うん、俺頑張る in教室
昨夜は浮かれてしまったが、よく考えてみれば、彼女の番号を知っていたところでどうだというんだ。
用もないのに電話出来る間柄ではない。しかも俺は、例え仲良が良い奴にでも用がなければ電話等かけられない。自分が暇だからと連絡してくる政木とは違うのだ。
「 それで落ち込んでるの?」
斉藤に報告するのがすっかり日課になっている。
ついでに政木も聞いている。俺、人に悩みを話したりとか苦手なはずだったのに、恐るべし斉藤。何も聞いてこないのに話したくなるオーラが出てる。
「 かけりゃ良いじゃん。せっかく番号分かったんだからよ」
「 何て言ってかけるの?」
斉藤が政木に尋ねた。俺も聞きたいよ。
「 何てって?これ俺の番号なんで登録お願いしマース、でいいんじゃねえの?」
「 俺はお前とは違うんだよ。そんな電話は出来ん」
「 俺も無理」
斉藤はやはり俺の仲間だった。それに、彼女が俺の携帯から自分の携帯にかけたんだから、俺の番号はすでに彼女の履歴に残っている。
政木が呆れた顔をした。
「 じゃあかけんなよ。どうせ仲良くなったって人妻なんだからよ」
「 確かにそうだね」
斉藤、お前はどっちの仲間なんだ。
「 このまま会えなくなって終わりかよ」
呟いた俺の台詞を聞き取ったらしい地獄耳の政木が、馬鹿にした口調で言った。。
「 終わらなきゃどうするんだよ。略奪する気はないんだろ?お友達にでもなりたいのかよ」
そうだな、俺本当にどうしたいんだろう。
「全く望みのない好きな人とお友達ってきつそうだね。俺好きな人とかいたことないから良く分かんないけど。近くにいると諦めるのがいっそう難しくなりそうな気はするよ」
斉藤が残念そうに言い、政木が同意した。
「 そういうことだな。諦めたいんならこのまんま離れた方がいいんじゃねえの。友達でもいいから側にいたいとか言うんなら止めねえけどよ。どうせどうにもなれないんだから、青春時代を無駄にする覚悟で挑めよ」
俺は頭を抱えた。これ以上彼女と親しくなっても無駄なことは分かってる。彼女と俺がどうなるわけでもない。
「 ・・・・分かってるけど会いたいんだよ」
思わず恥ずかしい本音が声に出てしまったが、しばらくどちらも反応してくれなかった。
「 なんか可愛そうになってきたよ。そうだ、略奪する気がないなら、彼女が勝手に旦那さんと離婚するか死別するかの可能性にかけてみたら?それまでに一番仲良くなってたら、もしかしたら秋吉を選んでもらえるんじゃない?」
斉藤の言葉に俺も驚いたが、政木も同じだったようだ。
「 お前・・・。死別って・・・。不吉って言うか失礼すぎるだろ、旦那に。それにあったとしてもいつの話なんだよ。それこそ涼が人生を無駄にするだろ」
斉藤が感心したような顔を政木に向けた。
「 君、秋吉の人生の心配をしてるんだね。政木って良い奴だね。でも、女の子との関係ばかりが人生じゃないんだから、例え長い片思いになったって他のことをちゃんとやってたら大丈夫だよ。片思いが辛過ぎて何も手につかないとかになるんなら、さっさと止めた方がいいと思うけど」
斉藤が、すでに何も手につかない状態の俺を微妙な目で見ながら言った。
「 そうだな。要は涼が人妻を好きなままでちゃんとしてられるかってことだな。学校来なくなったり自殺したくなったりしないなら、このまま人妻を好きでいることを許可するぞ」
「 何でお前に許可とらなくちゃいけないんだよ・・・。でも、まあそうだな。頑張ろう色々。うん、俺頑張る」
斉藤案を採用しよう、離婚と死別の方。顔を上げて宣言すると二人がまた微妙な顔をしていた。
「 頑張るんだね」
「 ああ、頑張るみたいだな」
「 何だよ、何頑張るか分かってんのかよ」
呆れた様子の二人に尋ねると斉藤が答えた。
「 分かってるよ。彼女と仲良くなるんだろ、そして実る可能性が限りなく低い長い片思いを頑張るんだよね」
「 そして、もてるのは今だけかも知れないのに、可愛い子を全部振って寂しい高校生活を送るんだろ」
「 ・・・・・」
とり合えず昼飯食おう。頑張るって決めたら腹減った。
ごそごそカバンを探って昼飯を取り出した俺に、二人が軽くため息を吐いた。




