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残念 in教室

「 ねえ思ったんだけどさ」 

自分の席で弁当を食べだした斉藤が、目の前で横を向いて椅子に座っている俺に言った。

「 何?」 

「 君、彼女に傘借りたって言ってなかった?」 

「 おう、その手があったな!」 

俺が返事するより早く、パンを口に詰めた政木が答えた。

「 え?あれは借りたというか、くれたんだよ。100円だからって」 

「 そうなの。それじゃあ、傘返すのは口実にならないか。あーでも、傘と携帯のお礼したいからって言ったら1回は会えるんじゃない?」 

斉藤の言葉に背筋を伸ばして喜びかけたが、次の瞬間がっかりした。 

「 1回か・・・。1回だけ会えたってどうなるんだよ」

政木に頭を殴られた。

睨みつけたが嫌そうな顔で非難された。

「 お前なあ。それをさっき散々確認しただろ。どうにもならなくても会いたいって涼が言うから、斉藤も考えてんだろ」  

そうだった。

「 ごめん斉藤」 


「 いや良いけど。ほんとに政木って良い奴だね。びっくりしたよ」

斉藤が政木を見て笑いながらそう言うと、政木がわたわたしだした。

「 な、何言ってんだよ!お前は男のくせに素直過ぎなんだよ!普通思っても恥ずかしくてそういう事は言えないのが男子高校生だろ!お前実は女子高校生か!」 

照れて赤面し、口元を腕で隠すようにしている政木が滅茶苦茶気持ち悪い。

「 何赤くなってんだよ、気持ち悪いな。あ、そう言えば斎藤。俺の番号携帯に残ってるだろ?俺も斎藤の登録したから、斎藤も登録しといて」

「え、ああ、うん。分かった。この前のだね?」 

斎藤と会話していると、政木が割り込んできた。

「 ずりいぞ!なんでだよー斉藤。俺聞いたのに教えてくれなかったじゃんかよう。俺にも番号教えろよー」 

斉藤が笑みを引っ込めて、嫌そうな顔をした。

「 君、用もないのにしょっちゅうかけてきそうだから嫌だよ。学校時間外まで君の相手してる暇ないんだよ」 

将棋に連れて行った時点で政木のことを受け入れたのかと思っていたが、斉藤なりの線引きはしているようだ。

やっぱりいくら良い奴だって言っても政木を全部受け入れるのは鬱陶しいよな。分かる。

斉藤の優しいけどはっきり自分の言いたいこと言うところも好きだ。政木も斉藤の良さに気付いてメロメロなんだな。

「 政木、お前も頑張れよ」  

俺は彼女と仲良くなるから、お前は斉藤を攻略しろよ。

ショックを受けている政木が面白かった。

 



「 礼って何すればいいんだ?」 

「 え、それは分からないよ。自分で考えてよ。そうだ政木の方が詳しいよね。女の人にお礼」 

斉藤が政木に丸投げした。

「 礼?傘貰った礼かー。雨の日に傘忘れるだろー。で、女子に100円傘貰う、か。政木くん傘忘れたの?これあげる。お、サンキュー助かったよ。うーん、次売店で会った時にジュース奢るくらいじゃね?」

「・・・・・・」

彼女と何処の売店で会うんだよ。

「 残念。一人芝居までしといて、全く役に立たなかったね」 

大好きな斉藤にぐさりとやられた政木は、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。

「 なんだと斉藤このヤロウ!見てろよ。おい加野!知り合いに何か100円くらいのもんやって礼貰うなら何が良い?」

政木は近くの席に座っていた女子に説明もなくいきなり質問した。

「 お菓子!」 

意外にも即効で答えは返ってきた。

政木が得意げな顔で憎たらしく俺らを見下ろした。

「 ほらな」 

「 流石だね。俺には絶対真似出来ないよ。役に立たないとか言ってごめんね」 

にっこり斉藤に謝られて、微妙に赤くなった政木が口を噤んだ。斉藤が確信犯めいてきてるぞ。政木で遊んでるんじゃねえの。

「 良いんじゃない?お菓子。子供も食べられそうな安めのにしたら彼女も断らないだろうし」 

斉藤に言われて考えてみる。確かにあんまり大げさな礼だと断られる可能性もあるな。所詮高校生と大人だし。

「 いいんじゃね?子供用駄菓子詰め合わせと彼女用女子が好きそうなチョコとかで」

復活した政木も同意した。 

「 政木、選ぶの付き合ってあげたら?得意そうだし」

「 おう!まかせとけ」 

斉藤に乗せられて政木がその気になっている。今日は政木と買い物ということになりそうだな。まあ助かるけど。



放課後政木と共に菓子は購入した。店からの帰り、政木の助言でビニール袋からシンプルな紙袋に移したそれを持ち上げ政木に尋ねた。

「 それで、俺どうやってこれ渡すんだ?呼び出すのか?」 

「 呼び出しても、お前が幼稚園で待ち伏せしてもどっちでも良いんじゃねえの」

幼稚園で待ち伏せか。時間は分かってるから部活休めばそれも可能だ。でも他の母親の好奇の目にさらされそうだな。

高校生に待ち伏せされてプレゼント渡されるなんて、変な噂になって彼女に迷惑をかけたりしないだろうか。

「 いややっぱり礼するのに呼び出すのは変か。一回電話して駐車場に持っていって良いか聞いてみたらどうだ?」

政木が役に立つことを言った。

「 そうだな」 

確かに確認してからのほうが良さそうだ。

「 会う前に断られないように上手く言えよ。もう用意してるから持って行っていいかって」

今日最も重要な助言が聞こえた気がする。 

「 頑張る」

政木が不審そうな顔をした。

「 大丈夫かよ。俺が朝窓から言っといてやろうか?」 

「 いや、いい。自分で言う」 

せっかくの彼女と話せるチャンスを、みすみすお前に譲ってたまるか。











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