第六話 作戦開始
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写真で見た砦はそこら中に穴が空き、壁は破壊され、瓦礫ばかりであった。しかし、いざ目の前にしてしまえばただの砦で間違いがなかった。
穴は塞がれ、壁は完璧なまでに修復されていた。以前と比べたらより強固になっているに違いはないだろう。
魔物ってすげーな。まぁ、人間より力はあるからな。
俺達は今現在森を抜け、瓦礫の中にある砦の目の前に待機していた。
もう直ぐ主力が到着し、攻撃が開始される予定である、
「・・・・・・」
「ユウト、もうちょっと肩の力を抜け。いざって時に力が出せんぞ」
ゼス隊長に指摘され、俺はすっと力を抜く。確かに、カチコチになっていたかもしれなかった。
「すみません。やっぱり、緊張してしまって」
「確かにな・・・・」
すると、通信兵から連絡があった。
「本部より命令。本隊はこれより大規模魔法支援攻撃を開始。各部隊は作戦を開始せよとのことです」
「了解した。A小隊、突撃用意」
俺達は各自武器を取り出す。
ジストも生きて帰ってこれればいいが・・・・いや、これは俺が思ってても仕方がないか。
「きっと、大丈夫だよ」
隣にいるサクヤが言った。
「ああ・・・・」
次の瞬間上空に巨大な炎の塊が砦へ向かって落ちて行った。それに対抗してか、下からも魔法が放たれる。
同時に本隊の兵達が突撃し始めた。
「よし、俺達も行くぞ。阻害する敵は全て排除しろ」
敵が正面に集中している今、俺達は側面から砦の中に入った。
上手く正面に敵がいっているせいか敵は少なかった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
オークの心臓を一突きで貫き、二体目も喉を斬り裂く。
「進路確保」
「順調ですね」
「ああ、このまま何事もなければいいが・・・」
そうこうしているうちに中央部分まで到達してしまった。その中心に巨大な砲台が鎮座していた。
「よし、作業を始めてくれ」
工作部隊が爆薬を設置し始めた。
「おっ、ゼス。そっちが先か」
第四独立小隊隊長、シギル・リーアン隊長である。白い髪が特徴的である。
「ああ、そっちも今着いたみたいだな。敵と遭遇したか?」
「それが、敵の数が少ないんだ。前線の方へ行っているとしても、こう少ないと逆に不安になる」
「確かに・・・兎に角、何が起こるか分からん。警戒を怠るなよ」
「了解」
ものの数分で作業が終わり、
「よし、さっさとここから出よう。敵地のど真ん中って言うのに、敵が見当たらない」
「ああ、B小隊続け!」
「A小隊も行こう」
と、B小隊が出て行ったのを確認すると、俺達も反対側から出て行こうとした時だった。
「この俺がこのまま動かないと思ったか?」
突如後ろから聞いたような声で耳に入った。
全員が一斉に振り返る。
「・・・闇の魔道士」
「どうしますか?隊長」
俺が聞いた。
あいつがケイジさんが言っていたグレイスという男なのだろう。
「奴が本当に闇の魔道士ならば、この残党軍を率いている統率者ならばチャンスだ。奴を殺せば今全てが終わる」
「強いですよ。あいつ」
「折角掴んだこのチャンス。逃がす訳にはいかん!A小隊!続け!」
だよな。
こいつがどれだけ強いとか関係ない。今、ここで戦いを終わらせる!
「おらっ!」
ゼス隊長の一太刀をグレイスは軽々らしく避ける。
そのフードの奥の笑みが歪むことはない。
「ふっ!」
続いたサクヤの連撃は確かに奴を捉えたと思ったが、闇を周囲に放ち、サクヤは一旦後方に下がる。
「しゃらくせぇ!」
闇が晴れた瞬間真上から槍を振り下ろした。
かなり決まった一撃だと思ったが、
「・・・・・・・・・」
「なっ!」
グレイスは闇で作られた鎌で防いでいた。
更に第二、第三独立小隊の面子が攻撃をするが全て防がれ、避けられてしまった。
「なるほど、強い」
グレイスは手を上にかざした。
「『アサルトクロゥ』」
上空から闇の鳥が出現し、俺達を攻撃して来た。
「ぐっ!」
更に鳥が増え、攻撃して来る。
「か、数が多い!」
各自応戦するが視界が半分見ないぐらい鳥で埋め尽くされようとしていた。
「隊長!」
「分かってる!サクヤ!行けるか!」
「分かりました!」
隣のサクヤは二本の剣に炎を集中させる。
「『火炎竜輝』!」
次の瞬間サクヤの剣から二体の龍が飛び出して来た。周囲の鳥を喰らい、焼殺しながら周辺を一掃した。
新方片づけると荒ぶる威勢と、輝く炎の龍はグレイスに食らいつこうとした。
「その威勢は買おう。だが、甘い!」
グレイスは右手に魔力を集中させて一体目の龍の頭を掴んで地面に叩きつけた。二体目は右手から魔力の塊を撃って四散させた。
「っ!」
「『シャドウバインド』」
サクヤの下から影らしき触手が出現し、拘束する。
「これ、何だか分かるか?」
グレイスは懐から真っ黒な球体を取り出した。
禍々しいオーラを放つ。
「これは百十三もの魔物の血液を合成させ、魔素を二十倍に濃くしたものだ。さて、こんな物が人間の体内に入るとどうなるでしょう?」
サクヤは言った。
「体内の魔力を吸収し、人を魔物へと変貌させる」
「ビンゴ」
グレイスは黒い球体をサクヤに向かって飛ばした。
「っ!お前!」
サクヤが叫んだ時には既に遅く、ドスッ!と、鈍い音が聞こえた。俺の左腕の当たりで。
「ユ、ユウト!」
「あっ・・・が・・・・・・・あ・・・・・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・・あ・あ・あ・あ・あ・あ・・あ・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
左腕が黒く侵食される。
途方もない激痛と大量の魔素が俺の中に流れ込んで来た。
あまりの激痛に意識が一瞬飛びそうになった。
「・・・・・・・」
「異世界人・・・なるほど、期待に応えてくれそうだな・・・」
そう言ってグレイスは闇と共に消えてしまった。
「っ!はぁっ!・・・ああ・・・・・・!!・・・・ああ・・あ・・・」
「ユウト!ユウト!」
サクヤが駆け寄ってくる。
「隊長!」
「・・・・奴を取り逃したのは致しがたないが・・・ユウトも心配だ。直ぐにここから撤退しよう。手を貸してくれ!」
俺の体は誰かに抱き起こされた。
そっと、宙に浮いた気がした。
「・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこから先は、良く覚えていない。
グレイス、強いですね




