表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/364

消えた『魔女大公』

『魔女大公』は特別


『大公』というだけで、魔王のいない今の魔界では一番上の特別な存在だよねとシエルは思った。けれど、ムウロの声には親しみに満ちていて、何か、アルス達『大公』などよりも本当に特別な存在なのだと感じられた。


「『魔女大公』は魔王陛下の妹君なんだ。」


「妹?」

特別の意味はムウロの言葉ですぐに知ることが出来た。その言葉に、シエルは驚いた。

魔王は闇の神が産み出した世界を破壊させる者。

魔王が親から生まれてきた存在だったなんて、シエルは思ってもいなかった。いや、そう思うのはシエルだけでない。闇の神が造った、始めから一人の存在として確立された存在だというのが、人間側の考えだった。破壊の化身だと言われる魔王が、普通の生物のように母親の体から生まれてくるなど、誰が想像出来るだろうか。

「そう、妹。魔王陛下は、闇の神が一人の魔女を使って世界に産み出させた存在。魔女は魔王陛下を産んだ後に娘を産んだんだ。彼女は、ちゃんと父親がいる普通の存在。それでも、魔王陛下を宿して育んだ母親から産まれ事で、魔族にとっては特別で惹かれる存在だった。」

ムウロは優しく笑い、遠い昔に姿を消した『魔女大公』の姿を思い出している。

「魔女ってことは、魔王のお母さんや妹さんは誰と契約してたの?」


「魔族と契約した者のことを魔女と呼ぶようになったのは、大戦の後。地上と魔界が隔たれた後なんだ。その前の魔女は、今とは違う意味を持っていた。というか、人と魔族が契約するっていう概念が無かったね。」


地上と隔てられた魔界が作られる以前。

魔女というのは、魔力が強く、魔術を自由に操り人里を離れ魔族たちの集落の傍で生活していた人間を指す名前だった。人とは違う生活、魔族よりの生活をする彼女達は人々には忌避されていた。

魔族はいえば、興味を持つものもあったし、面白がるものもいた。そんな扱いだった。

魔力が強いだけの人間など、魔族にとっては警戒する対象にもならなかった。特に、後に爵位持ちとなるような魔族たちからすれば、ただの非力な人間と変わらなかった。


そんな魔女の一人が魔王の母体に選ばれたのは、その魔女が下手な魔族並の魔力を持っていたことと、彼女が人も魔族も憎み、妬み尽くしていたからだった。

その感情を持つからこそ、世界を破壊しろと創られた魔王を生み出す母として相応しいと闇の神に定められたのだった。


魔王が産んで数年後、魔女が産み落とした赤ん坊は普通の魔女だった。

これまでの魔女達のように人よりは多い魔力を持った、ただの人間だった。一つ絶対的に違う事があったとすれば、魔族を魅了する力をもっていた事だった。母親である魔女に魔族の住む領域に捨て置かれた小さな赤ん坊は、泣き声で魔族を引き寄せ魔族達の庇護を得た。己以外を全て餌とする獰猛な魔物も、幾多の魔族を支配する強力な魔族も、赤ん坊の泣き声によって過保護な養親の役を買って出ることになった。

それ程までに、赤ん坊の持っていた魅了の力は強力だった。

魔王がその一帯に住む魔族に起こった異変に気づいて様子を見に行くと、そこには一人の幼女を中心とした小さな楽園が出来ていた。

その幼女から自分と同じ血を感じた魔王は、それが自分の妹であると知った。

そして、その魅了の力が魔王を産み落とした後に魔女に残った闇の力の残滓を取り込んだことによるものだと考えた。

放っておけば魔族の統率を乱すと、魔王は妹を受け入れ自分の庇護下に置いた。

その庇護下で妹は、魔王の支配から奪い取れる程強くは無いが魅了の力を成長させ、魔族達に護られるように育っていった。彼女の力は人間にも通じ、魔王の支配を強める助けにもなった。


魔王に大公位を与えられた『魔女大公』だったが、自身は人よりも非力だった。魔力は多かったがそれを活用する魔術を不得意とし、魔族が放つ瘴気や強い魔力は彼女の人の体を害した。魔王が彼女の為に施した護りのある城を出る事は稀で、その中であっても時折体調を崩すこともあった。

そんな彼女を、常に傍にあって支える従者がいた。

『魔女大公』に魅了され、彼女を愛し護る存在。魔王も『魔女の従者』の存在を認め、力を与えた。それを面白がった高位の魔族たちが、力を与えることで得る従者を生み出し、それが現在の魔女という存在となった。


この『魔女の従者』こそが、大戦で『銀砕大公』と戦った『聖騎士』。従者も『魔女大公』に付き従い、人の側について戦っていた。


『聖女』と呼ばれた『魔女大公』は、夫であった『勇者』を『祝福』として世界中に飛び散らせた後、その姿を消した。多くの魔族が、魔王の妹であるにも関わらず裏切った『魔女大公』に憎悪を向けたが、魔界に封じられていた為に彼女に手を出す事は出来ず、封印が弱まり手下を地上に送り込めるようになった頃には、彼女が行方は知れなかった。爵位を受けている、しかも不死にも近い大公位を与えられている『魔女大公』が死んでいる可能性は低かった。


「今でも、魔族たちは『魔女大公』を探しているんだ。」

説明を終わらせ、そう締めくくったムウロ。

「裏切り者には死をって事?」

小説にあった、何処かの山賊が言っていた台詞をシエルは思い出した。

『魔女大公』のした事を魔族側から考えると、そう言った考えになっても仕方ないとは思う。

「それよりも、性質が悪いんだよ。」

けれど、ムウロはシエルの意見に苦々しい笑みで否定した。

「ほとんどの魔族が考えている、馬鹿な話があってね。魔王陛下を産み落とした魔女を母に持つ娘なのだから、彼女を手に入れれば新しい魔王を得られるのではないのかっていう。」

「えっ?」

「つまり、『魔女大公』を探し出して妻にして、新しい魔王の父親になろうっていう馬鹿な話が何時の間にか蔓延しているんだ、魔界に。」

実力では上位の爵位持ちたちに敵わない、中位、下位の爵位を持つ魔族たちから起こった考えだった。それは大戦後からポツリポツリと語られ始め、今では魔界に住む魔族のほとんどが信じている夢物語になっている。封印を抜け出せる魔族達は、地上に出向くと本気で『魔女大公』を探している。

「…意味が分からないよ、ムウさん。」

結婚は好き同士でするもの。

両親や村の夫婦達を見て育ち、そう思っているシエルには、そんな理由で『魔女大公』を手に入れようとする考えがいまいち理解出来なかった。

「分からなくてもいいんだよ、シエル。本当に馬鹿な話だから。高位の爵位持ち達は信じて無い話だから。ただ高位の者達にも、『魔女大公』を使って魔王代行として名乗ろうていうマトモな考えだったり、ただ単に『魔女大公』の事が好きで傍にいて欲しいなんて性質の悪い理由で探してる奴もいるんだけどね。」

傍にいて欲しいも、盗み聞いた限りでは恐ろしい方法ばかりだったので、それをシエルに教えるのは止めておこうとムウロは口を噤んだ。

彼女に対しては恋する乙女のような魔族でも、その本性は獰猛だとか陰湿だとか言われている。『魔女大公』を取り戻すことが出来たのなら自分の城で保護して、自分の目の届かない場所には行かせないと監禁宣言をして、良識のある者たちに殴られている様子を見たことがあった。

「それもヤダけど、その前の理由の方がもっと嫌だ。」

「だよね。おかげで全然手がかり一つ残してくれてないんだ。」

そんな奴等よりも早く保護しなくては。とアルスの命令を受けて、ムウロも地上で探してはいるのだが、何一つ手がかりが出てこない。神話に名を残しているような『聖女』であるというのに。 

ムウロは地上で何度途方に暮れたことだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ