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動き易い格好で

動き易い格好で10時までに幼稚園。おばちゃんに言われたのはこれだけだった。

彼女は、 気が変わったら無理しなくてもいいからね、 と言っていた。

心配だったので、俺が行っても良いのかどうかをもう一度確認した。

「 来てくれたらすごく嬉しいけど、無理しないで良いよほんとに。私も始めて参加する行事なのよ。先生のさっきの話聞いたら怖くなってきたわ。あたし運動苦手なのよー。しかも家族そろって腰悪くて、あたしもぎっくり腰経験者なの。太朗持って走るゲームとかあったらどうしよう」

「 やっぱ、絶対行きます」 

「 ありがとう!助かる!」

彼女の真剣な顔に俺が必要とされているのを感じたので、張り切って参加することにした。

当日は彼女以外の家族は来ないと分かっていたのが大きかった。

小学校の頃の遠足前日よりわくわくどきどきして布団に入った。



部活に行く日より余程早起きしてスタンバイしていたら、携帯がなった。彼女だ。

「 はい」 

「 おはよー。もうおうち出たー?」

朝から彼女の声を聞けて物凄く嬉しい。俺、どれだけこの人のこと好きなんだろう。 

「 いや、まだです。そろそろ出ようと思ってたとこです」 

「 ああ、良かったー。今日たぶん園の駐車場いっぱいになるから、少し離れたところに停めるつもりなのよ。待ち合わせしにくいから一緒に行かない?迎えに行くから」 

「 え?」

彼女が続けた。 

「 この前のコンビニでいいよね?電車とかで来るより車の方が早いでしょ?」 

「 それはそうですけど、いいんですか?幼稚園と逆方向ですよね、俺んち」 

彼女が笑った気配がした。

「 まあ逆だけど、近いからいいのよ。それに太朗のためにわざわざ休みの日に出てきてもらうんだもん。20分後くらいでいい?」

すみません。どちらかと言うと、母親のために行きます、俺。

「 はい。お願いします」

 


服はこれで良いんだよな。ジャージなの俺だけだったらどうしよう。

白地に紺のラインが入ったスポーツ用のTシャツに黒い部活用のジャージを見下ろした。

ジャージっていっても校外のプールまで移動したりするとき恥ずかしくないような、大丈夫なやつだ。大丈夫だろ。

コンビニの駐車場で自分の服を見下ろしていると、彼女の声がした。

「 おはよー。今日はありがとう、宜しくねー。乗って」 

彼女が朝から可愛い顔で笑ってくれて、俺は満足だ。ばくばくするのも幸せだ。

この間と同じように運転席の後ろのドアを開けると、後部座席の奥に太朗が座っていた。

「 あ太朗だ。おはよ」 

「 おにーちゃんぼくとよーちえんいくんなもんねー」

いきなりしゃべりだした。

「 太朗おはよーは?お兄ちゃん前にいーよ。後ろ狭いでしょ?」 

彼女が俺に声をかける。どうしよう、彼女と並ぶのも魅力的だけど、たぶん俺緊張しすぎてしゃべれないよな。

「 後ろでいいです。幼稚園行くよ。太朗、車乗っていい?」 

「 いーよー。どーじょー」 

小さい友達太朗が機嫌よく俺を迎え入れてくれた。


「 ねー、かたぐるまきょうもするのー?」 

太朗に可愛く尋ねられた。

「 え、俺分かんないなあ。でも先生がやるって言ってたからな、たぶんするよ」

太朗がにこにこした。

「 やったーかたぐるまー」 

「 お前、肩車言えるようになったな。すごいな一日で」 

おそるおそる太朗の頭に手を乗せてみる。子供の髪って柔らかいんだなあ。俺の毛とは全く違うな。

「 ぼくしゅごいれしょー」 

彼女が運転席で笑った。

「 昨日、帰りの車から寝るまで、ずーっと肩車の話ししてたからね太朗。500回くらい肩車って言ったんじゃない?」

「 そうなんですか。お前よっぽど肩車好きなんだな」 

「 しゅきー。ぼくねえ、おかあしゃんしゅきー」 

「 そうか、お母さんが好きなんだな」 俺もお前のお母さんが好きなんだよなあ。

「 今肩車の話でしょ」 

彼女が可笑しそうだ。

「 たたぐるまもしゅきー」 

「 たたぐるまに戻ったぞ」 

「 たたぐるまーかたぐうまー?たたぐうまー?」

「 肩車の3段活用か?お前天才だな」 

「 ぼくてんしゃいなないもん。しゃんしゃいなもん!」

噴出す声に前を向くと、ミラー越しに前をむいたまま楽しそうに笑う彼女が見えて、何だかすごく嬉しかった。 



今日だけ幼稚園が借りてくれているという銀行の駐車場に車を停めて、歩いて幼稚園に向かうらしい。

車から降りた彼女は今日も可愛かった。白シャツに濃いネイビーのスキニーデニム、そしてカーキのカジュアルなハットをかぶっていた。

後ろでひとつにまとめた髪も似合っていた。

「 俺、やる気出しすぎですかね?これ」 

自分のジャージを指し尋ねた。彼女がデニムだったからだ。俺も普通の格好で良かったんじゃないの?

「 大丈夫、お父さん達は皆そんな感じよ。あたし達は日焼けとか体型とか、色々都合がねー、あるからね」

前を見て歩く彼女の横顔が可愛く笑った。体型とかって言われるとついつい視線が彼女の身体をなぞる。

上半身より下半身が肉感的なタイプのようだ。上半身の細さのわりに、尻と太ももが色っぽい感じだ。

「 お兄ちゃん制服じゃないと感じ変わるね。やっぱり水泳部だけあって身体すごそうだし。お兄ちゃんと同じような格好でも、お父さん達は大概お腹出てるからねー」

褒められたってわけでもないのに顔が赤くなる。彼女が帽子のつばでこっちを見辛そうなのが救いだった。 











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