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ベッタベタだな

「 ベッタベタだな」 

政木に言われた。

「 うるせえなあ。お前に話したんじゃないんだよ。俺は斉藤に話してんの」 


胸のうちの興奮を誰かに聞いて欲しくて勿論斉藤を選んだ。政木は盗み聞きだ。

「 でも雨の日に傘借りて携帯忘れるなんて、確かに漫画とかドラマみたいだよね」 

斉藤が言った。

「 だよなあ?男の方が車で送り届けられてんのが情けねえけどよ」

政木がニヤついている。

「 お前ムカつく」 

「 あー、そんなこと言っていいのかよ。涼の携帯の履歴ほぼ俺だろ。彼女がお前の携帯から俺のにかけてきても替わってやんねーぞ」 

自宅の番号も家族の番号もそれと分かる名前では登録してない。確かに彼女が履歴から政木にかけてくる可能性はある。

「 勝手に待ち合わせして二人でお茶でもしてこよっかなー」 

「 てめえ」 

モジャモジャの髪を掴んで振り回そうと席を立ちかけたが、斉藤の声に動きを止めた。

「 反対じゃない?」 

「 え?」 

俺と政木は斉藤に注目した。

「 君が自分の携帯にかけるのが普通じゃない?そしたら拾った人が出てくれるよ。警察の落し物係の人かもしれないけどね」 

「 え?だって俺携帯ないし。どうやってかけるの?」

「 そりゃ俺の携帯からでも政木のでも良いし、自宅の電話でもいいし。お金かかるけど公衆電話でも」 

斉藤が律儀に俺の携帯以外の電話をリストアップし始めたので、さえぎった。

「 そうか、俺がかければいいんだな。さんきゅー斉藤。それとちょっと携帯貸してくれる?」 

斉藤はポケットを探りながら言った。

「 いいよ。でも没収されないように気をつけてよ」

うちの学校では携帯の使用は休み時間のみ、授業中に電源落とし忘れてバイブでもならせば週末まで没収だ。

頷いて斉藤の携帯を受け取ると、予鈴がなった。

次の休み時間に彼女に電話する。そう考えただけでばくばくしだした心臓に、俺電話かけられるのかなと、ちょっと不安になった。



「 おい。まだ電話しねえのかよ?」 

政木がまた俺の席に寄ってきた。

「 お前は、毎時間毎時間鬱陶しいんだよ。いちいちこっちまで来んなよ」 

手で追い払う仕草をするが、政木にはまったく効果がない。

「 人が居るとかけにくいんだろ?昼休みのうちに屋上か部室でも行ってかけて来なよ。政木はついていっちゃ駄目だよ。また秋吉が電話できなくなるから」 

斉藤が、早速俺に付いてこようとしていた政木の腕を掴んだ。

「 斉藤、お前神様みたいだな。じゃあ政木の相手は頼んだぞ」 

「 うん、気が進まないけど、俺もそろそろ携帯使いたいし。頑張ってきて」 

「 なんだよー。俺を邪魔者扱いすんなよー。傷つくだろー」 

携帯を掴んでない方の手で斎藤に感謝の念を送り、政木を無視して席を立った。



殆ど日の光の入らない薄暗い部室で、携帯に打ち込んだ自分の番号を見つめること数十分。

昼飯も食ってないのに、昼休みが終わりかけている。

タイムリミットが近い。

彼女が電話に出た時用のシミュレーションも、何度となく脳内で繰り返した。いけ、俺。やるんだ!

目を瞑って、光線がでそうな程の気合を親指に込め通話ボタンを押した。

毎度おなじみになってきたばくばくの心臓の音が携帯を当てることで耳に集まり、呼び出し音が聞こえにくい。

しかし朝から今まで緊張し続けた甲斐なく、覚悟していた落し物係でさえ俺の電話に答えてはくれなかった。

留守電に切り替わり、がっかりして斉藤の携帯を閉じた。


昼休み時間内に2度目をかける気力はなかった。

しばらくギイギイ音をたてる折りたたみ椅子にもたれて放心し、何とか立ち上がろうと上半身を起こした。

その時、手の中で斉藤の携帯が震え、俺の番号が表示された。

ばくばくの再開だ。落ち着け俺。落し物係のおっさんかもしれないんだ。とにかく落ち着け。

深呼吸したが、呼吸が震えて全く深呼吸にならなかった。

切れる。とらなくちゃ。

通話ボタンを再度物凄い気合を込めて押した。

「 はい」 

はいってなんだよ。お前がかけたんだろ!お前が携帯探してんだろ!

「 えっと、携帯拾ってくれた人ですか?俺昨日その携帯落としたみたいで・・・」

何とか言葉を続けた。

「 ああ、良かったー。お兄ちゃん?」

彼女だ。

耳に直に入ってくる彼女の声に脳みそが揺れた。

「 ごめんねー、昨日気付いたら良かったんだけど。どうしよっか」

「 え?」 

「 学校に持って行けばいい?昨日ぐらいの時間に子供の迎えに行くから、それからだったら持っていけるけど」 

「 え、えっとじゃあ、あの、頼んでもいいですか」 

「 はーい。じゃあ正門のとこでいい?車入れるかな」

「 あ、はい。大丈夫、だと思います」 

「 りょうかーい。じゃあ後でねー。ばいばーい」 

ゆっくり落ち着いた話し方と可愛らしい見た目のわりに、さっぱりした性格のようだ。さくさくと話を進められて電話を切られてしまった。

もうちょっと話していたかった。

でも、夕方会える!やった!



「 ありがと」 

斉藤に携帯を差し出して言った。

夕方彼女に会うまで借りてた方が安心だが、斉藤も携帯使いたいって言ってたししょうがない。

「 連絡ついたの?」 

「 ああ、政木には黙ってて。ついてくるから」 

今政木は廊下で奴を尋ねてきた他のクラスの奴らとしゃべっている。

1年の頃から賑やかで人気者だったのだ。なんで俺のとこばっか来るんだろう。男女問わず友達はめちゃくちゃ多いはずだ。

「 なんか可哀想な気もするけどしょうがないね。ついて行きたがるの間違いないからね」 

斉藤が廊下の政木と派手な仲間達を眺めながら続けた。

「 政木って意外だったよ」 

「 え?」 

斉藤の言いたいことが分からず聞き返す。

「 いや、将棋ついてきただろう昨日。ああいう人達の仲間だと思ってたからさ」 

「 ああ、確かに。まあなんか違うんだろうな」 

政木は派手なイケイケ集団の中心に居ても違和感がない奴だが、斉藤を筆頭とするオタクよりの将棋部にも難なく溶け込んだことが容易に想像できた。

そう言う奴なのだ。

「 君に似てるね。まあだからこそ君と仲良しなんだろうね」 

斉藤が気持ちの悪いことを言った。

「 似てないし、仲良しってなんだよ。大体俺はあのイケイケ集団とは仲間じゃないし、なりたくない」 

斉藤はくすくす笑いながら答えた。

「 ああそうだね、君は好んであの人達と関わることはないか。まあでも二人とも、周りからみたらあっち側の人だってことだよ」

「 はあ?嫌だよ。何だよあっち側って。斉藤のこっち側に入れてくれよ。政木はあっちでもいいけどさあ」 

情けなく頼むと斉藤が笑った。



放課後政木は俺じゃなく斉藤のとこに来た。

「 斉藤将棋行こうぜー。昨日のメガネと雪辱戦だ」 

斉藤が嫌そうに言った。

「 俺もメガネだし。あの部屋8割がたメガネなんだから名前覚えてよ」 

そして政木は「 じゃあなー涼!部活頑張れよー」 とうきうきで、迷惑そうな顔の斉藤と無理矢理肩を組み行ってしまった。

政木のまとわりつきの被害を斉藤が分かち合ってくれるということが決定した瞬間だった。

いやでも、水泳部には流石についてきていなかったから放課後は派手な仲間たちといたんだろうと思うけど、そんなら放課後政木に付きまとわれる斉藤は余計な被害を被ってるのか?

被害拡大じゃないか。










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