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【連載版】(電子書籍化決定)ピンク髪の転生ヒロインは、運命の人を探さない  作者: 春樹凜


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19.(ディラン視点)正直な気持ち


 忙しい日々の中でも休憩は必要だと、その日はアレクサーの一声で生徒会の仕事は休みになった。本当なら早く自宅へ戻り休息をとるべきだと分かっていても、ディランの頭に真っ先に浮かんだのはアリスのことだった。


 会いに行っても逃げられるかもしれない。それでもせめて彼女の力になりたいと、図書館へ行って彼女の苦手な科目の参考になりそうな書籍を探し、それを持ったディランの足は自然と裏庭へと向かっていた。


 そして昔からの定位置につくと、木の幹によりかかり、本をパラパラとめくりながら手に持ったメモ紙にページ数や役に立ちそうな箇所を簡潔に記載していたのだが、如何せん疲れは溜まっていたのだろう。

 

 加えてこの場所は静かで、暖かい。そのままディランの瞼は自然と閉じていた。


 ────時間にするとほんのわずかな間だったと思う。


 誰かが音を殺しつつ近付いてくる気配を察知し、瞳を開きかけたディランだったが。


「え、寝てる……?」


 戸惑いを隠せないアリスの声が聞こえたと同時にこちらの顔を伺っているのを感じる。

 本当なら目を開けて、アリスの顔を見て彼女と会話をしたかった。

 だがここ最近の様子から、また避けられるかもしれないと、思わず寝たふりをしてしまった。

 

 するとアリスは、そのままディランの腕が触れる距離まで近付き、すとんと隣に座ったようだった。


 熱が伝わってしまいそうだと緊張しつつ、覚醒したばかりでまだ意識がぼんやりする中尚も目を瞑っていると、


「……ほんと、何してるんですか」


 そうぽつりと溢すアリスの言葉が聞こえたかと思うと。

 

 それは唐突だった。


「ディラン様、好きです」


 服の端を軽く引っ張られ、この至近距離でもうっかりすると聞き逃してしまいそうなほどに小さな声が耳に届く。


「大好きなんです。優しいところも、勉強熱心なところも、甘いものを食べている時の顔も、静かに本を読んでいる時の顔も、私を褒めてくれる時の顔も全部」


 これは自分の願望を形にした夢なのだと。すぐにそう考える。ありえないことだ。ましてあの日のように下の名前で呼ばれている。現に今ディランはアリスに避けられている状態だというのに。

 けれど徐々にはっきりしていく己の意識と、少し震え気味のアリスの声に籠る熱に、これが現実だと思い知らされる。

 

 そのままアリスは尚も彼への想いの丈を口にし、ここで堪らずディランは目を開けた。

 

「それは、本当……なのか」


 まさかディランが起きていたなど予想もしていなかったと言わんばかりの表情で、瞬間アリスの顔が固まる。


 が、彼が何か行動を起こすりも早くアリスはすぐさま彼の隣から飛びのくと、今までの告白などなかったかのように口元に笑みを作り、一礼したあと、ディランが声をかける間もなく全速力でその場から走り去った。


 突然の行動に、残されたディランはすぐに追いかけようと腰を浮かしかけ、そこであの日アレクサー達とした会話を思い出す。


 仮にアリスが自分と同じ気持ちを抱えていた場合。ディランはその気持ちには応えないだろうと、そう宣言した。


 あのまま寝たふりを続けていたならともかく、ディランはしっかりと反応してしまった。おそらくもう、アリスとはこれまでと同じ関係には戻れない。


 今までだって避けられていたのだ。彼女のあの反応から察するに、こちらから何も行動を起こさなければそれが継続し、このまま顔を合わさずに時が流れ、卒業と同時にアリスとの縁も切れる。


 ならばもはや友人として力にもなれなくなった以上、彼女のことを考え気持ちを返さないと決めている自分が今、アリスを追いかけて伝えるとしたら、好意を抱いてくれていたことへの感謝の気持ちと、それには応えられないという言葉だろう。


 ────そこでもう一人の自分が問いかける。


 彼女の幸せを思って、自身の気持ちを偽ってでも身を引くのがアリスのためになる。

 けれど本当にそうなのか。


 だってあの時、アリスは…………。


「馬鹿か俺は」


 ディランは唇が切れそうなほど強く噛みしめ、吐き捨てるように言った。


 彼の前から立ち去る直前の彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。同級生に詰め寄られても、デイジーに命を狙われた時も、全く動じず泣くことすらなかったあのアリスがだ。

 

 幼馴染のことが好きだとディランの気持ちを勘違いするあんな表情のアリスからの想いを踏みにじることの、どこが彼女の幸せに通じる行動になるのか。


 そして考える。貴族としてではなく、今、自分がどうしたいのか。

 理性もしがらみも何もかもを取っ払って本音を言うなら、ずっと彼女の傍にいたい。


 お菓子を贈り合ったり、勉強を見たり、また前のように図書館で二人で並んで本を読んだり、夕暮れの花畑を眺めたり、他にももっと色んなことを共有しながら、隣で一緒に歩んでいきたい。同じ気持ちだと分かった今、尚更そう思う。


 確かに考えることは山ほどある。平民である彼女と貴族である自分の二人が一緒にいられる未来を手に入れるのにはどうしたらいいか。

 そもそも同じ想いを抱いているからといって、アリスが自分を受け入れてくれるかは分からない。


 だが考えるのは全部後だ。

 今すべきことは、これ以上あんな顔をさせないよう、アリスを追いかけて、自分の気持ちを伝えることだ。


 そうしてディランは全ての迷いを吹っ切って、アリスの腕を手放すのではなく掴むために、今度こそ走り出した。


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