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【完結】 夏鳥は弾丸を噛む -傷心のボーカリストは二度目の春を歌う-  作者: 未来屋 環


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track9-1. ジャッジメント・デイ -The Judgement Day-

 ――そして、運命の日が訪れた。



track9. ジャッジメント・デイ -The Judgement Day-



「たっくん、来てくれてありがとう!」


 ライブが終わったあと、客席にいた俺の所に香織が駆け寄ってくる。


 今日は従妹の香織がライブをやるというので、彼女の学校の文化祭に来ていた。

 開場時間の9時半と共に入場しライブが始まるまで校内を見て回っていたのだが、所々俺の学校とは雰囲気が違う。

 壁に貼られているポスターなど手が込んでいて、今のところ思った以上に楽しめている。


 香織は昔から歌うのが好きだった。

 正月に親戚皆で近場のカラオケに行くのが毎年の恒例行事だが、トップバッターはいつも香織で皆を明るく盛り上げている。

 それがまさか、高校に入ってバンドまで組むとは思わなかったけれど。


 しかも香織のバンドCloudy then Sunnyは、演奏含めなかなか上手だった。

 J-POPの有名曲を楽しそうに演奏する姿はとても華やかで、観ている側も口ずさみながらステージ釘付けになる。

 自分の文化祭ではクラス展示しか参加していない俺にとって、溌溂(はつらつ)とした彼女たちはやたら(まぶ)しい存在に見えた。


「ねぇ香織、もしかして彼氏さん?」

「ちょ、違うってば! たっくんは従兄のお兄ちゃん!」


 慌てる香織を見てどっとメンバーたちが笑う。

 皆可愛らしく、いい子そうだ。

 特に香織と一番仲が良いというキーボードの女子は、ステージメイクがよく映えている。

 童顔の香織に比べて奥ゆかしい色気があり、思わず目が離せなくなった。


「ねぇ、折角(せっかく)だし喫茶店行かない? 割引券もらったでしょ」


 それに気付いたわけでもないだろうが、香織に手を引かれ俺は慌てて「あ、あぁ」と(うなず)く。

 ライブ会場に入る前にもらったビラを見返すと、確かに一番下に割引券が付いていた。

 喫茶店で50円引き、茶道部でお茶菓子サービス、生物部で押し花の(しおり)プレゼント……その他にも様々な部活とコラボしているようだ。


 そして香織と会場を出て廊下を歩いていると、前から明るい茶髪の男がやってきた。

 この学校はとにかく自由度が高いと香織から聞いていたが、それにしても思い切った髪色だ。

 まぁ、あの鬼崎(きさき)達哉の髪色に比べれば可愛いものかも知れない。


「あ、春原(はるはら)くん。これからカラオケ大会?」


 どうやら知り合いだったらしく、香織が話しかける。


「うん」

「そっか、頑張ってね!」


 そう声をかける香織に頷いたあと、その春原という男は俺の方にちらりと視線を向けた。

 そして、軽く頭を下げてからライブ会場の方へと歩いていく。

 (いか)つい見た目の割にきちんと挨拶はできるようだ。


「今の子、プロ級にギター上手なんだよ。夕方にライブがあるから一緒に聴きに行かない?」


 そんな風に言われると、ちょっと聴いてみたくなる。

 俺は「いいよ」と快諾(かいだく)し、そのまま香織と一緒に下の階の喫茶店に向かった。


 喫茶店は大盛況だった。

 やけにフリフリしたエプロンや、細身のスーツを着こなした女子たちが順番にドリンクを運んでくる。

 「お待たせいたしました、ご主人様」と言われた時はどうしようかと思ったが、正直なところ満更(まんざら)でもない。

 隣で無邪気に喜ぶ香織に「何ここ、演劇部?」と耳打ちすると「バレー部だよ」とあっさり返された。


「メイド・執事喫茶って言うんだって。なんか最近流行ってるみたい」


 ――そうか、あの格好はメイドと執事をイメージしていたのか。

 実在するであろう彼らに比べると多少装飾過多な気もするが、確かに雰囲気は十分だ。

 運ばれてきたコーラを飲みながら他のテーブルを見ると、今度はフリフリのワンピースを身に(まと)った男がケーキを運んでいた。

 さすがバレー部――身長が高く、迫力がある。


「それより見て。このコースター、うちのバンドのロゴなんだよ!」


 香織が自慢げに見せてきたそのコースターには、雲の前で笑顔を浮かべた太陽のイラストが描かれていた。

 「たっくんは?」と促されて見てみると、俺のコースターにはたこ焼きの絵が描いてある。

 そういえば渡された軽音楽部のビラに『takoyaki』というバンドが載っていた。

 まったく(ひね)りのない直球のロゴに、思わず笑ってしまう。


「このロゴも他の部とのコラボも、仲のいい先輩が考えてくれたんだ」


 そう言われて店内を見渡してみると、可愛らしい内装の合間を縫うように軽音楽部のポスターが貼ってあった。

 ()(ほど)、軽音楽部にライブを観に行けば喫茶店の割引券が入手でき、喫茶店に休憩しに行けばそこかしこで軽音楽部のPRがされている――よく考えられている。

 同じようなコラボレーションが、他の部活とも行われているのだろう。

 

 ――その時、近くの壁に貼られている弾丸のイラストが目に入った。


「そのロゴがLAST BULLETS――さっき廊下で逢ったギターの子のバンドだよ」


 そのバンドのポスターは、他のバンドのものとは少し(おもむき)が異なっている。

 香織たちCloudy then Sunnyのものも含め、他のバンドは演奏する曲のミュージシャン名が書かれているが、このポスターにはそれらしき記載が一切ない。

 また、バンド名の右下には小さく「+Secret Guest」と書かれている。


 一体LAST BULLETSとはどんなバンドなのか――俺の中で、好奇心が小さく(うず)いた。

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