レジスタンス
ウィンとクラーラを出会わせて使命を果たした俺は、『超兵器』と戦う意思はないが、元の世界に帰りたいという希望は持っていた。
こちらの世界に馴染むことができればその必要はないのかもしれないが、あのような得体のしれない敵がうろうろしている環境で生活していくことなど、考えるだけで気が滅入る。
それに対して、やる気のユナは、『超兵器』についてクラーラに詳しい説明を求めていた。
クラーラによると、『超兵器』を扱う国家に、住民達は抑圧されて生活をしているのだという。
特に苦しめられているのが、国民の半数以上を占める、いわゆる『貧困層』だ。
一定以上の税を支払えない場合、男性であれば兵役の義務が課せられるなど、その締め付けは過酷だという。
そんな国家に対して反旗を翻し、抵抗勢力として、いわゆるレジスタンス活動を行っているグループがいくつか存在する。そのうちの一つに、クラーラは所属しているという。
そして、ここで彼女から、一つの提案が出された。
「ウィラード……ウィンがここに来てくれたことも、そして貴方達……強力な攻撃魔法の力を持ったファイタルシスの魔術師が一緒だった事も、全て神様の導きだと思っているわ。そこでお願い。私達の活動の、手助けをしてくれないかしら? ……もちろん、事情も分からないままこちらにやってきたばかりだから、すぐに返事が欲しいとは言わないけど」
なんか、ヤバイ方向に話が進んできた。
俺は元々、契約にしたがってウィンをクラーラの元に送り届けただけで、戦争に荷担するためにこの世界へと来たわけではないのだ。
しかし、冒険好きのユナとかは二つ返事で了承してしまうのではないか……と危惧したが、
「……私達、戦いに参加するために来たのではないので……」
と、予想に反して、俺と同じ意見だった。
「……僕は治癒術士だから、傷ついた人達を治す事に関しては協力出来る。でも、だからといって争いに参加して、新しい怪我を負うことには反対する」
ウィンも同意見だ。
ミリアは、特にコメントはなかった。
「……そう、残念……貴方達なら、『超兵器』を破壊出来るだけの火力があると思ったのだけれども……」
「……『超兵器』だけが攻撃対象なら参加することに抵抗はないけど、相手が人間だったら、それも、徴兵された一般市民だったら、私は戦いたくない……」
と、ユナが持論を述べる。
すると、クラーラの表情が、ぱっと明るくなった。
「そう、それでいいのよ! 元々私達の活動も、そうなのよ!」
「……そうなんですか? 『超兵器』だけだったら、やってもいいかも……」
なんか、一旦回避できそうに考えていた話が、ヤバイ方向に動いてきた。
俺とウィンで、この話は一度保留にして、今日のところは休みたい旨を伝えた。
すると彼女は、
「上の建物には、私達の仲間も住んでいるわ……そこでお願いなんだけど、今言った内容も含めて、私達の秘密を、外部の人間に漏らさないよう、契約を結んで欲しいの。もちろん、私達も貴方達の秘密を漏らすことはないわ。そういう契約魔法を使わせて」
クラーラは、それが俺たちをしばらく匿うための条件であると説明した。
まあ、お互いの秘密を守るというのは対等な条件だし、それで寝泊まりと、食事の用意をしてもらえるのなら、俺たちにとっては渡りに船だ。クラーラの提案に乗ることにした。
契約魔法はクラーラと俺たち一人ずつとの間で交わされた。
これで、秘密保守に関しては、それを漏らそうとしても言葉に出ず、文章にも書けなくなった。
それでようやく、上の建物に案内された。
夜間で人は少ないようだったが、それでも数人のシスターと出会い、皆一様に驚いた顔をしていた。
彼女たちには、クラーラが事情は明日説明するから、という趣旨の話をしたようだった。
そして俺たちは小さな食堂のような部屋でパンとスープの簡単な食事を摂った後、一人ずつ『温水シャワー』という非常に便利な道具で体を洗った。
その後、男女別に空き部屋へと案内され、そこでヘトヘトだった俺たちは、朝まで熟睡したのだった。
翌朝。
クラーラに起こされ、昨日と同じ部屋でパンとベーコン、目玉焼きという結構豪華な朝食を食べ、そして昨日の会議室へと通された。
するとそこには、二十歳代前半と思われる男性二人と、女性一人が席に着いていた。
全員、黒を基調とした修道僧、シスターの服装で、今日はクラーラもその格好だった。
俺たちは元の世界の冒険者装束そのままだったので、彼等からいぶかしげな表情で見られた。
すると彼女が、我々の知らない言葉でその男女になにか説明し、全員、目を見張ってこちらを見たのが分かった。
俺たちが若干戸惑っていると、
「彼等に、貴方達がファイタルシスから来たこと、そして超兵器の『RQ-4』、通称『クズリ』を吹き飛ばし、一時とはいえ行動不能に陥れたことを説明したら、驚かれたのよ」
と解説してくれた。
「……なるほど、じゃあ、彼等も『超兵器』を知っている、驚かれている……ってことは、レジスタンスのメンバーって訳か」
俺がそう確認すると、
「その通りよ。彼等も、私が契約魔法を使っているから、信用してもらって良いわ」
と彼女は答え、そして俺が男女を見渡すと、皆、頷いていた。
「……僕たちの言葉が分かるのかい?」
ウィンが一同に問うと、彼等はもう一度頷き、一際図体の大きい男が、
「ああ、クラーラがこういう日が来ることを見越して、俺たちにファイタルシスの言葉を教えてくれていたんだ。半信半疑だったが……本当だったんだな……」
わずかに笑みを浮かべながらそう言った。
「……正直、にわかには信じられないことだが、ファイタルシスからの転移者は過去十年で十件ほど報告されている。ガセ情報もあるが、本物としか思えない事例もあった。そして今回は、クラーラが間違いなく転移者だと言っているんだ、認めざるを得ないだろう」
理屈っぽくそう語るのは、眼鏡をかけた、少し痩せた男だった。
「……本当に、この言葉が理解できているみたいですね……私の名前はケイトです。よろしくお願いしますね」
ニッコリと微笑む、見た目はクラーラと同じぐらい、つまり二十歳ぐらいの美人。
その美しさに、俺も頬を緩めて挨拶すると、なぜか隣の席のユナが肘で俺の脇を突いてきて、思わず顔をしかめた。
彼女の挨拶がきっかけとなって、互いの自己紹介が始った。
痩せ形、眼鏡の男の名前はカリムという名で、レジスタンスの参謀役なのだという。
大男は、名をグラドといい、レジスタンスのサブリーダー的な存在だ。
リーダーは、クラーラということになる。
そしてケイトは、おしとやかな感じの女性で、シスターにして、医師見習いなのだという。
ユナ、ミリアの自己紹介の時は、それぞれ掌の上で小さな電撃、火炎の基礎魔法を発生させ、三人に驚かれていた。
ウィンは得意の回復魔法を披露。
グラドの左腕についていた古傷を、高度な治癒魔法でほとんど分からないぐらいに目立たなくして、全員から驚愕の声をあげられていた。
最後に、俺については、他の三人のように派手な魔法は使えない。
しかし、クラーラから
「彼は、理想の結婚相手を見つけられる、神から授かった特殊能力を持っているの」
と紹介され、カリム達三人からは胡散臭そうな視線を向けられてしまった。
あと、もう一人仲間がいるそうだが、彼は住み込みでこの教会で働いているわけではないので、少し遅れて来るということだった。
すると、ちょうどそのタイミングで一人の若者が、会議室に飛び込んできた。
「すみません、遅くなっちゃいました……うわあ、この方達がファイタルシスからの転移者ですか……すごい、皆さんカッコイイです!」
二十歳手前ぐらいの、調子の良さそうな青年だ。
どこかで見たことがあるような気がして記憶をだどり、そして気付いて、鳥肌が立つような思いだった。
「ユナ……彼だ……」
「……なに? なんの事?」
「……ハルの相手だよ」
「……ええっ!」
ユナが、驚いて声を上げ、逆にそれに驚いた一同が、彼女を見つめた。
そして俺は、ワノクニで、俺に抱きついたり、くっつくように歩いたりしていた一人の少女に思いを馳せていた。
少女ハルが最も幸せになれる結婚……その彼が、今、目の前にいる。
そして俺は、彼女と、その両親にした約束を思い出していた。
ハルにとっての理想の結婚相手を、向こうの世界から連れてくる、と。
ふと、そんな感慨に耽っていると、皆の視線が、大声を出したユナではなく、俺に集まっていることに気付いた。
「……どうしたんだ、俺、何かまずいことしたか?」
隣で、すこし驚いたような顔をしていたユナに尋ねた。
「タク、一瞬で雰囲気が変わった……ついさっきまで、やる気なさそーな感じだったのに、急に顔つきが鋭く……正確には、戻ったって言うべきかな」
「戻った?」
「そう。ウィンとクラーラを会わせるために、私達を引っ張っていてくれていたときみたい」
そのユナのセリフを聞いて、思い出した。
『究極縁結能力者』の力のためかもしれないが……恋人同士を引き合わせようとするときに、自分でも不思議に思うぐらいに、力が湧き出てくるのだ――。




