表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/74

ああ、もう遅い


もう一晩しっかり寝ると、今度は不安が襲ってきた。

彼女が素面じゃないことにつけこんであんなことをしてしまったが、彼女は酒が抜けた後どう感じたのだろう。

自分が高校生の俺を拒みきれなかったことに対して後悔しているかもしれない。

もしかして避けられたり、気まずくなったりするんじゃないだろうか。別れ際は穏やかだったが、あの時点でまだ酒が相当残ってたんなら、酔いがさめた今嫌われている可能性もある。

すでに先週末、部活終わりが夕方になる今日幼稚園に寄ることを約束していた。

課外授業はなかったため朝彼女の顔を見ることは出来ず、夕方にはかなり不安が大きくなっていた。

なんとか不安を押し殺し幼稚園の駐車場に向かったが、彼女はいくら経っても現れなかった。


まずい泣きそう。駐車場に立ち尽くし、途方にくれていた。

いやでも、俺と何かあったからって、太朗を休ませてまで避けたりする人じゃないだろ。子供じゃないんだぞ。

頭ではそう思うが、腹が痛かった。

「 あらー!太朗君のお兄ちゃーん!」 

おばちゃんに見つかってしまった。無人の駐車場に突っ立って待ちぼうけの自分がむしょうに恥ずかしかった。

園の門の内側から手招きされたので、近づいた。

「 こんちは」 

「 今日飛行機の日だったの?」 

おばちゃんが門の向こうから申し訳なさそうに尋ねた。

「 はい。太朗もしかして休みですか?」

「 いーえー、太朗君は来てたんだけど、今日はお迎えがおばあちゃんでちょっと時間が早かったのよ。連絡なかった?」 

「 いえ。あーあったかもしれないけど気付きませんでした」 

一応そういうことにした。確かに約束のある俺には連絡するべきだもんな。おばちゃんの彼女対する印象が悪くなるのは好ましくない。

「 ああでも、今日は無理だったのかもねえ。園にもおばあちゃんから連絡があったし。お母様が風邪引いてダウンしてるんですって」 

え?あ、あれか!俺のせいか!

「 だいぶ待っただろうけど、今日は許してあげてねえ」 

「 あ、はい。分かりました。有り難うございました」 

おばちゃんに頭をさげバス停に向かった。

ああ俺、濡れた彼女にいやらしいことしてる場合じゃなかっただろ。吐いた後さっさとタクシーに乗せなきゃいけなかったんだ。

原因が自分に有りへこんだが、彼女が現れない理由が分かってそれ以上にほっとした。



夜、アイスを食いながら課外授業の予習をしていると携帯が鳴った。

彼女のことを考えないためにやっていた予習だったので携帯をとるのは早かった。携帯が気になってしょうがなかったからだ。

やっぱり彼女からだった。

期待と不安に酷く緊張しながら通話ボタンを押した。

「 はい」 

「 あ、おにいちゃん?ごほ、ごほ」 

この間の呂律の回らないのとはまた全く違う声で聞き取りにくかった。酷いかすれ声だ。

「 大丈夫?」 

彼女が電話の向こうで咳き込みながら笑った。なんで?

「 ごめんね、今日連絡しなくて」 

太朗が寝てからかけてきたのかな、時計を見ながら思った。 

「 いや、いいよ。しんどかったんだろ?」 

あれ、俺は果たしてこのしゃべり方で良いんだろうか。一昨日の緊急事態で無意識に敬語が抜けていたことに今更気付いた。

「 そーなの、先生に聞いたの?ごめんね、熱出ちゃって。お兄ちゃんと約束してたの、忘れてた。待った?」

しゃべりながら合間合間で咳き込んでいる。俺の口調に関しては気にしていないようだ。

それにしても熱が出ていたとは言え、一昨日のことがあったのに俺は忘れられてたのか。俺なら熱が50度出てても忘れられないけど。

「 いや大丈夫。・・・風邪引いたの俺のせいだろ?」 

せっかく今まで通り話してくれているのに、忘れたことにされたくなくてそう言ってしまった。これで気まずくなったらどうすんだ俺。


「 ・・・そうだね。確かに半分は、お兄ちゃんのせいだね。あたし、ずぶぬれだったからね」 

彼女が一昨日のことをなかったことにせず、答えてくれたので嬉しかった。

「 ごめん」 

「笑ってない?あたし、タクシーで寝て、家着いた時びっくりしたんだからね。こんなに濡れてたのかって。あれたぶん、運転手さんにばれたら怒られてたよ」 

ちょっと責める調子になった彼女が可愛かったが、台詞の中に確認したいことがあった。

「 何で濡れてたのか覚えてねえの?」 ほんとに聞きたいのはそれじゃない。その後のことを覚えているのか、だけど。

「 覚えてる。大丈夫」 

「 何が」 

「 もう絶対、あいつには触らせん!」 だから、思い出して欲しいのはそこじゃねえ。宮本じゃなくて俺だ!

「 その後のことは、」 

聞きかけたが、彼女は興奮して咳き込んでいて聞こえていない。そして彼女が続けた。


「 あ、そういえば、お兄ちゃん」 

「 何」 

「 サダオには、お兄ちゃんが知ってるって言わないでよ。お兄ちゃんが巻き込まれちゃ大変」 

「 ああ、もう遅い」 

「 え!?」 

大きい声を出した拍子に、また咳き込んでいる。

「 大丈夫なの?寝れば?」 

「 昼寝すぎて寝れない!遅いって何!?」 

「 え、ああ、もう今日殴ってきちゃった」 








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ