな」


 気分的にめっちゃ体が重くなった気がするので、心なしか、来る時よりも渡り廊下に負荷をかけている気がする。


 絶対誤差だけど。


「先輩……私がこれをきっかけにまた太っても、ばかにしないてくださいね……」


 舞花がお腹をさすって割と真面目に言った。


「しないよ」


 どうやら舞花は誤差だとは思っていないみたいだ。

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