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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第二部 その二

 

「探せぇ!!! この森のどこかにいるはずだ!!!」


 一念は念動力(サイコキネシス)を発動し、ミーナと二人の部下の縄に視線を合わせた。

 縄が生き物の様に動きだし、結び目が徐々に解かれていく。


「なっ!?」


 突然の事で理解出来ない三人はイリーナを見る。


 「これは何だ? こんな魔法なんて知らないぞ」という顔を向けられたイリーナは、首を左右に振り、「私もよくわからないのです」という顔で返事をした。

 そして、四人に対して右手を向ける。


「わっ! わっわ!?」


 イリーナが声を上げ、続いてミーナが同じ様な声を出す。

 四人の身体が宙に浮いて、木の上に上がって行く。

 二人の部下は声を殺し、眼を瞑り震えている。


「なんなんだこれはっ!?」

「すみません。あまり時間がないもので……」


 十メートル程の高さまで上げられた四人は、生い茂る枝や葉の中にゆっくり入れられ、太い枝に掴まらせた。


「そこなら多分敵にも見つからないでしょうっ!」

「一人で戦う気か!? 無茶だ!! 早く下ろしてくれ、一緒に戦おう!!」

「そうだ! 魔術師が数名いる! 死に急ぐな!!」


 ミーナに続き赤髪の部下が一念を諌める。


「イリーナ! お前も何とか言ってやれ!!」

「……大丈夫です。一念さんは……誰にも負けませんっ!」


 イリーナの声を聞き、笑顔になった一念はイリーナに向かって親指を立てた拳を突き出した。


「ああっ、任せろ!!」


 木の上から心配そうな目を向ける三人と、信頼の眼差しを送るイリーナ。

 徐々に喧騒が近づき、大木から注意を逸らす為、一念は大木から二十メートル程離れた平地へ駆けて行った。

 一念が平地の中央付近に到達した時、一人の兵士が一念の姿を捉えた。


「いたぞぉ!!! こっちだっ!!!」


 声に反応して上官が続く。


「男は只者ではないっ!! 油断するな!! 男は殺しても構わんっ!!!」


 上官の声に反応して、次々と兵士が集まってくる。平地には十三人の兵士と上官が現れ、後衛に上官と三人の兵士、前衛に弓を持った兵士が五人、剣を持った兵士が五人が一列に並んでいた。


(弓は……怖いな……!)


 倒すべき敵を定めた一念は、最優先で弓兵の無力化を考えた。

 高速で近づく物体には念動力(サイコキネシス)が発動出来ないのだ。一念が物体を動かす事が出来るのは「発見出来た物」に限定される。動かない物であれば、遮蔽物に覆われたり、隠れてたりしても問題なく発動する事が出来るが、発見する前に身体に到達してしまったり、通り過ぎてしまう物に関しては発動が間に合わないのだ。簡単に言ってしまうと「不意を突かれたらひとたまりもない」だが、飛んでくる矢を発見する事さえ出来れば、発動が出来るという事になる。

 例えば百メートル離れた敵が矢を放った場合は、一念に届くまで約二秒かかる為、念動力(サイコキネシス)を発動する事が出来る。しかし、この距離では――


(さて、どうするか……ん? あぁ、簡単じゃんっ)


「小僧! さすがにこの状況を打破出来る魔法は持っていないだろうっ!!」


 余裕の笑みを浮かべる上官を見て、木の上で見守る四人の顔も強張る。

 ノビていた六人を含めた十三人の兵士もニヤニヤと笑っていた。

 上官が右腕を上げ、四人に緊張が走る。


「……やれ」


 弓兵五人が反応し、背中に掛けている矢筒から矢を取り出す。……しかし、五人の指先は全て空を切った。慌てて手の平で矢の後端を探すが、矢の所在は文字通り掴めなかった。


「何をしているっ!?」


 異変を感じた上官は弓兵に声を荒げ迅速な作業を促せた。


「上だよ上!」


 一念が微かに笑い、上官達に上を見る様に指を差した。

 上官達は「まさか!?」という顔で上空を見上げた。

 上空には弓兵達の所有物と思われる矢が、数十本バラバラに浮かんでいる。

 木の上で一念を見つめるイリーナはニコッっと笑い、その横にいるミーナの口がポカーンと開いている。そして一瞬の静寂が流れた。


「よそ見しすぎなんじゃないの!?」


 戦闘の口火を切ったのは意外にも一念だった。

 一念は上空に浮かんでいる矢を一列に並べ、一番前にいる剣兵の足元に向かって勢いよく落とした。鋭く尖った矢尻が地面に突き刺さり、驚いた剣兵は後退しながら尻もちをついた。

 同様に他の兵の足元に次々と矢を落としていった。


「ひっ……」

「うっ……」

「わぁ!」


 降り注ぐ矢の雨に後退を続ける兵団。


「「ばかなっ……」」


 上官のこぼした言葉と、木の上からミーナの発した言葉が重なった時、最後の矢が上官の後方の地面に刺さった。


「こっ、これは!?」


 迫る矢の檻により陣形が狭められ、およそ陣形とは言えない、ただの一塊になってしまった。


「んでもってっ……!」


 右手を正面に突き出した一念は、兵士の中にいる一際大きい図体の兵士を念動力(サイコキネシス)により持ち上げた。


「な……なにをする!? 放せ!!」


 驚きを隠せない大柄な兵士は、声を荒げ念動力(サイコキネシス)を拒絶するが、宙に浮く己の身体をどうする事も出来なかった。


「イリーナ様……あの者は一体……!?」

「えーっと……通りすがりの正義の味方?」

「「は……はぁ?」」


 因みに一念は、意思の力のみで念動力(サイコキネシス)を発動する事が出来るが、「手を使った方がイメージ出来るし、力が強い気がする」と言い、基本的には手を動かしながら念動力(サイコキネシス)を使う事としている。

 実際に、実験では手を使った方が非常に高い数値を出し、モチベーションの上下により、能力に変化や差があるという結果が出ている。


「ちょっくらごめんよっと!!」


 一団から浮いた大柄な男は、宙でうつ伏せの様な状態になり、ゆっくり横に回転を始めた。回転が徐々に速くなってゆく。


「わあああああああああぁっ!!!!」

「秘技!! 人間ブーメラン!!!」


 調子にのった一念は、ネーミングセンスの欠片もない事を露呈する様な技で、大柄な男を前衛組に放り投げた。

 勢いよく飛んでいく男は前衛組をなぎ倒しながら飛んでいった。


「すとらい~っく!!」


 先の戦闘と同じ形となり、投げた男を含めた十人が戦闘不能状態になっていた。

 残り四人。そう思った一念は上官に視点を合わせた。しかし、上官は驚いた表情になりつつも、顔から笑みが消えていなかった。

 上官はニヤリと笑い、後方へ飛び下がった。


「馬鹿めっ! 本命はこっちだ!!!」

「まずいっ!!」

「っ!!」


 ミーナが一念の危機に気づき、続いてイリーナが声を漏らす。

 一念の前方にいる三人の兵士が詠唱を始めていた。


「燃え盛る業火より生まれし火の精霊よ、火の玉となりて彼の者を燃やし尽くせ!!」

「極寒の大地より生まれし氷の精霊よ、氷の玉となりて彼の者を凍り尽くせ!!」

「雷鳴轟く雷雲より生まれし雷の精霊よ、雷の玉となりて彼の者を焼き尽くせ!!」


 三人の兵士の詠唱が終わり、兵士達の手から出現した直径三十センチ程の三つの球体は、上官の掛け声と共にその手元を放れた。


「死ねぇい!!!!」

「ファイアーボール!!」

「アイスボール!!」

「サンダーボール!!」


 風を引き裂く轟音と共に三つの魔法が一念に襲いかかる。


「一念さんっ!!!」


 一念の危機的な状況により、イリーナは悲鳴に似た叫び声と共に眼を瞑った。


「!!」


 轟音と共に辺りに土埃が舞う。辺りにはパラパラという衝撃で転がる石の音や、轟音により危険を察知した鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 十秒程で土埃が止み、イリーナが一念の立っていた場所を確認する。地面には直径二メートル程の穴が開き、その中心地に一念の姿はなかった。


「そんな……」

「……っく……やはり駄目だったか……」

「フ……フハハハ! 奴め、バラバラになりやがった!!」


 上官の歓喜の声が辺りに響き渡る。


「残るは四人……刺し違えても私が倒します!」


 赤髪の部下が決死の覚悟をイリーナとミーナに伝えると、イリーナが震えながら…だが通った声で三人に伝えた。


「大丈夫ですっ……彼は生きています……」

「し、しかしっ!!」

「イリーナが大丈夫と言うのだ。もう少し様子を見よう」


 イリーナが彼を信じ、彼を信じるイリーナをミーナが信じた。


 辺りは静寂に包まれ、鳥の鳴き声が止んだその時、上空から降り注ぐ声に即座に反応したのはイリーナだった。


「だ~か~ら~、さっきも言っただろ!? 上だよ上!!」


(そう、あの人は正義の味方っ……)


 十メートル程上空に一念の姿があった。……が、一念は一向に降りて来る気配がない。


「……飛んでる?」


 驚きを隠せないミーナがこぼした言葉は、事実と向かい合いつつも疑いの色を帯びていた。


「ば……かな!? 空間浮遊魔法はこの世界で確認されていない!!! 貴様っ……一体何者なんだっ!?」



空中浮遊(レヴィテイション)

 宙に浮かび自由に飛びまわれる能力。

 能力のタイプについては複数存在する。第一に自身の身体に元々能力が備わっている場合。第二に重力操作によって身体を浮かす場合。そして一念が使う第三のタイプ……自身に念動力(サイコキネシス)を使い身体を操作する場合だ。

 自分自身には念動力(サイコキネシス)は使えないという説があるが、あながち間違いではない。「使えない」という訳ではないが、自身に使うと「危険」な為である。自身の身体の構造や配置を熟知していなければ「浮かす」事は出来ても「飛ぶ」事は出来ない。「浮いた」後、「飛ぶ」に移行すると、能力の暴発を起こし地面に激突してしまうのだ。

 一念は長年の訓練により人体構造と自身の身体のバランス、配置を事細かにイメージする事が可能になっていた。

 今回の場合、一念が上空に瞬間移動(テレポート)し、空中浮遊(レヴィテイション)によりその場に静止して、十秒程高みの見物をしていたのである。



「アンタ、ボキャブラリーがないね!! 最初に会った時も、同じ様な事言ってたよ!!!

 それに俺は正義の味方だって言っただろ!?」

「お、おのれぇ……!」


 上官の苦言には一切気に留めず一念は、念動力(サイコキネシス)により上官を含む四人を持ち上げた。

 四人の身体は徐々に一念の高さまで上がっていく。


「シートベルトはないからな」


 一念がニコニコしながら手を振っている。

「シートベルト」という単語に記憶がない上官達だったが、一念の笑顔から、自分達がこれからどうなるかを考えずにはいられなかった。



「せ、正義の味方がそんな事していいのかっ!?」


 苦し紛れに発したのは一人の部下の、正論の様なセリフだったが、一念は涼しい顔をしている。


「正義の……「味方」な? 「俺が正義だ」なーんて言ってないだろ?」


 笑みを止めない一念を見て四人の顔が蒼白になる。


「や……やめろ……」


 上官の声が聞こえないかの様に一念が言葉を続ける。


「よいフライトを……。


 ……せええええええええのぉっ!!!!」


 一念が掛け声を上げると、上官達は身体に強烈なGを感じながら、遥か高くまで打ち上げられた。

 とてつもない風切り音と共に、空高く上がっていく上官達は「死」を覚悟した。

 しかし、徐々に速度が落ちて行き、遂にはピタリと静止した。


(チーン。上空約千メートルでございます。「降下」の際はお忘れ物の無い様、ご注意下さい)

「!?」


 突如頭に響く一念の声。驚きと共に一つの単語に更なる恐怖を覚えた。


「……降……下?」

「やめろ! やめてくれっ!!!」


 部下の一人も「意味」をわかっていた。


(いってらっしゃい!!!)


 一念は無慈悲にも念動力(サイコキネシス)を解除した。

 空高くあった黒い豆粒が徐々に大きくなっているのを捉えたイリーナとミーナ達。


「殺る気かっ!?」

「……いいえ、ミーナ様、一念さんはそんな事しませんよ」


 否定するイリーナの顔を見てミーナは笑みを浮かべた。

 一念は、落ちて来る上官達を、地面から五十メートル程上空で優しく受け止め、落ちる速度を減速させていった。

 同じ高さまで降りて来た上官達の気絶している姿を確認し、ゆっくりと地面まで降ろし、一念はそのままイリーナ達が待っている大木の上まで飛んで行った。


「終わったようだな……」

「えぇ」


 二人の部下は未だに空いた口が塞がらなかった。

 木の上まで飛んできた一念は


「お待たせしました……今降ろしますね」

「「「!!」」」


 念動力(サイコキネシス)を発動し、四人をゆっくりと地面へ降ろす。


「ただいま」

「おかえりなさい。一念さん」


 イリーナに挨拶を済ませると、ミーナが一念の元に近寄ってきた。


「本当に凄い魔法だな。一体何処で学んだのだ?」


 当然の様な質問に一念は申し訳なさそうに返答した。


「申し訳ありませんが、それを話すのは難しいんです」

「フフ、そうか」

「貴様! ミーナ様の質問に答えぬかっ!」


 主の質問を拒否した一念に赤髪の部下が叱咤する。


「……メル、やめな」

「しかし、フロルっ!」


 意外にもメルと呼ばれる赤髪の部下を制したのは、もう一人の青い髪の部下、フロルと呼ばれた女性だった。

 フロルは淡々と説明を始めた。


「……あれほどの魔法、出処を話せというのが無茶よ。

 ……そもそも珍種・希少魔法は一子相伝であったり、門外不出のものが大半。

 ミーナ様もそれを理解しておられるからすぐに身を引いたの」

「だ、だけどよぅ……」


 フロルに言われたのは正論だったが、不可解なモノに対しての探究心は納得が出来ない様子だった。


「その通りだメル、それに一念殿は命の恩人だ。礼には礼を尽くすべきであろう?」

「……申し訳ありませんでした」


 ミーナからの追い打ちで納得きたメルは、一念に向かい頭を下げ謝罪した。


「あ、いや、俺はその……困ってる人を助けただけで……そんなに気にしないで大丈夫ですよ? ハハ」

「いいえ、一念さんにはちゃんとお礼をさせて頂きます。そうでございましょう? ミーナ様」

「その通りだ。後ほど城へ案内しよう。

 だが、まずはあの者達をどうにかしなくてはな……」


 そう言いながら一念が倒した上官達に目を向けた。


「そうですね。えーっと……どうしましょう?」

「ここから城下町までは歩いて三十分程なので、私が走って兵を呼んで来ましょう」


 メルの提案を聞いて一念が少し考える。


「どうしましたのだ一念殿?」

「三十分……飛べば……五分かな?」

「おぉっ!」


 一念の考えを察したのか、ミーナの顔が明るくなった。


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