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【連載版】(電子書籍化決定)ピンク髪の転生ヒロインは、運命の人を探さない  作者: 春樹凜


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24.望む未来を掴むために


「……かなり厳しいことを言ってしまったな。すまない。二人がどれほどの覚悟を持っているかを確かめたかったんだが、これでよく分かった。私たちが考えていた以上に真剣に現実に向き合い、そして立ち向かう意志があることが」

「ええ。ごめんなさいね、メイトさんが平民だとこちらがあなたを下に見ているような発言になってしまって。私もルーデンもそんなことは思っていないのよ? 知識も才能も、生まれなんて関係なく持っている人間が、それをいかせる場で見せて活躍すべきだって思っているから。 

 だけど未だに貴族かそれ以外かで人を判断する人間が上に行けば行くほど多いのは事実なの」

「だがそれだけ決意が固いんだ。二人ならうまくやっていけるだろう。ただし、メイト嬢もディランも、先ほど自身で発言した内容には責任を持ってもらう」


 条件を緩和してもらうつもりは初めからなかったし、二人は私の身分が釣り合わないからという理由で話も聞かずに反対することもなく、その上二年も待ってくれる。

 それだけで十分だ。


「ところでメイトさん。あなたの作法は今日確認させてもらったけれど……。まだまだ粗削りな部分はあるけれど想像よりはよくできていたと思うわ。その師匠っていうのはもしかしてあのお方かしら」


 質問の答えとしてある人物の名前を挙げると、納得したようにナタリー様が頷いた。


「彼女が協力してくれているなら、そちらに関しては問題なく、いずれきちんと習得できるでしょうね」


 礼儀作法や、貴族の顔や名前を覚えたり、他にもダンスのステップやらなにやらは、既にそう言われることを見越して、この間から取り組み始めていた。


 ディラン様にも力を借りているけど、それ以外にも、私はあのダリアン様にも協力を仰いでいたのだ。 

 

 間もなく卒業を迎え、生徒会の仕事も佳境に入り、他にも色々とお忙しいお方だけど、ありがたいことに私のお願いを二つ返事で聞いてもらい、彼女の時間が空いた時にそちらへ通って徹底的に鍛えてもらうことになった。


「既に次期王妃となるあの方との縁も持っているだなんて、やっぱりあなたはすごいわね」

「それもちょっとした偶然というか、たまたまだったんですが」


 同じ転生者だったという偶然が繋いだ縁だ。けれどナタリー様は、偶然でも運でも、それをものにできるのも才能の一つよ、と笑った。運も実力のうちって言うでしょうと。


「メイトさん、あなたが私たちの娘になる日を、私もルーデンも心待ちにしているわ。だから必ず条件を達成して、ここまで上がってきなさい」

「ああ。楽しみにしているぞメイト嬢」

「はい、ご期待に沿えるよう、頑張ります」

「お前もだ、ディラン。何があろうと必ず支え、守りなさい」

「当然です。言われるまでもありません」


 私たちそれぞれの決意のこもった返答を聞いたルーデン様とナタリー様は、互いに顔を見合わせた後、頑張りなさいとばかりに温かい視線を送ってくれた。




〇〇〇〇




 長かったような短かったような二人との対話を終えて部屋を出た後、私は寮へと送るべく用意されていたパシフィック家の馬車にディラン様と共に乗り込む。

 

 そして馬車がゆっくりと走り出した瞬間、無意識に張り詰めていたらしい気持ちが切れたのか、体中から全ての力が抜けてその場でへにょりと崩れそうになった。

 けれどそれを察したディラン様がすぐに私の体に手を回し支えてくれた。


「すみません。……駄目ですね、さっきあれだけ威勢よくお二人に啖呵を切ったのに」


 どんな時でも何があっても、動揺なんて見せずに凛と美しくい続けなければいけないのに。殿下の婚約者のエリザベス様の様に。


 少し落ち込んでしまった私だけど、ディラン様は優しく微笑みかけてくれた。


「焦ることはない。これから慣れていけばいいんだ」

「……私、上手に受け答えできていたでしょうか」

「ああ、大抵の人間は父の持つ雰囲気に呑まれて委縮するんだが、君は堂々としていた。よく頑張ったと思う」

「ディラン様は優しいですね。多分今日のことをダリアン様に伝えたら、もっとしっかりなさいって怒られる気がします。だけど……次はもっとうまく立ち回ってみせます」

「大丈夫、アリスならきっとできる。それに俺が傍にいるんだ。もしも君が緊張して失敗しそうになっても、必ず俺が助ける」


 与えられた時間は二年。


 長いようで短いその期間。ゲームではあっさりと迎えられていたハッピーエンドがこの世界で迎えらえるかどうかは分からない。


 やるべきことはたくさんあって、冷静に現実を考えると不安に押し潰されそうになる。だけど折れるわけにはいかない。彼と一緒にいると約束したのだから。


 それにこうしてディラン様が傍にいてくれるなら、どんなことでもできる気がした。




〇〇〇〇



 ルーデン様達との約束の結果、勝手にクラス全員を巻き込んでしまうことになったが、今回のことを報告した時、それについてはみんな何も言わなかった。


 むしろ、私の為……というのもあるけど自分の利益の為、そして下剋上を果たして絶対に上のクラスに目にものを見せてやろう的な感じで、全員のやる気が今以上に上がることとなった。


 私の方の両親には、王都からかなり距離があるので直接報告には行けなかったけど、手紙で事情を説明して、学園でディラン様と出会ったこと、身分違いだと分かっているけどそれでも一緒にいたいので、一分一秒でも惜しんで勉強に集中するためにも卒業までは帰れないこと、そして将来の夢も諦めていないことを認めた。


 そうしたら両親の方が直接王都まできてくれて、やるからには全力で頑張れと応援してくれた。


 ディラン様とも顔を合わせ、両親ともにディラン様のことを気に入ってくれたみたいだった。


 その後ディラン様達の学年が卒業し二年生になり、学園生活や自身の勉強をこなしつつ、クラス皆の点数をあげるべく私も積極的に勉強会を開く。


 他にも各個人の苦手な科目や弱点も調べて、ディラン様が私にしてくれたように参考になりそうな書籍を教えたり、各人に合わせた問題集を作ったり。


 その合間に貴族になるための教養や礼儀作法もエリザベス様から学ぶ中、更に学園から生徒会入りを打診された。


 思えばディラン様も、二年生の時点で生徒会に入っていた。当然入れば私のすることは多くなる。

 だけど忙しい身の上だったディラン様がそれをこなしながら卒業まで首席を保っていたのだ。

 彼と同じことをこなせるんだと周囲に証明したかった私は、その話を受けた。


 が、生徒会は一部の優秀なほんの一握りの生徒しか入ることができないという規則のためか、少ない役員にのしかかる仕事の量が多すぎて、二年生の間は忙しすぎて死にそうになった。


 優秀ならそのくらいこなしながら勉強にもしっかり力を注ぎなさい、ということかもしれないけど、効率が悪いし、何より学生の本分は勉強じゃないのか。


 あと個人的な話だけど、生徒会のせいで勉強時間が削られるのが嫌だったので、先輩たちが卒業して私が生徒会長になったあと、同じく生徒会になったメイニー達や副生徒会長になったザッカリーにそのことを訴えたら、満場一致で規則を変えることに成功し、役員を追加募集することにした。


 他にも仕事内容にもメスを入れてできる限り無駄は省いたり、後の子達がもっとやりやすいようにちょっとした改革もしておいた。


 アレクサー殿下の側近として忙しくしているディラン様は、それでも合間を縫って会いに来てくれた。

 これまでのように勉強面でのサポートや、他にもダンスの練習に付き合ってくれたり、つい根を詰め過ぎてしまう私に気付いて息抜きをさせてくれた。




 そうして私にできること、やれることを全てやって過ごした二年間はあっという間に終わりを迎えた───────。


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