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駄目よ

いつも読んで下さってありがとうございます。

パソコンさわれず更新一日飛んでしまいました。事前にお知らせできずすみませんでしたー。



「 いいのに」 

コンビニでとり合えず待ち合わせしたが、彼女が俺の家に案内しろと言ったのだ。

「 駄目よ」 

「 なあ太朗。寄り道せずに早く動物園行きたいよなあ」 

しぶしぶ家の方向を示してから後部座席の太朗にそう尋ねると、太朗が笑った。

「 ぼくおにーちゃんのおかーしゃんにありあとういえるもん!」

彼女が俺をちら見した。

「 ほらね」 

来る前に言い聞かせてきたんだな。得意げな彼女のその顔が憎たらしくて可愛い。もう、しょうがないか。

「 あれ」 

見えてきた自分のうちを指差した。

「 はーい」 

彼女が可愛く返事をした。可愛いなあ、この人。


家の前に路駐して、3人で車を降りた。でかい駐車スペースがない家で良かった。この狭い路地に路駐じゃ大して長居は出来ない。

いつも通り玄関ドアを開いたものの彼女の前で母ちゃんと叫ぶ気にならず、太朗を持ち上げインターホンを押させた。

インターホンから『 はーい』 と母ちゃんの声がして、太朗が喜んだ。

太朗の笑い声が聞こえたんだろう、母ちゃんが『 あら!』 と声を上げ俺たちに気付いたようだった。

「 あのねえありあとー。あのねえおべんとーねえありあとー!」 

太朗が上手く挨拶した。横に立った彼女を見る。

「 これで良いんじゃねえの?大喜びだよほら。行こう」

母ちゃんの『 かわーいー!』と言う歓喜の叫びを指差しそう言うと、彼女とインターホンから同時に待ったがかかった。

「 駄目よ、ちゃんとご挨拶しなくちゃ」 

『 涼!待ちなさい』 

続いてリビングから走り出てくる足音が響いた。恥ずかしいんだよ。落ち着けよ。

2階にいる親父に「 太朗くんとママがみえたわよ!」 と叫んでいるのも丸聞こえだ。


母ちゃんはすぐに玄関まで来た。家が狭いからだ。

「 まあ、いらっしゃい。お早うございます。涼がお世話になります」 

彼女に一応会釈したが、早く太朗に構いたいのがばればれだ。

「 お早うございます。三浦と申します。こちらこそお母様にお弁当までお世話になってしまって、有り難うございます」 

彼女は母ちゃんに比べてとても丁寧に頭を下げた。

「 いーえー。良いのよ大したもんじゃないんだから」 

母ちゃんが笑いながら手を振っていると親父が出てきた。

「 よう涼、いいなあ動物園。楽しみにしてたもんなあ」 

親父がにやにやしながらそう俺に言い、母ちゃんに尻を叩かれた。

「 初めまして。三浦と申します。息子の太朗です」 

彼女がもう一度親父に頭を下げ、太朗を前に出した。

「 ほら太朗。お兄ちゃんのお父さんとお母さんにおはようは?」 

太朗が親父と母ちゃんを見上げて、いっちょまえに緊張しているような顔をしていた。

「 太朗ごあいさつ」 

彼女が促すが、俺の脚に抱き付いた太朗は断固として声を出さない。

「 いいのよー。さっき上手に言えたもんねえ」 

母ちゃんが太朗に言うと、親父が草履の上に降りてきて太朗の前にかがんだ。

「 兄ちゃんに飛行機やってもらったか?」 

そう言えば今日はまだやってない。太朗が俺の脚に掴まったまま首を振った。

「 ありゃあ、俺が兄ちゃんに教えたんだぞー。俺が飛行機の先生なんだぞ、すげえだろう」 

太朗が緊張はしながらも可愛らしく首を傾げて口を開いた。

「 おじちゃんしぇんしぇいなのー?」 

親父が顔をぐしゃぐしゃにして笑った。

「 そうだぞー。飛行機の先生だぞー。可愛いなあお前」

「 ぼくかわいーなないもん、かっこいーなもん」 

太朗が俺の脚を絞めながらも親父に言い返した。

「 あはは!いっちょまえに男だな!頼もしいな。あ、かっこいいってことだぞ。お前かっこいいな」 

太朗が満足げに頷いた。

「 な、可愛いだろ?間違えた、カッコイイだろ?」

どう見ても太朗にノックアウトされた様子の緩んだ顔の両親にそう言うと、ふたりとも無言で何度も頷いた。こんなに可愛いのに、可愛いって言えないのは面倒だよな、分かる。


その後親父が飛行機をやりたがったが、太朗が拒否して駄目だった。

彼女は恐縮して謝っていたが、知らないおっさんに持ち上げられるのは誰だって嫌だろう。母ちゃんもそう言っていたし、太朗をおびえさせた親父をグーで殴っていた。

親ふたりで、太朗と彼女にまた絶対に遊びに来るようにと何度も言って、昨日のうちに用意していたのだろう、小さい飛行機のおもちゃと菓子で太朗を餌付けしようとしていた。


道路でクラクションを鳴らされ、ようやく車に乗り込んだ。良かった、いつ玄関出られるかと思った。

「 な、鬱陶しかったろ?」 

「 そんなことないわよ。良かったちゃんと伺って」 

彼女は緊張から解放されたように、にこにこしていた。

「 太朗が緊張してたのが、ちょっと申し訳なかったけど」 

「 関係ないよ。めちゃくちゃ気に入られてるぞ。絶対鬱陶しいことになるからな」 

彼女がもう一度嬉しそうに笑った。

「 良かった」 

太朗は膝の上でさっき貰ったおもちゃを動かし遊んでいた。気に入ったみたいだな。

「 太朗ー。今度お兄ちゃんのおうちに行ったときは、お兄ちゃんのお父さんに飛行機してもらう?」 

え?今度?

「 おにーちゃんのおとーしゃんどれー?」 

「 飛行機の先生」 

「 しゅるー。ひこーきしゅるー」 

ええ?今あんなに拒否ってたのに?彼女を見ると俺の言いたいことが分かったようだ。

「 こんな子なのよ。いつさっきみたいに人見知りするのか読めないのよねえ、次は全然平気だったりするのよ」 

「 ふーん」 

これは、俺んちにまた来るつもりがあるってことか?

「 じゃあ、いつかは親父も太朗を飛行機出来るかもな」 

「 うん、たぶん大丈夫だと思うよ」 

深い意味なんてないんだろうけど、明るく穏やかな声でそう答えてくれて、ドキドキして、すごく嬉しかった。







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