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6.17 バクバク in教室


そしてその日も突然やってきた。

今度は政木のおかげでやってきた。

彼女の観賞時間である1時限目が自習だったのだ。


またもや俺が不審者に成り下がっていたその時、背後から俺の頭上に政木が現れた気配を感じた。

「 ああ!もしかしてあの人!?」 

政木がそう声を上げた次の瞬間、彼女が笑った!自分の子供に笑いかけたのでも、他の母親に挨拶したのでもない。

間違いなく俺の方を見て笑ったのだ。

そして、こちらを指差しながら子供に何か声をかけると、今度は子供と二人でこっちを見て、何と笑顔で手を振った。


可愛かった。子供じゃない、彼女だ。笑った顔は、心臓を止められたかと思うくらい可愛かった。

経験したことが無いぐらい心臓がバクバクして、小さく手を上げ返すのが精一杯だった。


「 確かに可愛いな。でも子持ちかー、残念」

政木の声にその存在を思い出し頭上を見上げると、奴が孫の船出を見送るじいさんのように大きく両腕を振っていた。


お前にか。彼女はお前に笑ってんのか。

「 死ね政木」  

すぐそこにあった政木の腹にグーで一撃を見舞った。

「 ぐえ」 


勘違いで手まで振ってしまった自分がめちゃくちゃ恥ずかしくて、思わず彼女の様子を窺った。

彼女は、「恥ずかしい勘違いに気付いた俺」、に気付いた様で、今度こそ俺に笑いかけながら、まあちょっと苦笑っぽい感じにも見えたけど、もう一度小さく手を振って園の方へ向かっていった。


うう。これは政木に感謝すべきなのか。しかし恥ずかしすぎる。悶えていると頭に衝撃が走った。

「 いて!」 

政木が俺の頭頂部に肘鉄を落としてきたのだ。そして逃げて行った。

ニヤニヤする政木を一睨みし、じんじんする頭を押さえながら外を見ると、子供を園に置いてきた彼女が運転席のドアに手をかけ乗り込むところだった。


彼女が車内に身体を移す寸前に一瞬こっちへ視線を向けた。

無意識だったのだろう。一度通り過ぎた視線が、まだ彼女を見ていた俺に驚いたような表情で戻ってきた。

まずい、と思ったが、そうではなかった。


彼女はいつもの不審な顔を見せることなく、しっかり俺に目を合わせにっこりと笑ってくれた。

そして、さっきと同じく力を振り絞って小さく上げられた俺の手を待つことなく、車に乗り込んだ。


ど、どうしたらいいんだ。喜んでいいのか、がっかりしていいのか分からない。またもや、無駄に上げた自分の手がむしょうに恥ずかしかった。








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