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え!どこ?何?


暑い。俺の部屋にはエアコンがない。

冬はどうってことないが、夏は暑い。明日は日曜で特に予定はない。部活もない。暑い。22時近いけど今すぐ泳ぎたい。暑い。


「 アイス買ってくる」 

「 あ、おかーさんのも買ってきて!」 

「 俺のも!」 

階段を下りてリビングに向かって言うと、すかさず両親から返事があった。

自分らも食いたいんなら昼間買い物するついでに大量に買っといてくれよ。

最近連夜コンビニへアイスを買いに行かされている為、靴を履きながら心の中で愚痴った。


歩いてもすぐだが暑いので自転車でコンビニに向かっていると、ポケットで携帯が鳴った。

誰だろ?こんな時間にかけてくるのは政木くらいだけど、今日は昼に会ったしな。斉藤から苦情か?

自転車を止めて携帯を取り出し相手を確認すると、心臓がどくんと音をたてた。。

彼女だ。

こんな時間の電話は勿論初めてだ。

『 あっちが誘ってんだろ。お前実は狙われてんじゃねえの?』

昼間の政木の言葉が頭をいっぱいにする。どうしよう。ないとは思うけど、もしかして夜の誘いだったら。俺どうするんだ。

携帯を凝視して有り得ない程心臓を鳴らしていると、着信音が途切れた。何やってんだ俺!せっかくかかってきたのに切れちゃったじゃん!政木のあほが!余計なこと言いやがって!

携帯をアスファルトに叩き付けたいぐらい後悔していると、すぐにもう一度着信音が鳴り出した。

嬉しくて飛び上がりそうだったが、そんな事をしてる場合じゃない。慌てて通話ボタンを押した。

「 はい」 


「 お兄ちゃん、良かった・・・」 

彼女の様子がおかしかった。いつもと全然違う辛そうな声は聞き取りにくく、呂律が回ってない感じだった。  

「 どうしたんですか?大丈夫?」 

焦った。何だ?どっかで倒れてるんだろうか。

「 ああ、ごめん・・・・。大丈夫じゃないの。・・・・・こんな遅くに、ごめん。・・・・・・助けて」 

「 え!どこ?何?」 

「 お兄ちゃんちの、近くだと思うの。・・・・いつものコンビニの、近くの、・・・カラオケの裏のホテル」 

ホテル!?

「 逃げたいんだけど、・・・・・飲みすぎて、動けなくって。・・・・・サダオが、今シャワー」 

はあ!?

「 部屋にいんの!?」 

彼女が黙ってしまい、もどかしくて堪らなかった。

「 どこ!?部屋にいるのか!?」 

「 ううん、・・・・・1階の、トイレ、まで来てる」 

「 すぐ行くからカギ閉めてじっとしてて!」 



ホテルの前で自転車を捨て、入り口の分かりにくいエントランスへ駆け込んだ。

人と会わずに出入りできるようになっていたので、誰に咎められることもなかった。

携帯で彼女を呼び出しながら女子トイレのマークを見つけ、ためらうことなく踏み込んだ。

一番手前の個室の中から着信音が聞こえたが、すぐに途切れた。

場所合ってて良かった。ほんと良かった。

「 はい」

彼女が携帯に答えた。

「 着いたよ。開けて」 

俺の声が電話からではなく、個室の外から直接聞こえたはずだ。

カギを開ける音がしてドアが開いた。

青ざめた彼女が蓋を閉めたままの便座に座り込んでいた。

「 ごめん・・・・」 

自分でも良く分からない苛立ちから返事をする気にならず、青い顔をした彼女を無視して外に出るよう促した。

しかし彼女は立ち上がりはしたものの、歩くのもままならない様子だった。当たり前だ、歩ければ自分でここから逃げられたはずだ。

彼女の前にしゃがんで背中に乗るように促した。

さっさと乗らない彼女にまた腹が立って、意地悪く言った。

「 早くしないと宮本が来るんじゃない?おんぶが嫌なら抱っこするけど?」 

「 おんぶが良い、です」

彼女がようやく俺に被さって来た。

ほとんど力が入っていないが、柔らかな彼女の身体は軽かった。

太腿を支えた俺の腕に、薄く滑らかなパンツの生地を通して感じる彼女の柔らかさが意外なほどだった。


「 どこ行けばいいの」

外は暗くて暑かったが、異様な緊張と焦りで身体が冷えていたみたいだ。

背中に感じる彼女の体温に、少し苛立ちが落ち着いてきた。

宮本に会うことなく彼女をホテルの外へ連れ出せたことにもかなり安堵した。

「 ここから離れたい」 

まあ、そりゃそうだろうけど。既に自転車は諦めてがんがん歩いてホテルから離れようとしている。

「 タクシー止めようか?」 

「 ううん、・・・・今乗ったら、吐く」 

彼女が身をすくめたのを感じて、俺が知らずため息を吐いていたことに気付いた。

「 ごめん、もうちょっと、離れたら、置いてって。・・・・酔い醒まして、から、帰る」

ようやく落ち着いていたのにその言葉にまた腹が立った。彼女はしゃべるのも苦しそうだ、相当気分が悪いのだろう。

「 馬鹿じゃないの?そんなんで置いてったらここまで来た意味ないだろ」 

他の男にやられるに決まってるだろ。

それ以上しゃべる気にならず、無言で近くの公園を目指して歩いた。











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