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魔法世界の超能力者  作者: 壱弐参


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第二部 その七

「リッツ」

 貿易国家トレーディアの特殊警備隊隊長。「特殊」というのには理由があり、近隣の保安のみではなく、軍内の規律等も管理している。ムサシ将軍の直属の部下ではあるが、稀に王アレクトから直接命令が下る事もある。

 金髪で灰色の瞳を持ち、短い髪の毛だが、癖がつき、うねっている。基本は楽天家だが、剣を持つと部下思いの良い隊長である。女性好きだが、高嶺の花には手を出さない主義である。気に入った女性には「~ちゃん」と呼ぶ癖があり。女性からの人気も悪い程ではない。

 剣の実力はムサシも認め、流麗な動きで敵を翻弄する。対魔法師は苦手で、苦戦する事もよくあるとか。仲間思いであり、部下からも嫌われてはいない。



 会食場。

 謁見の間の奥にある部屋で、足元に赤い絨毯が敷いてあり、中央にある木目調の長いテーブルに所々に金の装飾が鏤められている。

 最奥に玉座に似た椅子が置いてあり、以降均等な間隔で木製の豪華な椅子が置かれている。右奥に調理場に通じている廊下があり、左奥には王族専用の廊下が存在する。


 アレクトとミーナ、ムサシに連れられ、会食場に来た一念とリッツは十メートルはある長い机を見て驚愕した。


「ハッハッハ、初めて見たけどすげーなこりゃ。対面で座ったら大声出さなきゃ声届かないんじゃないか?」

「アハハ、そうだね。話すのも苦労しそうだ」


 リッツが一念に冗談を言い、一念がそれに応じる。それを見たミーナがムサシに話しかける。


「あの二人、いつあんなに仲良くなったのよ?」


 ムサシがフッと笑い「さぁ、いつでしょうな」と言うと、ミーナは頬を膨らませてムサシを睨んだ。

 アレクトが席に着き、ミーナがその右側に座る。左側にムサシが腰掛けた。

 座席マナーを知らない一念はどこに座ればいいかわからずにいた。


「あの……どこに座ればいいですかね?」


 皆がキョトンとした顔になり、少しの間の後、ミーナが笑いながら隣の席を案内した。


「ウフフッ、一念殿はこーこっ!」

「えぇ!? ミーナさんの隣ですかっ!?」


 取り乱す一念を見てミーナが続ける。


「なぁーに? 私の隣は不満っ!?」

「いえいえいえいえいえいえいえいえ!!! そんな滅相もないですっ!!!」

「フフ、ではお座りなさいっ」


 リッツがニヤニヤしながら一念を見ていた。ムサシの隣にリッツが座ると、アレクトが恒例の様に椅子の上に立ちあがった。


「さて、それじゃ始めよう!!」

「あ、あの……」

「ん? どうした一念」


 アレクトが歯切れの悪い一念に問うと、一念はアレクトに質問を投げかけた。


「イリーナやメル、フロルは一緒に食べないんですか?」


 アレクトが細い目を見開…かず、口を少し開け、驚いた様子だった。他の三人も同様に驚いていた。


「ゴホンッ、一念、一介の兵士が王と食事をするというのはいささか問題なのだ……。今回は報告があるので、リッツを特別に同席させたが、本来ではありえぬ事なのだ……。彼女達は自室で食事をとっているはずだ」


 ムサシがそう言うと、一念は残念そうな顔をして「そうですか……」と呟いた。


「……いや、面白い! 面白いぞ一念! ……そこの者! イリーナ達を連れてきてくれないか!」


 アレクトが侍女にそう言うと、今度はミーナ、ムサシ、リッツがアレクトを見て驚いていた。


「へ、陛下、周りの目がありますぞ……」

「なぁに、たまにはいいさ!それに主賓の願い……といえば、周りも納得するだろう」

「ですわね♪」


 一念は笑みを浮かべアレクトに礼を述べた。


「ありがとうございますっ!」


 約二分後にイリーナ、メル、フロルが会食場に参上した。三人は跪き声を揃えてアレクトに挨拶をした。


「「「お呼びでしょうかっ」」」


「おぉ来たか! ささ、座れ座れ!」


 三人がキョトンとした顔で侍女に案内される。イリーナが一念の隣に座り、リッツの隣にメル、フロルと続いた。


「三人共食事は済ませたかな?」


 そうアレクトが問うと、イリーナが代表して答えた。


「いえ、これから三人で一緒に頂くところでした」

「よしっ!! では、今から一緒に食べよう!!」

「「「!?」」」


 ようやくここへ案内された意味が理解できた三人は、こうなった原因が一念にある事を知っていたかの様に一念を見た。例外が多い事は今日で慣れ、その例外の中心にはその都度一念がいたからである。イリーナはニコッと笑いながら、メルは無茶な振りをされた様に、フロルは無表情で……一念を見ていた。メルからの視線を反らしたくなった一念は、アレクトに食事を促した。


「ア、アレクトさん。何を御馳走してくれるんですか?」

「一念、私がわかる訳がないだろう! ただ、美味いものを作れと言ったぞ!」


 アレクト「さん」という敬称に反応したメル、フロルだったが、ムサシが反応しない事に驚きを隠せずにいた。そしてアレクトやムサシ、ミーナが何も言わない以上、口に出せる問題ではなかった為、メルは何も言えなかった。

 先程の侍女にアレクトが「頼むぞ」と言うと、侍女は右奥の廊下へ歩いて行った。


「イリーナ、メル、フロル。今宵は無礼講というやつだ。あまり気にせず好きなだけ食べなさい」


 アレクトが微笑み三人に語りかけたが、イリーナはともかく、メル、フロルの緊張が取れるはずもなかった。


「「お、お言葉に甘えさせて頂きますっ」」

「リッツ、本日はご苦労だった。食事が落ち付いた頃に話を聞こう」

「はっ、了解致しました」


 アレクトがそう言うと、食欲のそそる匂いが廊下奥から漂ってきた。

 次々に料理が並べられテーブルが埋め尽くされていく。最後の料理が置かれ、侍女が一礼するとアレクトが合図をかける。


「さぁ、食べれるだけ食べてくれ!」


 そう言うと、アレクトはようやく腰を下ろした。

 アレクトが手をつけるまで手を出せなかったメルやフロルだったが、一念が「いただきます」と言うと、リッツがそれに便乗して一念と同時に食べ始めた。

 テーブルには地球でも見かける料理が見受けられた。サラダやスープは勿論、ステーキや寿司まで。どうやら食文化のソレは、地球と大差ないようだった……が、今の一念は、それを考える余裕がなかった。一念とリッツの目の前にある食事が物凄い勢いで減っている頃、メルはフロルに何やら耳打ちをしていた。


「な、なぁ、コレどうやって食べるんだっ?」

「……そこにナイフとフォークがあるでしょう、片手にフォークを持って押さえながら、もう片方の手でナイフを持ち、切るのよ」

「おぉっ!」


 メルは、ステーキの食べ方がようやくわかり、未知の食材に目が輝いていた。が、隣に座っていたリッツがそのステーキをフォークで刺し、不作法にも自分の前にある皿の上に持っていった。


「なっ!? リッツ隊長!! それは私の獲物ですっ!! 手を出さないで頂きたい!!!」

「メルちゃん、ここは戦場だっ! 一瞬の隙が死に繋がると思え!! 戦場で敵は待ってくれないぞっ!!!」

「いいえ! ここは私の領域(テリトリー)です!! 領域侵犯は重罪です!! 軍規を預かる隊長としてはありえない行為かと存じます!!

「戦場に規律はない! あるのは勝者か敗者かだ!! そして今回の場合、俺が勝者で、メルちゃんが敗者だ!!!」

「あぁ……わぁわぁ……」


 メルとリッツが一触即発の睨み合いになり、イリーナが止められもしない争いをどうにかしようとしていた。

 その光景を見てアレクトが笑い、ムサシが呆れ、一念とフロルは黙々と食べていた――



「ぷぅ……ごちそうさまでした。も~食えない……」


 一念とリッツがお腹に手を当て、イリーナとメルとフロルがナプキンで口を拭っていた。

 早々に食べ終えていたムサシが人払いをし、アレクトに話を切り出した。


「陛下」

「うん。頃合いだな……。まず本日の件、皆の者ご苦労であった。

 イリーナ達の処罰は先程説明した通りだが、今回ミーナ達を襲ったのは、ウエスティンの元兵士だ。先程ウエスティン出身の者に確認をさせた。間違いないだろう。奴らは取引を違えた場合の違約金狙いでミーナを襲った。しかし、黒幕の狙いは別にある。取引を違えた国の信頼の失墜だ。この手口で何件か事件を起こせば、国の信頼は地に落ちる。そして、その黒幕を先程、リッツと一念が捕えてきた。そいつらは後程尋問をするつもりだ」


 イリーナ、メル、フロルは驚き、開いた口が塞がらなくなっていた。アレクトの情報収集能力、敵の狙い、そして何より先程自室に入ったはずの一念の活躍に。


「一念はそんな事までしてたの!?」


 ミーナもそれに驚いていたが、一念は別の事に着目し返答した。


「え、今一念って……」

「なんかいつの間にか、お兄様もムサシも呼び方が「一念」になっちゃってるし、私だけ「一念殿~」じゃ、なんか不公平よっ。それとも嫌かしら?」


 ミーナは一念の隣で一念を見つめながら、組んでいた脚を組みかえた。大胆に露出している生脚が優雅な動きで組みかわっていく、見えそうで見えない影の奥に一念は魅了されつつあった。一念はミーナの問いに首を横に振り、生唾を飲み終えた頃、腿から発する魔力を封じたのはアレクトだった。


「さて、ここから先は私の推測になる」


 全員がアレクトに集中し沈黙が広がる。


「今回の黒幕……一念とリッツが捕えてきたやつらの親玉は聖王国だろう」

「「「「っ!!」」」」


「まぁそこしか考えられないってのもあるが、まぁ詳しくは明日わかるだろう。聖王国であってもなくても、新たに捕えた二人の親玉が今後どう出るかわからない。各々警戒を怠らない様にしてくれ」

「「「「はっ!!!」」」」

「皆、今日は疲れたであろう。各自部屋に戻ってゆっくり休んでくれ」


 会食が終わり、部屋に戻ってきた一念はほっと一息つくと、何故学生鞄を取りに戻ったのかも忘れ、ベッドに横になった途端、泥の様に眠ってしまった――


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