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指切った


腕をベンチの背もたれに移し、彼女の滑らかな頬に唇を押し付けた。彼女はそれに合わせて目を閉じたが、唇が離れるとまた目を薄く開き俺を見た。

「 されたんだろ。宮本にもこうやって。どんだけ酔っ払ってんだよ。無防備にも程があるよ」

彼女の唇以外の至るところに、何度もゆっくりと唇を押し付けた。流されすぎだろ、さっき高校生は有り得ないって自分で言ってたくせに。

彼女の顔をもう一度真正面から見つめた。これから俺がしようとしていることを、予測はしていないのだろうか。酔ってるとそんなことさえ出来なくなるのだろうか。

「 俺が触るのは気持ち悪くないの?」 

鼻先がふれ合うほど近くまで顔を寄せ確認をするが、彼女は表情の読めない顔をして俺を見ているばかりで返事をしない。相変わらずとめる様子もないので、せっかくだから決行することにした。

彼女の少しだけ厚めで色っぽい唇に自分のそれをゆっくり押し付けた。初めて触れる唇は、さっきまで触れていた他のどの場所より柔らかく頼りなかった。

しばらく押し付けていたが、一度わずかに離し、自分の唇を少し開き彼女の柔らかな唇を食む様に軽く吸った。あんなにゆすいでいたのに、まだほのかにアルコールの匂いがする。

さっきまで吐いてた人間の口に吸いついて有り得ない程興奮してる自分が信じられない。

俺、やっぱりこの人が好きだ。めちゃくちゃドキドキしてる。頭おかしくなりそう。

自分の唇にくっ付いてゆっくり剥がれていく濡れた感触がなんとも言えず、何度も繰り返した。

経験もないし舌を入れる勇気はなかった。そこで拒絶されるのも怖かったし、唇が触れるだけでも凄く気持ち良かった。ただ夢中で彼女の唇を吸い続けた。これでもかと言うくらいにしつこく続けた。


どのくらい続けていたのか定かではないが、はあ、と息をもらした彼女に、我に返った。惰性で唇を押しつけ続けながら彼女の顔を見るとやばいことになっていた。

濡れた唇をわずかに開き、半分伏せた目で自分の唇に吸い付く俺を陶然と見ていた。そのあまりに色づいた表情は、すでに熱くなっていた身体に重く響いた。

彼女はすぐに俺が自分の顔を見ていると気付き、俺の顔を押しのけるように両腕で目を覆った。

「 もう駄目、これ以上はやばい」 

そう言ったのは俺じゃなかった。彼女が腕の下から、濡れた唇だけを妖しく動かして呟いた。

その動きに引き寄せられ、また柔らかく湿った唇に吸い付く。ああ、どうしてこんなに抗い難いのだろう。

「 う、ん、駄目、だって」 

しゃべる間も彼女の唇を追おうとする俺の口元を、小さな掌が覆った。

「 ストップ。終わり!」 

彼女が上気した色っぽい顔をさらして俺に言った。残念ながら目には正気の色が戻り始めている。

「 なんで」 

あんなに気持ち良さそうだったのに?

「 なんででも!もう駄目なの」 

「 何が」 

「 何って!これが!」   

嫌だよ。もっと続けたい。

「 もう、お願いだからそんな顔しないで!あたしこういうのすごく久しぶりなんだから。我慢するにも限界が」 

彼女は言いながら、すごく情けない顔になった。

「 我慢できなくなるとどうなるの?」 

「 高校生には言えない!大人の事情があるの!分かってるでしょ、わざわざ聞かないでよ」

俺を睨みつけた彼女が小さくそう叫んで、掌で顔を隠してしまった。 

正に子ども扱いされている台詞だが、腹は立たず可愛いだけだった。高校生の俺に彼女が欲情しているのが丸分かりだったからだろう。

深呼吸をして気分を切り替える努力をした。

顔を覆う彼女の手の甲に一度強く唇を押しつけ、気合を入れて身体を離した。


「 我慢しないで、高校生を食えば良いのに」 

酔って正気じゃないとしても喜んで食われるのに。

彼女が顔を伏せたまま俺を非難した。

「 だからそういうこと言わないでって。食べたくなるじゃん」

「 そっちこそそういうこと言ってると、無理矢理やるからね」

もうなんかほんとにそれでも良いんじゃないかって気分なんだからね。 

彼女が勢いよく顔を上げた。

「 帰ろう!このままじゃあたし犯罪者になっちゃう」 



タクシーを待つ彼女と並び、横目で見下ろした。

「 ムラムラしてると思うけど、今から夜の街に繰り出して適当な男引っ掛けたりしないでよ。俺が我慢した意味ないからね」 

明るい通りに出ていたので彼女が頬を染めたのが分かった。

「 煩い」 

「 煩いじゃない。返事」 

「 分かってるわよ。せっかくあいつから助けて貰ったんだから、そんなこと絶対しない。お兄ちゃん」 

彼女が俺を見上げて、俺を呼んだ。

「 何?」 

「 助けに来てくれて、ほんとにありがとう。凄く、嬉しかった」 

真顔だった。

本気で言っているのだなと思った。

「 もう次は行かないからね。男と飲むなよ」 

「 指きりしてもいい。絶対飲みません」 

そんな約束していいんだろうか。男を探す予定はどうなったのだろう。

彼女は今度も真剣な顔をしていたが、俺が小指を差し出すと、それを見て可愛く笑った。


彼女の細い指が俺の指に絡むのを動悸と共に何故か冷静な気分で眺める。何年ぶりだろうな、指きりとか。

歌うのではなく静かに言葉を紡いでいく彼女の声にかぶせた。

「 嘘ついたら針千本と俺を食わす。指切った」 

彼女が引いた顔で俺を見上げた。

「 怖い」 

「 上等」 

怖がらせて言うこと聞かせるもんだろ。指きりって。









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