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ナンバー2伝説のはじまり

 あれから二日が経っていた。


 城の大広間には魔族たちが集まっている


 今から魔王が公式な意思表示である〝魔勅〟を出すということになっているからだ。


 バックヤードから大広間を覗く。


 集まった魔族たちは、「捕らえた勇者を血祭りに上げるのだろう」とか、「人間の国への侵攻計画が話されるだろう」とか噂している。


「行くぞ」


「「はい!」」


 リリスとティアが返事をする。


 魔族たちの前に三人で出る。


「あ、あれは? ゆ、勇者!」


 大広間が怒号に包まれる。


「殺せっ! え? なっ!?」


 魔族たちが気がついたようだ。


 ティアの首元に。


 首元にはぶとい鉄の鎖が付いたトゲトゲの首輪がつけられていた。


 鉄の鎖の一方は黒い甲冑をまとった俺に握られている。


 魔族たちが静まり返る間に、リリスが玉座に着いた。


「勇者はゴルゴダに破れ、ゴルゴダに永遠の忠誠を誓い奴隷となった!」


 魔族たちがまたざわめく。


 これがティアの言っていた名案だ。


「ああ、お兄様と私を繋ぐ鎖……」


 愛おしそうに鎖に頬ずりしている。


「ゆ、勇者がゴルゴダ様に忠誠を誓った?」


「本当か?」


「しかし、あの様子……真に迫っている」


 最初は名案??? と思ったものだが、ティアの出す狂気に魔族たちも納得している。


「勇者はゴルゴダの直属の部下とする! さらに我が魔王国をこれより絶対君主制とする!」


 リリスの声が広間に響く。


「意味がわからん」


「絶対君主制?」


「どういうことだ?」


 絶対君主制は俺の前世の言葉だ。


 諸侯や貴族が領地を持って、分権的であった状態から中央集権化を図り、君主が強い権力を行使する国家体制だ。


 つまり……。


「七大諸侯を廃止する!」


 リリスの宣言に魔族たちが動揺する。


 当然だ。


 今まではゴルゴダを含む魔貴族たちがバラバラに人間の国を攻めたりしていたのだ。


 この大広間にも七大諸侯の配下や派閥に属している魔族も多い。

 

「ゴルゴダを魔王国の宰相とし、今までの七大諸侯もその下とする」


 リリスが魔王としてゴルゴダ、つまり俺を魔王国の宰相と任じた。


 これは俺をナンバー2と宣言したことと同じだ。


 後は力で魔族たちを納得させていくだけだ。


「これより勝手に人間の国と戦争するなど許さん。逆らうものはゴルゴダ……」


 リリスが俺をちらりと見る。


「逆らうものは、ナンバー1の魔王様に代わって、ナンバー2の俺が処刑する!!!」


 魔族たちに魔力を見せて脅しつける。まだまだ本調子ではないが、二日の休息で大分回復しているから十分だろう。


 大広間の魔族たちは顔を上げることもできない。


 やはりナンバー2はさいっっっっっこうだ!


「た、大変です。魔王様、ゴルゴダ様~!」


 大広間に走り込んできたのはユダだった。


 とりあえずユダの顔面を手甲部分で殴る。


「ぎゃぴー。ど、どうして殴るんですか?」


 俺が楽しんでいる時に。


「うるさい! 何事だ!」


「そ、それが! 旧七大諸侯の一人、魔獣伯アリゲダイルが反旗を翻し! 目下、五万の魔獣型モンスター兵を従えて魔王城の目前まで!」


「ほう」


 それはちょうどいい。つい、ほくそ笑んでしまった。


「あのアリゲダイルが反旗を?」「五万の兵だと?」「魔王城にはせいぜい七千しかいないぞ?」


 魔族たちが今までになく動揺している。


 俺は静かに、ただし力を込めていった。


「魔王様のお言葉を忘れたのか。逆らうものはゴルゴダが代わりに処刑しろと。お前たちは城の上から見ているがいい。俺が軍に分け入ってアリゲダイルの首をとる!」


 魔族たちのどよめきの中でリリスから心配される。


「大丈夫なのですか? まだ本調子ではないと」


「三割ぐらいまで回復した。これで十分だ」


◆◆◆


 前には魔獣伯アリゲダイルのモンスター兵五万。


 後ろにはリリス、ティア、魔族たちが見守る魔王城。


 これほどナンバー2を見せつけられる舞台はない。


 目の前の軍がまずは大音声をあげる。


 ついで大地を震わす足音が響き、土煙が巻き上がった。


 俺は単身、軍勢の中に飛び込んだ。


「ほう。なかなか訓練されている」


 俺が拳を繰り出す度に枯れ葉のようにモンスター兵が吹き飛んで行くが、逃げる兵は少ない。


 果敢にも攻撃してくるものまでいたが、黒い甲冑には僅かな衝撃さえも残さなかい。


「やはり、この鎧なかなかいい」


 まったく勢いを落とさずに軍中にいるアリゲイルに走る。


「止めろ! うわああああああ!」


「な、なんという強さだ! ぎゃああああああ!」


「ゴルゴダとはこれほど! ぐわああああああ!」


 周りがモンスター兵から魔族の親衛隊になり始めた頃、ゴルゴダが見えてきた。


「貴様、ゴルゴダなにしにきた!?」


「ふっ。ナンバー2がナンバー1に反乱した将の前に来る。首をとること以外、何があるというのだ?」


「くそっ」


 アリゲイルが背丈ほどもありそうな大斧を担ごうとする。


「遅い!」


 魔力を込めたボディーアッパー一撃でアリゲイルの腹をぶち抜いた。


「ぐおおおおおおおおお!」


 アリゲイルは自らの血の雨が降らせると同時に倒れた。


 モンスター兵は悲鳴を上げて走り散る。


 赤い大地に一人残る。


 しばらくすると城から魔族たちが出てきて集まってきた。


 よぼよぼとした魔族が震えながら歩いて俺の前に出る。。


 魔族たちが長老がどうだとか言っている。


「長老?」


「おお、伝説は真実であったか」


 長老と呼ばれた魔族が伝説がどうたらとか言い出した。


「漆黒の甲冑をまといしもの、赤き大地に立つ。若き魔王を支え、真なる邪を討ち、ついに千年の楽園を築く」


 少し笑ってしまう。


 この手の年寄りは、それっぽいことを言って自分の地位を確立しているのだろう。


 情報化社会以前の遺物だが、ある意味、俺と同類だ。


 だが、ここは利用させてもらおう。


 ナンバー2を維持するのに持ちつ持たれつ。


 ユダがひざまずく。


「魔王様とゴルゴダ様に永遠の忠誠を誓います。」


 さすがは腰巾着だ。


 それを見た他の魔族たちも慌ててひざまずく。


「わ、我らも魔王様とゴルゴダ様に永遠の忠誠を誓います!」


 先ほど逃げ出した、アリゲイルの部下も加わる。


 地平の果まで見渡す限り、ひざまずいた魔族たちになった。


「お、お許しを。以降は我らも魔王様とゴルゴダ様に永遠の忠誠を!!!」


「うむ。許す」


 よし。いいぞ。


 俺は転生して様々なナンバー2になってきた。


 だが、今日からは魔王国のナンバー2にもなる。


 陰から魔王国を運営して行くのだ!

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