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19.アレインの勇気

アレイン視点です

 

「おい、俺達は先に屋敷に行くぞ」


「うん」


「どうしようもねぇだろ。俺達じゃあ」


「うん」


 遠くでは連続で爆発が起きている。

 とてもじゃないけれど、僕達じゃあ、あんな場所で戦えっこない。


「奴も俺に任せろって、言ってただろうが」


「うん」


 少し言葉は違うけれど、確かにサイスは『俺が何とかする』って言った。

 分かっている。でも、サイス一人に戦わせて、僕達だけ安全に屋敷に行くのは間違っている気がする。


「俺達には時間がねぇんだ。ニイナ達を助けるんだろう?」


 分かっているのに、サイスから目が離せない。


「いくぞ」


 バローグに引っ張られてようやく僕は先に進む。

 体が重いのは、背負った荷物の所為だけではない筈だ。


「別に見殺しにする訳じゃねぇんだから、気にすんな」


 バローグもどことなく後ろめたいんだろう。

 さっきから同じ内容の言葉を繰り返している。


「俺達じゃ魔女には敵わねぇし、邪魔になるだけだろ」


「でも、魔女は三人だよ。残りの一人が出てきたらどうするのさ」


「どうするったって……」


 結局、僕達の作戦はサイスを欠いた時点で、失敗する可能性が高い。

 なら、サイスを助けて少しでも余力を残してもらった方が良いんじゃないか?

 でも、僕達が手助けしようとしても、足手纏いになるだけだし……。

 僕は後ろを振り返る。

 すでに距離が遠く離れていて、どうなっているか見えない。

 なんだか黒いものが覆っていて、その中で青と赤が飛び回っていることぐらいがなんとなく分かる程度だ。


「おい、あれは……」


 バローグが驚いたような声を出した。

 僕も前を向きバローグが見ている方向に視線をやった。

 木々の奥、暗がりの中に光を反射するものが転がっている。

 僕とバローグは慌てて駆け寄った。

 見覚えのある銀色の鎧。

 転がった小物を入れるためのベルト型の収納袋。

 そして、聖騎士を表す剣。

 それらはリフィリアが身に着けていた物だった。


「えっ、何でこんなところに……?」


 ひとつひとつ確認する。

 紋章も聖典騎士団のものだし、剣もリフィリアの名前が彫られていた。


「確かリフィリアが言っていたな。自分の装備は教会から祝福を受けているって」


「どういうこと?」


「多分、魔女共は祝福を受けたこの鎧や、装備を嫌ったんだろうよ。

 自分達の住処に持っていくのを嫌がって、ここに捨てていったんだろう」


「そっか……」


 捕らえたものから装備を奪うのは当たり前のことだ。

 でも、それを近くに置いておきたくはない。

 だから、ここに捨てていったのか。


「これもか……」


 側にはニイナのミドルソードも捨ててあった。


「これはついでに放置されたみたいだな」


 屋敷の中に置いて、装備を取り返されるよりマシって事なのだろう。

 僕は落ちている装備の中から、ベルト型の収納袋を拾った。


「バローグ! これって……」


 袋の中には、細長い陶器の小瓶がニ本入っていた。

 聖水だ。

 どんな魔物にも大きなダメージを与えることが出来る、魔法の液体。

 僕はそれをじっと見詰める。


「オイオイ、変なこと考えてるんじゃないんだろうな?」


「これがあれば、魔女にも痛手を与えることが出来るかもしれない」


「んなこと言ったってよぉ……」


「バローグは怖いなら見ていてくれればいいよ」


「なっ! お、俺が臆病だってぇのか!」


「だって、助けてもらうのは僕達の方なんだ。

 サイスには、魔女やナイトキングと戦う理由はないんだよ?」


「あぁん!?」


「ニイナやリフィリアを助けたいのは僕達なんだ。

 そして、リフィリアの依頼を受けたのも……」


「……そりゃあ、そうだけどよ……」


 バローグの声が勢いを失くした。


「やっぱり、僕達も戦うべきだよ!」


 大した力になれないかもしれないけれど、僕達も何かしなきゃと思う。


「……ったく、わぁったよ。隙を見て聖水をぶっかけるだけだからな」


「ああ! それでいい!」


 僕達は振り返って移動しようとした。


「ちょっと待て」


 バローグが腕を横に出して僕を遮る。

 口に指を立てて注意を促した後、上を指差した。

 空中をフラフラと赤い魔女が飛んでいった。

 その両手は無くなっており、腹には黒い傷痕があった。

 サイスはキフリを撃退することに成功したらしい。

 魔女が遠くに去ったのを確認した後、バローグがこう言った。


「これで、屋敷に俺達だけで向かうのは無しだな。

 魔女達も警戒するだろうし、魔女ニ人と吸血鬼相手に勝てる道理もねぇし」


 バローグが思ってもいない事を言う。弱った魔女なら何とかなるだろうし、元々見つからないようにニ人を助ける計画だった。

 だから、今の言葉は照れ隠しだ。

 とりあえず頷いておく。


「サイスの所に戻ろう」


 僕達が戻った時には、カフラは下半身が氷の獣に変化して大きくなっていた。

 サイスはどうやって魔女を地上に落としたんだろう?

 キフリと戦った時は空中にいたことで随分と苦労した。

 気付かれないように慎重に走る。

 背中の荷物が音を立てる。

 出来るだけ音が小さくなるように、歩幅を調節した。

 僕はサイスに見えるように、持っていた聖水の小瓶を掲げる。

 遠目からもサイスが頷いたのが見えた。

 サイスはカフラに切り込み、意識を僕達から逸らしてくれているようだった。

 移動中に打ち合わせた通りに、バローグと左右に分かれ後ろから接近する。


どうか、気付かれませんように。


 ゆっくりと歩き、ジリジリと歩を進める。

 背中の荷物が擦れて音を立てないようにジリジリと。

 近付く前に気付かれて攻撃されたら終わりだ。

 サイスの腕が砕け、体が切り裂かれ地面に押し倒される。

 カツンと金属が跳ね返る音がした。

 バローグが待てずに攻撃をしたのだ。

 投げられた投げナイフがカフラの後頭部に当たり、髪の毛を数本切り落とした。


「おらぁっ! 魔女野郎! ぶっ倒してやる!」


 バローグの大きな声が響く。

 その声を聞きながら、何とか小瓶が投げて届く場所まで移動できた。

 だが、この位置は気付かれて振り向かれたら、爪の届く位置だ。


どうか、こっちを見ませんように……。

ヴァルテナ様、どうか僕に御加護を……。


 祈りが通じたのかカフラはバローグの方を向いた。

 カフラはバローグがいる事を確認すると、ゴミ虫を見たかのような表情をした。

 それは、真っ白に凍りついた顔でも確認できるぐらいの、侮蔑の表情だった。

 聖水の入った小瓶を投げる。

 それは放物線を描き、カフラの顔へと飛んでいった。

 カフラが発した舌打ちの音を合図にしたかのように、すかさずバローグが投げナイフを三本投げる。

 いつも自慢していた連続投げだろう。

 正確には三本を同時に掴んで投げているので連続じゃあないんだけれど。

 その内の一本が聖水の小瓶に当たり、陶器の小瓶が割れる。

 中から聖水が振り撒かれ、カフラの顔に降りかかった。


「ぎゃあぁぁああっ!」


 恐ろしい悲鳴を上げて、カフラが顔を押さえる。

 魔女の肌にかかった聖水は、シュウシュウと音を立てて白い煙を上げている。


「ううぅうぅっ、うああぁあぁぁぁ…」


 明らかに苦しんでいる。

 カフラに一矢報いることが出来た。

 僕は気付くと、外れた場合に投げる予定のニ本目の聖水を握り締めていた。

 黒い影が空中に跳んだ。

 僕とバローグはそれを見上げる。

 空を跳ぶ黒煙を纏う骸骨は、無くなっていた腕を生やすと大鎌を両手で持った。

 大鎌が伸びて巨大な形へと姿を変える。

 その刃はまるで魔女を断罪するギロチンのようだ。

 鎌の刃がカフラを斜めに斬り抜ける。

 不思議とカフラの体には傷が残っていなかった。

 獣の下半身が消滅し、カフラは白く濁った水の塊になると弾け跳んだ。

 サイスは、僕達は、魔女を一人倒すことに成功したのだ。



予定通りストック分が無くなりました

なのでキリの良いところまで投稿

ナイトキング戦を、書けるかと思ったけど、無理だった

広い心でゆったりお待ちください

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