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ロリコンという言葉

重苦しい空気に包まれた中、はぁとムウロが吐く息の音が嫌という程大きく聞こえた。


ヤバい

終わった


ラシドを除く、ケンタウルスの若者達の顔に絶望が浮かぶ。

とうのラシドは、重い空気を感じてはいるものの、その目はシエルに向けられたままとなっている。


「お、お待ち下さい。」

重苦しい空気に沈黙していたケンタウルス達から、暗い笑みを浮かべ始めたムウロに制止の声が放たれた。

「こいつは、ただ嫁が欲しいだけで、決していたいけな子供に不埒なことをしようとは思ってはおりません。ただ、嫁問題に悩んでとち狂った事を口走ってしまっただけなんです。

若い頃に馬鹿ばかりをしていた為に、一族の女達に愛想を尽くされ、同年の中で唯一妻をめとる事が出来ていないのです。ただ焦って馬鹿なことを言ってしまっただけなのです。決して、灰牙伯のお連れ様に馬鹿な行為をしようなどと思ってもいません。」

その言葉は、焦りと混乱で何とか言っている意味を理解出来るというもので、必死だという事だけはしっかりと分かった。

そして、その一人のケンタウルスの姿と、その言葉を黙って聞いているムウロの様子を見て、他のケンタウルス達も口を開き始めた。

一人は、ラシドの頭を掴み、頭を下げさせている。

「そうです。こいつの今まで口説いていたのって、ボンキュッボンな色気のある女達なんです。」

「そうっす。そうっす。淫魔と付き合ってたことあるくらいですから。」


だから、ロリコンではありません!


様々な言葉で言い募る彼等の意見は、要約すればとても簡単なものだった。

必死な形相でムウロに目を向けるケンタウルス達に、ムウロは手を振って一言「もういいから、止めろ」と言って止めさせた。

それ以上の馬鹿げた言い訳を聞いていたいと思う程ムウロは暇ではない。

なにより、くだらな過ぎて頭が痛くなる気がしていた。


「えっ?ロリコンって駄目な言葉なの?」


「えっ?」

「えぇ!!?」


額に手を置くムウロと、必死の形相のケンタウルス達の様子に、それまで雰囲気に呑まれて口を閉ざしていたシエルが我慢が出来なくなってムウロの腕をつついた。

そして、そのシエルの言葉に、重苦しい雰囲気が一気に霧散した。


「えっと…シエル、ロリコンって何なのか知らないの?」

「うん。村の皆に聞いたのに教えてくれなかったんだよ。」


どんな意味の言葉なの?

首を傾げて、好奇心にワクワクと輝いているシエルの目に、ムウロはどうしようかと視線を逸らした。その反応にシエルはケンタウルス達に視線を移したが、彼等もまた視線を逸らしてシエルの質問に答えようとはしない。

前に、村の大人たちに質問した時と同じ反応に、シエルはムゥと口先を尖らせた。


「本に、ラシドさんと同じ事を言った人がいて、その人にむかって"ロリコン"って怒鳴ったって書いてあったんだ。だから、皆にロリコンの意味を教えてもらおうと思ったのに…」


口を尖らせ、上目遣いで見て来るシエルの姿にはムウロも心を揺らがせたが、シエルのような子に意味を教えてあげる言葉としては問題があり過ぎる気がしてしょうがなかった。


「年の離れた若いお嫁さんを貰うこと、かなって思ったんだけど、ちょっと違うって言われたし。本当の意味、知りかっただけのに…」


どうしたものかと、思わずムウロもケンタウルス達に視線を送り、これまで許しを乞うていたケンタウルス達もムウロの視線から逃れるように顔を様々な方向に向けていた。

そんな中、シエルが続けて口にした言葉に、ムウロは僅かな希望を見出した。

「そうだね、ちょっと違うかも。大方は合ってるけどね。」

その予想はどうしたの?

とムウロが笑顔を作り出して尋ねた。

「村の、オグニおじさんが結婚した時に、皆にそう言われてたから。」

「へぇ、そんなに年の離れたお嫁さんを貰ったんだ、そのオグニって人。」


「うん。オグニおじさん今年で58才で、お嫁さんは24才なんだよ。」


「それは…」

別に、年の差のある夫婦など珍しくもなんともない。貴族などは家と家の繋がりを作るために歳の差など考える事なく婚姻を決められてしまうことがあったし、商人なども同じ事がよかあることだ。そして、魔界ではそもそも年齢など意味を成さない。寿命も、歳の取り方も、種族による差、個人が持つ魔力による差が大きいからだ。



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