閑話 あっち側かこっち側か in教室
読んで頂いてありがとうございます。
夏休みに入る前の話です。
「 おい政木、あっち側の友達が呼んでるぞ」
「 は?」
政木は俺に怪訝な顔を向けたが、すぐに自分を呼んでいる他クラスの友達数人に気付き教室を出て行った。
「 政木は能天気さと、イケイケに見えるけど実は天パのもじゃもじゃと、スポーツマンもどきのでかい体格のおかげで、あの集団に溶け込んでるんじゃないのか?」
斉藤の机に頬杖をついて、廊下の政木集団を眺めながら言った。
「 あと、誰に対しても物怖じしない性格もね」
確かに。
ふたりで政木について考察していると、当人が戻ってきた。まあ、ほんとはお前の席は遠く離れた窓際なんだけどな。
「 涼、さっきのなんだよ。あっち側って」
「 はあ?俺そんなこと言ったっけ?」
面倒なので適当にごまかすと、政木が鬱陶しくヒートアップした。
「 何だよ、その顔は斉藤は何のことか分かってんだろ?仲間はずれにすんなよなー」
「 何でもないんだよ。俺の勘違いの話なんだからさ」
斉藤が言った。勘違いってことは、俺らは斉藤のこっち側に入ったんだろうか?
「 もっと意味不明な説明すんなよ。言わねえならメガネ返さねえからな」
政木が斉藤の顔から細めの黒ぶちのメガネを奪い、頭上に掲げた。
政木より背の低い斉藤には取り返せないと言いたいのだろう。
「 あほか。椅子に乗ればとどくだろ」
俺が言うと、政木は斉藤の隣の席の椅子に登り、ちょっと考えてから机に登った。
「 小学生じゃないんだから。メガネないと困るよ、話すから返してよ」
席に座ったまま政木を見上げる斉藤が呆れて溜息を吐いていた。
かなりメガネの度が強いのだろう、実際は意外に目が大きく別人のような顔になってしまった斉藤は、政木の顔も見えづらいのか政木を見上げたまま小さく視線を揺らしていた。
「 う。話すんなら返してやろう」
政木が降りてきて椅子に座った。ほんとにあほだろこいつ。
「 大した事じゃないよ。さっき来てたみたいな派手な人達をあっち側って言ってただけだよ」
政木は怪訝な顔をして、まだ眼鏡をかけていない斉藤を見ていた。
「 こっち側は誰なんだよ?お前か?」
「 俺が言ったんだから当然そうなるね」
「 なんだよこっち、あっちって。俺はどっちなんだよ」
政木が機嫌悪くなってきた。気に食わなかったらしい。
「 君がそういうこと気にしてないのはもう分かってるよ。ただちょっと君と仲良くなる前に勘違いしてただけだよ」
斉藤がそう言うと、政木が表情を緩めた。気持ち悪。仲良くなったって言われて明らかに喜んでいる。
「 勘違いって何だよ?」
政木はニヤリとして再びわざとらしくメガネを頭上に掲げた。
「 もう返してってば。政木は俺らみたいなオタク、あ、将棋同好会ね、と関わる感じには見えなかったって、前に秋吉に話したことがあっただけだよ」
政木があっけにとられた顔をした。
「 はあ?斉藤ってオタクなのか?」
政木の言葉を受けて、これまた豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をした斉藤に、耐え切れず噴出してしまった。
「 こう言う奴だよな」
笑っていると、斉藤がげんなりとした。
「 君が皆に愛される理由が何となく分かったよ」
「 お?お前も俺を愛してんのか?」
ふざけた政木に斉藤がため息を吐きながら答えた。
「 はあ。愛してるよ。これからも仲良くしてね」
斉藤が政木に陥落してしまった。
そして相変わらずあほな政木が真っ赤になっていた。照れるならそんな質問すんなよ。
「 オタクって言っても斉藤が好きなのって、将棋とかロボットとかだろ?程度が違うだけでそんなの誰でも好きじゃん」
俺が言うと、斉藤が少しだけ不貞腐れた。
「 誰でも好きかはともかく、僕らみたいにインドアな趣味にのめり込む人間をまとめてオタクだって差別する人らもいるんだよ。君たちはそうじゃないから分かんないのかもしれないけどさ」
「 そんなのお前がそっちから勝手に壁作ってんじゃねえの?確かに、田島みたいなところ構わず相手構わず、萌え美少女への愛を語るような奴はちょっときついけどよ。お前はそうじゃないんだし」
「 確かに田島は俺もきつい」
俺も政木に同意した。田島とは、同じクラスの男子だ。語るだけならまだマシなのだが、自分の趣味を人にも押し付けようとするところが迷惑な奴だ。
「 一応オタク仲間なのかもしれないから気の毒だけど、俺も田島はきついよ」
斉藤も悲しそうに同意した。
「 あれは好きでやってんだから斉藤が気に病む必要はないんだよ。それにお前はオタクじゃねえ。いや、将棋オタクでロボットオタクなのかも知れんけど、人をあっち側こっち側仲間分けする必要はねえ。どうしても分けたいなら、田島があっち側で、後は全部お前も俺も涼も将棋部もこっち側だ。いいか」
斉藤が政木に頷いた。
「 今日は説得力あるね。そうだね、そういう考え方はやめるよ。自分で自分を差別してるようなものだったんだね」
納得した感の斉藤を見て思った。
「 意外だな。斎藤、そういうの気にしなさそうなのにな」
「 そうだぞ。お前にその卑屈な考え方は似合わん。何でそんなこと思ってたんだよ、あほだろ」
斉藤が今度こそはっきりとムカついた顔を政木に向けた。
「 俺だって、好きで卑屈になってたんじゃないし。実際人に蔑まれた経験があるからこうなったんだけどね。しかも君の仲間にも蔑む側の人が居たから、君もあっち側だと思ってたんだよ」
「 なるほど。それなら納得だな」
俺が斎藤に同意していると、しばらく何を言われたのか理解が出来ないようだった政木が椅子と机を盛大にガタガタ言わせながら立ち上がった。
「 何い!?誰だ!?誰に何言われたんだ。ぼこぼこにしてきてやる!誰だ!?」
斉藤は政木の勢いにすっかり腹立ちを消して、むしろ引いた顔をした。
「 落ち着いてよ。君の友達を減らす気はないよ。もう気にしてないし」
「 俺の気がすまん!」
斉藤が、興奮して立ち上がっていた政木の腕に手をかけて言った。
「 それより、メガネ返して」
政木は気が抜けたように椅子に腰を降ろすと、斉藤にメガネを渡した。
「 前言撤回だ。お前を差別するようなクソどもがあっち側で、後は全部こっち側だ」
仏頂面でそう言った政木を、メガネを装着した斉藤が嬉しそうに見ていた。
「 同感」
一応俺も意見を表明したが、あれ、こいつら良い感じじゃねえ?俺をのけ者にして二人で仲良くするつもりか?俺、結構それ困るぞ。
ほぼ毎日だった更新を、しばらく2日に1回にしようと思っています。
毎日楽しみにしてくださってる方がいらっしゃったらすみません。
大体偶数日の夜更新予定です。大体で重ねてすみません。
次回大事件が起きます。これからもよろしく願いします。




