博物館
夏休みの博物館に行く課題というのは、博物館に行って興味を持った展示についてまとめるっていうものである。
短く済ませる方法として、てきとうにぶらぶら歩いて出会った展示に「興味を持った」ことにして、その展示の写真を撮って帰っておしまいってのがある。
まああんまり乗り気じゃなかったし、舞花はそうするかなって思っていたのだが。
「おおきい! すごいでっかいくじらの骨!」
あれ、なんかはしゃいでますけどどうして?
まあ確かに、天井からぶら下げられた、十メートル余裕でオーバーの古代クジラの化石は、かなりすごいよな。迫力がありすぎて、数秒ごとに上を見てしまう。
しかも同じ部屋に、巨大ナマケモノや巨大アルマジロみたいな生き物の化石が展示されてるから、なんか全体的にでかい。
僕は数回来たことがあるけど、舞花は初めてだったようだ。
ちなみにこの博物館は、二十フロアくらいあって、一フロア一時間楽しんだとすると、二十時間くらいかかる。
高校生なら無料だから、熱心な人なら数日かけて回るような、そんくらいでかいところなのだ。
やがて昔の哺乳類の展示を過ぎて、今度は、さらに昔、恐竜の展示のところにやってきた。
「うわー、これもでかい。最近のティラノサウルスは羽毛を生やしてるんだね」
舞花が化石と想像図を見比べて言う。
実際どうなんだろうなあ。まあ羽毛を生やしてるとトカゲっぽくはないな。サウルスって、トカゲって意味だった気がするけど、大丈夫なんだろうか。
いや名前なんて人間が勝手につけてるんだからどうでもいいか。
「秀映〜こんなちっちゃい恐竜もいるんだね」
「うお、こんなところに」
展示パネルよりも低い位置に一メートルないくらいの恐竜も展示されていた。
虫とかを食べていたのだろうか。あるいは、ネズミみたいな風貌の、我らが哺乳類の祖先か。
「そういや、舞花、どれ選ぶか決めた?」
「あ、決めてない。この小さな恐竜さんにしようかな」
「いいんじゃない?」
「秀映は何にするの?」
「うーん。どうしようかな。写真は結構撮りまくってるから後からでも頑張れば決められるけど……それかまた他のフロアで探すか」
「そうね、まだ四分の一くらいしか見てないだもんね。もう結構まわったのに」
「そうなんだよな。あと一フロアくらい見てみてもいい?」
「いいよ〜」
そうしてやってきたのは、生物の系統樹を再現した展示。
ほぼ全ての分類群の代表的な生物の模型や標本が、系統樹の枝の先に展示されている。
「いやこれすごい。前来た時より詳しくなってる気もしないでもない」
「たしかにこんなに地球に生き物がいるんだねー、ってなるね」
「なるなる」
僕はその中で特に面白そうな昆虫の分類のところを見て回ってメモとか写真を撮った。ここにしよう課題に使うのは。
「あ、この蝶、あれだ、私たち写真撮ったことあるよね?」
「あるな。あ、これもだわ」
「ほんとだ、ていうかこれもじゃない?」
「それもっぽい。これ種類わかんなかったけど、ムラサキシジミっていうんだな」
蝶の写真を撮る割合は最近減ってきちゃったけど、僕と舞花が親しくなったきっかけは、蝶の写真なのだ。
なんか久々に、蝶の写真メインで撮りに行くのも良さそうだな。
そんな風に最後に思った、博物館での時間だった。




