第七話 偽りの魔王と異世界の勇者
槍を持ち、一直線に歩き出す。左手の痛みも感じない。右足も元通り。魔力も回復し、何も不服はない。
俺はこんな状況にも関わらず、笑っていた。
少し、ふふっと笑いながらグレイスを見た。グレイスも傷口が治ったのか、立ち上がりこちらを見る。が、何処かそこには余裕のないような感じがする。
「お前は・・・どうしてそこまで俺の前に立ち塞がる?何をお前が突き動かす?一体お前は何なんだ?」
いつかの出来事のように、俺は笑い、奴に言った。
「俺か?俺はな・・・・」
世界が滅びに向かった時、突如現れる謎の異世界人。どんな困難も立ち向かうことを忘れない、人々の希望の星。
裏切られても、報われなくても、惨めでも・・・進む事しかしない。きっと、人々はこいつのことをこういうんだと思う。
「俺は・・・・・勇者だ」
「そうか・・・・」
グレイスはそっと剣を構えた。
俺と奴、双方どちらかの最期の時が来た。
この一撃に・・・全てを賭ける。そして、この戦争を終わらせる。
「『ジェノサイドダークネス』」
漆黒の剣が黒い光を増加させる。
「死ねぇぇぇぇぇ勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
奴の鋭い一撃が俺に迫って来た。
俺はそっと目を閉じる。
この命に代えてでも、この世界の人全てに恩返しをする。
それが俺に課せられた義務である。
「『氷魔斬鉄槍』」
氷の一撃が奴の腹部を貫いた。
一瞬だった。
「・・・・・・な・・・・・・ぜ・・」
グレイスはその場に血を流して倒れた。
「・・・・はは、これで・・・これでいいんだ」
視界が揺れ、その場に倒れる。
胸に一撃、受けていた。
「ユウト!」
と、サクヤが駆け付けて来た。
「・・・・悪い・・・・」
「ユウト!ユウト!」
涙を流しながら俺にしがみつく。
「・・・・・サクヤ」
「ユウトッ!」
お別れだ。
「いやっ!死なないで!」
「自分のことは一番俺が分かってる・・・だから、最後に一つだけ・・・・」
血が流れる。
ドクドクと、止まる気配はない。
「これが今世の別れだ・・・サクヤ・・・ありがとう」
「ダメ・・・ユウト!ユウトがいなくなったら・・・私・・・」
俺は最後の力を振り絞って言った。
最愛の人への、最初で最後になるであろう言葉。
「サクヤ・・・愛している」
次の瞬間、俺の体が光り始め、拡散していった。
「え・・・何これ・・・いや・・・いやよ!ユウト!ユウト!」
消える・・・消えて行く。
そう、最後に感じたのは・・・そうだな・・・温もり・・。
「・・ありがとう」




