煩せえって! in 家
「 ふーん牽制ねえ」
斉藤に報告中。
「 まあその気がねえなら、はっきり告白される前に諦めさせた方が気まずくなんねえもんなあ」
「 うーん、しかも未来ある高校生だからね。早く自分のことを諦めて学業に専念して欲しいのかもね」
「 俺、彼女に会う前よりよっぽど勉強してるけどな。今日のテストもなんか簡単だったし」
斉藤と政木が信じられないという顔で俺を見た。
「 どれが?」
「 え?全部」
夏休み中課外も受けたし、今まででは考えられないくらい勉強したからな。当然だ。
「 お前らも、現実逃避は勉強にすると成績あがるぞ」
「 いらないよ、そのアドバイス。普通勉強から現実逃避するもんなんだよ」
まあな。一番辛いのが勉強だったらな。
「 で、成績上がるのは良いことに違いねえけど、彼女はどうすんだ?」
「 諦める?それともお友達で現状維持?」
昨日色々考えたけど、やっぱり、どうにもならないからってこのまま一生会えないなんて考えられない。
「 現状維持で、そして早く金を稼げるよう何か考える。後は、彼女が男捜すのを邪魔する」
「 おーいきなりやる気出したな。どうしたヘタレ」
政木を睨んで、俺の突然の積極性に不思議そうにしている斉藤に向けて言った。
「 彼女の車がタバコ臭かった。誰か乗ってる」
「 ああ、なるほどね。ライバルの出現に焦ってるんだね。おそらくそれも君が1人で勝手にそう思ってるんだろうけど」
「 彼女に誰乗せたのか聞いてないのか?」
「 ふん」
斉藤が政木に向かって得意げに言った。
「 ほらね」
「 ヘタレのまんまだったな」
「 おい、最近機嫌直ってるけど問題は解決したのか?」
風呂上がりに涼もうとリビングに入ると、パソコンの前に胡坐をかいていた親父に言われた。
「 関係ないだろ。放っとけよ」
無視されてた時よりはマシだけど、機嫌直ってる訳じゃないんだよ。傷心中なんだよ。
「 関係なくねえ。お前らが喧嘩してっと俺が太朗と遊べねえだろ!」
「 喧嘩してなくても太朗は連れてこないよ。喧嘩もしてねえし」
俺の最初の台詞は無視して、親父が目を輝かせた。
「 お、仲直りしたか!坊主飛行機好きだろう!良い公園見つけたんだよ。連れて行け。そしてうちに寄れ!な!なんなら俺が運転してってやる」
「 はあ?公園なら母親の方が俺らよりよく知ってるだろ。教えなくても知ってるよ」
「 いや、口コミによると穴場らしいぞ。とにかく電話しろ。これだこれ」
親父がパソコンの前から身体をどかして俺にモニターを見せた。
母ちゃんまでキッチンから出てきて、また弁当作るから電話しろと、二人でめちゃくちゃ煩くなった。
「 ああもう!煩せえって!分かったよ。知ってるか知らないか聞くだけ聞いてみるから黙れって!」
自室に戻ろうかとも思ったが、親に煩く言われて仕方なく電話した、というのを嘘だと思われるのは嫌だった。恥ずかしすぎるだろその嘘。
それにこの勢いのままかけた方が緊張しなくてすみそうだ。
彼女の番号を出して通話ボタンを押す。この作業が1分かからずに出来るなんて、信じられねえ。
わくわくしている親ふたりを無言で睨みつけていると、彼女が電話をとった。
「 はい」
あんなこと言われたばかりなのにかなり鬱陶しがられる気がしてきた。何で俺のせられて電話しちゃったんだろう。
「 ごめん。今大丈夫?」
「 うん、どうしたの?」
彼女の声が硬い気がする。俺が何を言い出すのか警戒してるだろう。
「 あー、適当に聞き流して」
「 涼!」「 おい!」
「 え?何?」
彼女が二人の声にわずかにうろたえている。
「 ああええと、もしかしたら知ってるかもしれないんだけどさ、親父がしつこくって。なんか太朗が好きそうな公園見つけたから知ってるか聞いて見ろって言ってる」
彼女がほっとした様子で言った。
「 ああ、そうなのー?有り難うございます」
そして彼女は、その公園の事を知らなかった。
「 えっと。夏場だけ子供向けのプールがあんのかな?」
「 そうなの?」
「 幼児向けだ。物凄く浅いから小さい子供しかいないらしいぞ。その分混んでなくて遊びやすいらしい。噴水とかあって、」
親父がホームページに乗っていない口コミ情報をしゃべりだしたので遮った。
「 ちょっと待て。幼児向けで超浅いんだって」
スピーカーにすると彼女の声まで皆に聞こえてしまうので、ただ単に携帯を親父に近づけた。
「 お?ああ、あんまり混んでなくて、噴水とかがあって、浅いから大人は足元捲くるぐらいで入れるらしい。大人が着替えなくていいから楽だろ?あとなあ、これだこれ」
親父が画像を表示した。
「あー、これは太朗好きそうだな」
「だろー?飛行機の形の滑り台があるんだよ。こりゃあ男の子は喜ぶぞ」
極浅い馬鹿でかい水溜りみたいなプールに、カラフルなビニールの飛行機が設置されていた。ちゃちいけど、こんなのがある場所は少ないだろう。
「駅が近いからJRでも一本で行けるぞ。坊主んちそう遠くねえんだろ?ここの最寄駅から30分くらいだってよ」
そこで携帯を耳元に戻した。
「 聞こえた?」
「 うん、すごく詳しく調べて下さってるのね。びっくりしたー」
ひいたんだろうな。分かる。
「 まあ、暇があったら行ってみてよ」
そう言った俺の真横から親父が携帯にむかってでかい声で言った。
「 今週末までなんだよ、水遊びできるのが。後は水抜かれてイベント会場みたいになるんだと」
「 えーそうなんだ!じゃあ今週行かなきゃね。電車ってあんまり使わないんだけど、どれかな?お父様に聞いてみてもらえる?」
行くのか?
「 3才の夏は今だけよー。来年はもう飛行機の滑り台も喜ばないかもしれないし、行っといたほうが良いわよー」
母ちゃんが後ろから小声で言っている。
「 ああ、行くみたいだよ。父ちゃん電車どこ行きか教えてって」
二人が満足げににんまりした。




