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清城高校の秋吉です

それから二晩、電話を片手に固まる事態に陥った。

迷惑がられるんじゃないかとか、何て話せばいいんだとか、ぐだぐだ考えてしまう自分が嫌だ。彼女の番号を表示するだけでばくばくしだす心臓にも情けなくなる。俺こんなにへたれだったんだ。



「 涼ー!いい加減にしろよ。こういうのは早めにやっとかないとタイミング外して気持ち悪い奴になるだけだぞ」 

「 気持ち悪いかはともかく、日が経つほど連絡しづらくなるのは確実だよね、ほんのちょっとしたお礼なんだからさ」

昨日は呆れたように傍観していた二人が、放課後ついに口を出してきた。

「 分かってるよ」 

分かってるけど、かけられないんだよ。俺だって毎日家帰ってから携帯とにらめっこで頑張ってんだよ。

「 今日中に連絡しねえと、明日の朝俺が彼女に声かけるからな。絶対今日電話しろよ」

政木がキレ気味だった。

「 何でお前がキレてんだよ」 

「 政木は君を心配してるんだよ。しゃべらないし笑わないしぼんやりしてるし、授業も聞けてないだろ?ちゃんとやってんのは部活だけじゃないか」

「 ・・・・」 

部活中の俺を斉藤は見ていないはずだが、何故か反論できん。 


「 そんなことになると思ったから諦めろって言ったんだよ。やっぱり酷くなってるだろお前」 

酷くなってるとは、俺が酷く悪い状態になってるということか、彼女に対する気持ちが前より酷くなってるということか。両方だろうな、うん確かに酷くなってる。

「 分かったよ。今日連絡する」 

「 良かった、頑張ってね。ねえ政木。明日の朝って、もしかして授業中に窓から叫ぶつもり?それはあんまりだから、秋吉の携帯で電話してあげたら?」 

斉藤の提案で、政木が明日必ず彼女に連絡することが非常に現実的になってしまった。

代理で電話してもらうなんて、子供みたいじゃないか。これは何がなんでも今日中に彼女に連絡しなくてはならない。



いつも通りバタバタと飯と風呂を済ませ、二階の自分の部屋で正座した。

部活を休んで頑張ろうかとも思ったが、結局ためらう時間が長引くだけなので止めた。

もう20時前だ。すぐに電話しなくては、子供は寝る時間だ。太朗が寝てしまってからでは迷惑になるだろう。

もしかするともう寝ているかもしれない、迷惑がられるんじゃ、と、言う不安が頭を過るが、政木の顔を思い出したことで何とか振り払えた。

政木に代理で電話されるのだけは嫌だ。

それがなくたって、今日かけなくても明日も明後日も悩むのは同じだ。

後ろ向き思考の闇に陥る前に、超気合で通話ボタンを押した。俺、この修行で強くなれるかも。


呼び出し音がなるが、どう考えても心臓の音が勝っている。俺の心臓って結構力あるな、と変なことに気をとられていると、呼び出し音が止まった。

「 はい」 

彼女の声、だ、と思う。

「 あ、今晩は。あの、突然すいません」 

声を発しない彼女に、彼女は俺の番号を登録などしていないだろうと言うことに気付いた。だって俺、名乗ってさえいないし!

「 清城高校の秋吉です。この間は携帯持ってきてもらってありがとうございました」 

電話の向こうの空気が和らぐのを感じた。

「 ああ、お兄ちゃん?びっくりしたー。誰かと思ったよ」

やっぱり不審がられてた。 

「 すいません。携帯に番号残ってたんで勝手にかけちゃって」

「 あははーいいよー。どうしたの?」

彼女から穏やかに尋ねてくれたので、物凄くどきどきするけど、何とか話せそうだ。


「 えっと、いろいろお世話になったんで、お礼したくて、あ、っていってもただのお菓子なんですけど」 

「 えーいいのに気にしないで。今時の高校生ってちゃんとしてるんだねー。なんか気を使わせちゃってごめんね」 

いや、スミマセン。不純な動機なんです。男子高校生はたぶんいつの時代も全くちゃんとしてません。

「 いや、あの、ほんと大したもんじゃないんで。夕方幼稚園の駐車場に持ってっていいですか?」  

反応が怖かったがすぐに返事があった。

「 お兄ちゃんが来てくれるの?わざわざごめんね」 

迷惑がられてはないっぽい声だった。良かった。

「 いや、隣なんで」 

彼女が笑った。

「 そうだったね、近いんだった!いつ?」

「 あ、えっと、明日大丈夫ですか?」 

「 いーよー。じゃあ明日駐車場にいるね。17時過ぎ頃だけど大丈夫?」

「はい」

「あ、あと、お兄ちゃんの番号登録しといていい?」 

「 え、あ、はい」 

うわあ!やった!

「 あ、じゃああたしのも登録しといてー。明日都合悪くなったら連絡してね」 

「 はい」 

スミマセン!すでに登録してます!

嬉しさに身もだえしていると、彼女が言った。


「 あ、そうだ。あのねえお兄ちゃん。お願いがあるんだけどさ」 

「 は、はい?」

ななななな何だろう。ばくばくが急激にでかくなった。 

「 お兄ちゃんが知ってるとは多分気付いてないと思うんだけど、もし先生に聞かれてもあたしの携帯教えないでくれる?」 

サダオか!

「 あ、はい。了解です。何か付きまといそうだったですよね」

変な言葉になってしまった。

彼女が小さく笑った。

「 ねえ、そんな感じしたよね。と言う訳で宜しくね。えーっと、サダオがあたしのことでお兄ちゃんに何か迷惑かけるようだったら連絡してね。たぶんあたしの方が強いから」 

「 あ、はい。というか、たぶんじゃないですよね?」

「 あはは。そうね。あたしの方が強いわきっと」

すげえ、話題が宮本なのはあれだけど、彼女と普通に会話してる俺! 

赤くなる顔を気にしなくていいのが随分気が楽だ。すげえぞ電話。


「 宮本先生は同級生なんですか?」 

頑張って聞いてみた。何か話さないと速攻それじゃあねバイバーイと言われそうだ。

「 うん、そうなのよ。小中高いっしょだったの」 

「 げ、そんなに・・・?」

「 長いよねー。ちなみに保育園も一緒だったらしいけど憶えてないのよね。高校はねえ、中学校の近くに公立高校があったからそこに進む子多かったのよ」 

宮本太ってた上に存在感も薄いのか。すげえな。

「 宮本先生って確か第一高校ですよね。仲良かったんですか?」 

彼女も家があの辺ってことかな。第一って言ったらうちの学校と俺の家の間くらいだな。近いじゃん!

「 そうそう第一。まあ高校では一度もクラス一緒になってないし、そう仲良くもなかったんだけどね。小中で何度か同じクラスだったから、ほどほどに友達だったと言うか」 

「 そうなんですか」

特に仲良くもなかったってことか。やっぱりな。でも宮本は明らかに昔好きだったっぽかったよな。 

「 うん。ちっちゃくて丸いイメージだったんだけどねー。なんか形は変わってたね。中身は変わってないみたいだけど」

「 悪魔みたいだったんですか?」 

彼女が笑った。

「 何ー?あいつ悪魔みたいなの?あはは。いや、悪魔じゃなかったけど」 

彼女は面白そうに笑い続けた。良いな。楽しいなあ。ずっと話していたい。


「 あ、ごめん!太朗がお風呂あがるみたい。じゃあ、また明日ね」 

「 あ、はい」 

「 ばいばい。またねー」 

彼女が慌しく電話を切った。そうか、太朗は風呂に入ってたのか。入れてたのは旦那か。せっかく明日の約束を取り付けて、楽しい会話をできたのに、後味は最悪だった。









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