第四話 悲しみの名の下に
ありがとうございますww
サクヤはその状況に対して言葉を失っていた。
「・・・何が・・・何が起こっているっていうの」
先程まであった黒の球体にヒビが入り、粉々に砕け散った。そして、その中からユウトが現れた。
変わり果てた姿で、
「ユ、ユウトなのか?」
左腕は肩まで何処かの魔物となっており、目は赤く、その姿はまさしく魔物であった。
「アァァァァァァァァァッ!」
左手でサクヤを襲う。
「っ!」
サクヤは剣で受け止める。
ユウトは一旦引き、周辺を見渡す。
分が悪いのか、ユウトは後ろの森に向かって走り出した。丁度その時、ケイジが到着した。
「ユウトは!」
「・・・・恐れていたことが・・・」
ゼスの説明にケイジは苦虫を噛んだような顔をした。そして、言った。
「全独立小隊に通達。本日をもって、第一独立小隊ユウト・サカキを悪魔堕ちと断定。即座に追撃を開始。見つけ次第討伐せよ」
「っ!」
「げ、元帥!そんな!ユウトは・・・まだ!」
サクヤが元帥に言う。
しかし、それを遮るように、
「悪魔堕ちした人間は・・・二度と元に戻らない」
「けどっ!」
「サクヤ、お前も軍人ならその責務を果たせ。それに・・・お前に殺されるならユウトも本望だろう」
「・・・・・・・」
サクヤは頭では理解していた。
悪魔堕ちした人間はその心を破壊され、悪魔の心が植え付けられる。
文字通り、心が破壊される。無くなるのだ。
無くなったものを修復するなんてありえない。
そして、サクヤは言った。
「分かりました。その任務、引き受けます。ゼス隊長」
「ああ、行け、『水蜘蛛』」
ゼスによって直ぐにユウトの居場所が探される。
「いた・・・森の中心」
「ありがとうございます・・・私、私一人で行かせてもらえませんか?」
「一人で、大丈夫なのか?」
サクヤは二本の剣を抜く。
「・・・・問題ありません。ユウトは、ユウトは私が必ず殺します」
サクヤは意を決したようにその言葉を放った。
「・・・・・・」
そして、何も言わず、サクヤは走り出した。
それを見計らったかのように雨が降り始めた。
冷たい雨が体に降り掛かる。
それをものともせず、サクヤは走る。一直線に。
「いた・・・・」
森の中心。巨大な岩にもたれ掛っていた。
「ユウト・・・」
サクヤを感じたのか、ユウトはゆっくりと目を開けた。
その瞳は赤く光っておらず、体も正常そのものだった。
「ユ、ユウト?」
「・・・・サクヤか・・・・・」
「い、意識があるの?」
「・・・と言っても、もう無理だがな。あいつめ、こんな時間まで用意するなんてな。どんな神経してんだよ」
ユウトは笑った。
「ユウト!」
サクヤはユウトに抱き着く。
抑えきれない感情が出てしまった。
「・・・サクヤ、俺は・・・お前のことが・・・うっ・・あっ・・・・くそ。悪い、サクヤ・・・俺は・・・もう・・・・・」
ユウトの体に次々と異変が生じる。
目が赤く染まり始める。
「ユウト・・・・」
「覚悟は出来ている。せめて・・・・お前が俺を殺してくれ。愛しいお前に殺されるなら・・・」
「え?」
ユウトの体が全て魔物化とし、最後に一言言った。
「今まで、ありがとう」
それを境に、ユウトはサクヤを襲い始めた。
「ラァァァァァァァァァァァァッ!」
サクヤは直ぐにバックステップをし、距離を取る。サクヤは剣を取るが、その手は震えている。
「・・・・出来ない・・・あなたを、ユウトを殺すなんて・・・私には・・・・・キャァッ!」
一撃食らった後ろに飛ばされる。木にぶち当たり、思わず苦痛に体を丸めさせる。
うう・・・強い。
『サクヤ、お前も軍人ならその責務を果たせ』
『愛しいお前に殺されるなら・・・』
『ユウトは、私が殺します』
先程の言葉が甦ってくる。
「・・・・・私は・・・・・・私はっ!」
ユウトの左腕と二本の剣が交わる。
激しい攻防が繰り広げられ、サクヤは緩めていた意を再び決する。
「ラァァァァァァァァァァァァッ!」
サクヤはそっと目を閉じた。
「ユウト、さっきの言葉。嬉しかった。ありがとう」
ユウトは滝の淵にいた。
サクヤは追い詰めるようにユウトの前に立つ。
「私も、私もユウトのこと、好き。愛してる」
サクヤは涙を流す。
雫が雨と一緒に落ちていく。
剣を構え、走り出す。
「アァァァァァァッ!」
ユウトの心臓を貫く。
「ありがとう」
サクヤは言う。
そうして、ユウトの体は滝壺に向かって落ちて行った。
滝壺に落ち、それっきりユウトの体は浮き上がってこなかった。
「・・・・・・」
サクヤはその場にへたり込む。
「ああ・・・・あああ・・・・・・・・うえ・・・ああ・・ん・・・なあああああああああああああああああああああああっ!」
その涙が枯れ果てたのは、そう短い時間ではなかった。
ありがとうございましたww
物語も終盤に差し掛かってまりましたww




