6.25 ぽこん in教室
彼女と視線を交わす夢のような日々はほんの数日で終わりを告げた。
ぽこん。
彼女の車を見送っていた俺の頭が軽い衝撃とともに変な音を立てた。
「 秋吉。お前最近外ばっかり見てるな」
まずい。今日の1時限目は担任の授業だった。
いつの間にか俺の真横に、丸めた教科書を手にした宮本が立っていた。
他の教師なら注意か嫌味か苦言で済むが、担任に目をつけられるとまずい。
「 俺の授業が退屈な所為だろうから、外を見るなとは言わないけどな」
宮本がにやりと悪魔の笑みを浮かべた。
「 もっと有効な手段がある」
「 席替えられてやんの」
俺はつい先程自分の物となった、元は政木のものだった机に突っ伏して後悔していた。
しかとしていると、政木が続けた。
「 まあ、いい機会なんじゃねえの?どうにもならなくなっちまう前に止めたほうがいいんじゃね?」
勝手なこと言うなよ。それに、もうすでに手遅れっぽいんだよ。苛立ちを込めて睨んだが、政木はポンと俺の肩に手を乗せ言った。
「 人妻に恋するのは、アイドルに恋するより虚しいぜ」
もう一度机に突っ伏すと、俺のすぐ後ろの席から斉藤の声が聞こえた。
「 しかも子持ちなんだね?俺も、漫画の登場人物に恋するくらい虚しいことだと思うよ」
何とか二人に聞こえるよう声を絞り出した。
「 うるせえ」
うるさい。もう何も言うな。どうせもう手遅れなんだから。
「 お前を政木の近くにやると、今度は政木が授業聞かなくなるからなあ。どうするかな。やっぱり政木とお前がチェンジだな」
宮本の阿呆にそう言われて席を替えられてしまってから、政木が彼女観賞の特等席についてしまった。
とは言え、政木が俺の様に彼女を探すことはなかった。
当たり前か。俺だって彼女に気付く前は、政木と同じく朝の睡魔と闘う時間帯だった。
いや、政木は戦ってさえいなかった。お前はそれで大丈夫なのかと言いたくなるほど寝てばかりだった。
ああ何やってんだ俺。彼女が見られなくなったからって政木を観察してどうするんだ。
「 ねえ、政木眺めてて楽しい?」
後ろから斉藤の声だ。
「 楽しくない」
雨ばかりの空のように、俺の身体の中も毎日どんより暗く曇っていた。




