6.21 政木の所為だな in教室
喜んで良かったようだ。
初めて目が合った日から、彼女は、車から降りると俺を見て笑いかけてくれる様になった。
授業中だと分かっているのだろう。手を振ってくることはなかったが、笑ってくれるだけで踊りだしたくなるくらい嬉しかった。
学校に行くのが待ちきれなくて、必要以上に早起きしてしまうほどだった。
「 おい、楽しそうだなあ涼」
政木がわざとらしくニヤつきながら寄ってきた。
無視していると、政木は窓の外を眺めながら俺の前の席にこっちを向いて座った。
残念だが彼女はとっくに居ない。
「お前、ご機嫌過ぎだろ。いくら可愛くても人妻だぞ」
「お前に関係ないだろ」
政木は相変わらずニヤけたままだ。
「 ムキになっちゃってー。お前が女に興味持つって初めてじゃねえ?」
確かに今まで彼女ほど気になる女子はいなかったけど、政木とは高校に入ってから知り合った、まだ1年とちょっとの付き合いだ。
「 そんなのお前が知るわけないだろ、ほっとけよ」
政木が「 なにい?」 と俺の鼻を掴もうと手を伸ばしてくるので叩き落した。
「 お前、1年の時から何人に告白されてると思ってんだよ。2組の佐々木も5組のもえちゃんも能面みたいな面で振りやがってよお。あんな可愛いのにお前は何考えてんだ。世のモテねえ男子に喧嘩売ってんだな?」
数人の女子に告白されて断ったのは事実だが、少なくとも政木の目の前ではなかった。
俺が能面みたいな顔をしていようが、こいつが知るわけはない。
大体お前は能面見た事あんのかよ。
鬱陶しいから黙れよと冷たい視線で返したが、政木はニヤニヤしたまま続けた。
「 ついにイケメンに彼女がいない原因が判明したな。人妻好きかよ」
無言で奴の脳天にチョップを落とした。
人妻好き。
嫌な言葉だ。
『人妻』って言う単語が嫌だ。
年上好きと呼ばれるのならまだ我慢できる。
クラスの女子達を見ても何とも思わないので実際そうなのかもしれない。
しかし、人妻は嫌だ。何処の誰が、わざわざ人妻を好きになるんだ。
人妻って、人の妻ってことだぞ。
誰かの妻ってことだ。誰か、俺が知らない男の。どこかの大人の男が彼女の旦那なんだ。
その男とつくった子供を抱いて。その子供をぎゅっと抱きしめて、ちゅうちゅうし合って。
初めて彼女の旦那を想像したことと、駐車場で数回見た彼女と幼い息子のラブラブな様子を思い出したことで、なんか物凄く胸が痛くなってきた。
政木の所為だな。よし、もう一回殴ってこよう。




