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はい、いやでも、

話しながら歩くとか、デートみたいだ。あまりに緊張するので太朗に助けを求めることにした。

太朗は丁度、車道に駆け出そうとしては彼女に後ろから体操着の背中部分を鷲掴みにされて軌道を修正されていた。

かなり荒っぽいが、手を繋ぐのを物凄く嫌がるのでしょうがない様だ。野放しにすると間違いなく一瞬で車にひかれるし。


「 太朗肩車してっていいですか?危ないですかね?」 

彼女に却下された場合にまずいかも知れないので、太朗に聞こえないよう小声で彼女に尋ねた。

彼女はまた嬉しそうに笑ってくれた。

「 ありがと!真っ直ぐ歩かないから助かるー。絶対歩かせる方が危ないし」

彼女の笑顔にどぎまぎしながら頷いて、太朗の頭を軽く叩いた。

「 太朗、幼稚園まで肩車するか?」

太朗が後ろにひっくり返るんじゃないかというほど勢い良く俺を見上げ、すぐに俺に尻を向けた。

「 しゅる!」 

そして、早く持ち上げろとばかりに、ペンギンみたいに腕をばたばたさせた。

苦笑しながら驚くほど軽い太朗の身体をひょいと持ち上げると、今日は勝手に足を開いた。

「 上手いじゃん。昨日のはなんだったんだよ」 

昨日の100分の1くらいの時間で乗せられたな。


「 昨日は時間かかったよねえ」 

彼女が歩き出した俺の真横から太朗を見上げた。

しまった。太朗を追いかけなくて良くなった彼女が、完全に俺の隣を歩き出してしまった。物凄く近くなっちゃったぞ!

緊張をなくすために太朗を肩にのせたのに、一層どきどきが酷くなったじゃん!

しかしやっぱり太朗のおかげで、すぐに動悸など気にしていられなくなった。

「 暴れるなって。動くなら危ないから降ろすぞ」 

「 いーや!」 

「 じゃあ、じっとして、ちゃんと頭に掴まってろよ。痛て」 

「 太朗!髪の毛は引っ張ったら駄目。お兄ちゃん痛いでしょ。髪の毛じゃなくて頭に掴まって、あたま」 

「 あたまってなにー?これー?」

「 痛て」  

「 それは髪の毛。頭知ってるでしょ?うーん、おでこ!おでこに掴まって」

「 おでこーここー?」 

「 しょう!しょこー!オッケイ!」  

彼女が身振りを加えて、何とか太朗の手が俺の額に落ち着いた。 


「 太朗昨日、生まれて初めての肩車だったからねー。全然やり方分かってなくて面白かったよね」 

歩き出した彼女が俺を見上げる。今日は動くからかスニーカーを履いているので、昨日までよりちょっと小さく感じる気がした。

まあでも極めて小さいって言う訳でもない。153とか4とか5だろうなと思う。顔が小さいので近くで見るととても小さい感じがするのだ。

「 ああ、初めてでやり方が分からないからあんなに頑なに足閉めてたんですか?」 

「 だろうねえ。太朗が肩車を知ってたことにまず驚いたんだけどね。やっぱりどこかで見てるのねえ、テレビかなあ?」 

三歳で肩車デビューか、そんなもんなのかな。

「 ほんとにありがとうねー。太朗すごく楽しそう」

彼女が俺の顔を見上げて笑顔で礼を言った後、嬉しそうに太朗を見た。

「 確かに楽しそうですね。こんだけ喜んでくれたら俺も嬉しいです」 

いや彼女が嬉しそうだからってだけではなくて、ほんとに、太朗大喜びだから。 


旦那はやらないんだろうか。家族で腰痛もちって言ってたな。旦那もなのかな。

「 うち男勢も腰が良くないからねー。抱っこが精一杯なのよね」 

やっぱりそうみたいだ。でも勢って?じいちゃんもってことかな。何か太朗気の毒だなあ。

父ちゃんの頭の上に持ち上げてもらって飛行機になったり、父ちゃんの肩に立って天井にタッチとかやったことないんだろうか。

あんなの小さいうちにしか絶対経験できないのに勿体無いなあ。高いところ好きそうだし後でやってやろ。

わざわざ聞きたくはないが、俺がここにいる理由でもあるし、話の流れ的に聞かないと変な感じなので一応尋ねた。

「 あの、今日は他の家族の人は?」 

「 延期が続いたから、あたし以外仕事で都合がつかなくなっちゃって」 

「 そうですか。梅雨の行事なら室内にしたほうがよさそうですよね」 

彼女がもう少し何か言いたげな顔をしているように見えたが、旦那の話は詳しく聞きたくもなかったので気付かない振りをした。

俺って性格悪かったんだなあ。知らなかった。



駐車場は彼女の言ったとおり満杯だった。

駐車場だけではなく園庭も人でいっぱいだった。

「 あんな停め方してたら奥の方の車絶対出られないですよね・・・」 

呆れた俺に彼女が笑った。

「 そうなのよ。出るとき困るの。それでもやっぱり小さい子連れてると歩きたくないのよねえ」

そう言う彼女もわりと大きめの荷物を肩に下げていることに今更気付いた。

「 スミマセン!俺、荷物持てば良かった、気付かなくて」 

ばか俺!何で気付かなかったんだ!

後悔して謝る俺を見て、彼女が笑った。

「 あはは何言ってるのよ。一番でっかい荷物持ってくれてるじゃん!」 

彼女が嫌がって抵抗する太朗を俺の頭から抱きとりながら言った。

「 一人だったら、荷物持って太朗抱っこして歩くんだから。今日はお兄ちゃんのおかげで凄く楽だったよ。この子進むべき方向に進まないから、結局嫌がって暴れるのを抱えて歩くことになるし」 

「 そりゃ、腰も痛めそうですね。太朗お前、せめて母ちゃんとふたりの時はまっすぐ歩けよ」 

太朗はそう言った俺を完全に無視して、園児達が集まっている場所へと走りだした。

「 聞いてないね」 

「 聞いてないっすね」 



イベント開始まで少しだけ時間があるようだ。

園庭を見渡すと、中央を空けてその周りを囲むようにたくさんの大人達がシートを広げて座っていた。

老若男女様々で、一番少ない年齢層ではあるが、俺がいても何とか浮かない感じだった。

彼女がバッグから出したシートを広げながら言った。

「 やっぱり高校生はほとんどいないね。高校生の兄弟いる子もいなくはないだろうけど、こういう行事恥ずかしがる年頃だろうしね」 

「 ああ、それで昨日俺が来るのあんまり乗り気じゃなかったんですか?」 

そんなに大きくない太朗の好みだろうキャラクターのシートに座って、隣をぽんぽんして俺を促す彼女にばくばくしてきた。俺そこに座るの?

「 乗り気じゃないって訳じゃあ。だってこんなに快く来てくれるなんて思わないじゃない?先生の勢いに押されて断りきれないのかと思ったし」 

不自然じゃない程度に出来る限りはなれて、しかもすぐ動けるよう靴は履いたままシートからおろして、彼女の隣に座った。

「 ああ、勢い良かったですよね」 

「 ねー。私の腰が悪いの知ってて心配してくれてたから、こんなところに元気の良さそうなのがいるじゃない!って思ったんだろうねえ、きっと」

確かに元気なら自信あるな。

「 ぎっくり腰って言ってましたよね?あれって若い人もなるんですか?」 

子供達を眺めていた彼女が眉を顰めて俺の方を見た。

「 それは、ぎっくり腰になるなんて若くないって言いたいの?」 

焦って首を振った。

「 違います!年は大体分かります。宮本と同じなんでしょう。若いのにぎっくり腰とかなるんだなーって思っただけで」 

あっさりと表情を崩した彼女が面白そうに笑った。

「 なるんだって、若くても。あたしはこう、無理な体勢から太朗を抱っこしようとして、ぎくっとなったんだけどね。お兄ちゃんもあんまり腰に負担かけないように気をつけて」 

「 はい、いやでも、どう気を付けていいのか分かんないし。まあ、気をつけます」

腰に負担と言う言葉であほなことに下を連想してしまい、しかも彼女と凄く近くに隣り合って話している状況に緊張もして、動悸が酷かった。


いたるところに散らばっていた小さな色とりどりのカラーキャップが教師のもとに集まり始めた。

ようやくイベントが始まるみたいだ。

顔が赤くなる前に立ち上がった。









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