最終話 答え合わせ
リアムが出掛けて行った後、私はすぐに眠りについた。
そしてまた、あの夢を見た。
雪が降り積もっている。以前よりも量を増して。
それでも花に降り積もる雪は相変わらず、壊れ物にでも触るかのような優しく静かな積り方をしている。
なんだか以前より蕾が開いている気がする。
私が見つめている今も、蕾は少しずつその口を開けてゆく。
この花は、枯れずに咲くことが出来そうだ。枯れずに育ったこの『想い』は誰に向けたものだろうか?
私は眠る前に手繰り寄せていた記憶を、夢の中のぼうっとした頭で必死に思い出す。
その白い花を見ていると、少しずつ思い出す。
美しい、優しく微笑む中性的な顔。
そっと撫でる、時には私を包み込むあたたかな手。
私を壊れ物のように大事に抱きしめる、逞しい腕や体。
額に落とされる、普段は私を優しく甘やかすテノールを紡ぎだす柔らかな唇。
白髪なのかと問うた、その星の輝きのような銀の髪。
ああ、そうか。
これは、彼への想いなのだ。
思い出した途端、花弁が一気に開いた。
花は、咲いた。
それは華やかで、それでいて繊細で、美しい白い大輪の花だった。
花弁に小さな深い蒼を点々とのせていて、主な色は雪のような白。
この花は、私にとっての彼、そのものなのだろう。
彼という『華』は、私の中で『恋』という形で咲き誇っていた。
「カミーユ、カミーユ」
優しく私を呼ぶ声がする。心地のいいテノール。
「カミーユ、起きて」
ずっと名前を呼んでいてほしくなる、その甘い声。
「カミーユ」
ゆっくりと、重い瞼を押し上げると、そこにいたのは今一番会いたかった人。
「おかえり、リアム」
「ただいま、カミーユ」
私は彼を抱きしめる。彼も私を抱きしめた。
カミーユ・ラ・オルレアンは婚姻を結んだ。
相手は精霊のリアム。カミーユと契約していた精霊である。
ここ数百年行われることのなかった精霊との婚姻だということで、当時の人たちは驚きと喜びに湧いたという。
オルレアン家は一人娘だった彼女が継ぎ子を成せなかった為、養子を3人ほど引き取ったという。
家族仲は良いと評判であったそうだ。
彼女は息を引き取る前に、精霊リアムにこう伝えたという。
「貴方はとても美しく、いつまでも優しく私の中で咲き誇っていてくれたわ。もしてかして枯れてしまうのではないかと不安に思ったこともあるわ。でも最期まで枯れずにいてくれた。
どうか私がいなくなってしまっても、泣かないで。私はずっと、貴方の心に咲き続けるわ。私の心に花を咲かせてくれた、貴方のように。
愛しい私の雪の華。どうか最期はいつもの優しい笑みで、私を見送ってちょうだいね」
そう言って、彼女は息を引き取った。そして精霊リアムはそれに答え、優しい笑顔のまま彼女を見送ったと言われている。
彼女が亡くなり、契約を終えた後も精霊リアムはラスコー王国に留まり、養子の3人の最期を見届けてから、ラスコー王国を後にしたと言う。
これは雪の華と呼ばれた精霊に愛された女性と、その精霊のお話である。
如何だったでしょうか。
思いつきで書き始めて1日で書き上げたやっつけなお話だったので詰めの甘い所が沢山あったとは思いますが、楽しんでいただけたなら嬉しく思います。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。




