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目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。【web版】  作者: 猫石
旦那様、絡まないでください、邪魔です!

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61・帰り道での不可解

「それを見せてもらってもいいか?」


 修道士様たちから私の手に返って来た草案を見た旦那様に、私は頷き、手渡しながら確認した。


「どうぞ。 しかし旦那様。 お申し出は大変にありがたいのですが、本当によろしいのですか?」


「なにがだ?」


「騎士団をお貸しいただく、という話です。」


「かまわん。」


 わたしから受け取った草案から目を離さないまま、旦那様は話を続ける。


「鈴蘭祭の警護は毎年3~4の部隊で行う事になっている。 そこに物資班から半数貸し出せば、教会で行うバザーの運搬や設営なども楽になるだろう。 まぁ、数を増やすにあたっては、鈴蘭祭に魔物の強襲などがないことが大前提だが、最近一度発生しているからな、少なくとも次の発生まで最低1ヵ月ほどは間が空くことが多い。 最近は国境付近も静かで懸念される案件もない。 大丈夫だろう。」


 そう言いながら草案を私の手に返した旦那様は、無表情のまま私を見る。


「草案のまとめ方も悪くない。 君はそういう仕事をしたことがあるのか?」


「おほめ頂き光栄ですわ。 ですが、王都の(庶民層の)祭りの実行係の皆様の仕事をお手伝いしたことがある程度です。」


 はい、前世でちょっと患者勉強会の企画運営を何度もしていました! なんて言えるわけがないので、当たり障りないようそう言うと、ふむ、と納得したような旦那様は私に言った。


「そうか。 しかし設営については一言いいか。」


「はい。 何かありますでしょうか?」


「騎士体験は、バザーの後方でやるといい。 教会の者と子供を守る意味でだ。」


「それは、どういう事でしょうか?」


 皆が身を乗り出すように、旦那様の話を聞く。


「鈴蘭祭に限らずこういう祭り事には他の領地から観光客が訪れる。 それは大変に結構なことだが、それらに交じって、スリやタカリの様な犯罪者や他国の間者が入り込んでくる可能性が高い。 そんな中、今回初の試みである『辺境伯夫人の慈善事業』と銘打ったバザーを教会で行うとなれば、そう言った輩に目につけられやすいだろう。 何しろ領主が関わっているのだ、懐に金銭を持った者が集まるのは目に見えているからな。 しかも場所が教会だ。 教会で金銭を扱うとなれば、護衛や用心棒などに身を守らせるのが常の商人に比べて、力の弱い神職者や子供が扱う『売上金』に目もつける馬鹿者も多くいるだろう。 それらから神職者、子供、観光客や領民などを守るためにも、騎士体験を金銭を管理するバザーの後方で行うのだ。 もちろん、騎士見習いの体験をするという意味で、バザーの前方にも案内係の騎士を置くことが出来る。」


「なるほど。」


 確かにそうだと、私も周りの皆も納得したように頷いた。


 私は自分の浅慮を少しだけ反省する。 バザーを開きたい一心で、警護や安全性にまで考えが及んでいなかった。


「良き案をありがとうございます、旦那様。」


 私が旦那様に頭を下げると、やや目を見開いた様に表情を動かした旦那様だが、すぐに元の仏頂面に戻られた。


「いや、君はそう言う事に関しては素人だろう、気が回らなくて当然だ。 当日の警護体制については、詳しく言う事が出来ないが、騎士団も様々な形で力を入れている。 それでもその目をかいくぐろうとする者が多く、皆苦労しているのだ。 そこに君が発案した騎士体験を大々的に行うことで、正装の騎士が長時間、様々な場で過ごす事が出来る。 騎士がいるという視覚効果もまた、軽犯罪の抑止や、間者の動きを鈍くする効果がある。 それに、ただ難しい顔をして警護するだけよりは、子供を相手にしている方が騎士たちも退屈しなくて済むだろう。 相手をしてやった子供が、大きくなり志願者になってくれることも考えれば、逆に騎士団の利にしかならない。 君が感謝することではない。」


「さようですか。 それではよろしくお願いいたします。」


(……ちょっとだけ見直したわ。 旦那様は意味の分からない暴論を振りかざすだけかと思ったけれど、領地領民のため、騎士様のために心を割く余裕がおありになるのね。 ……でもじゃあ、なんで……?)


 内心、思い切り首を捻りながらも、頭を下げてお礼を言った私は、旦那様から返された草案を受け取り、神父様や修道士様の方を向いた。


「それでは、辺境伯家から製菓、手芸の材料と共に料理人と侍女がお菓子のつくり方と小物作りの指導に参りますので、よろしくお願いいたしますね。 その時に、どのように屋台を設営するか、安全面の考慮も騎士団の協力が付きましたので、ご要望などございましたらお伝えくださいませ。」


「かしこまりました。 こちらこそよろしくお願いいたします。」


 修道士様たちは私と旦那様に頭を下げて、声をそろえてそう言われた。






 馬車での帰り道。


 行くときと同じく馬車の対角線に座ったわたしと旦那様はただ静かに、お互いがお互いに近い窓の外を見ていた。


 と思いたかったが、時折、旦那様の視線が私に刺さるように感じるのは気のせいだろうか、気のせいだ、気のせいだと思いたい!


「君は……」


(気のせいじゃなかった……。)


「はい、なんでございましょうか?」


 旦那様に気付かれぬよう、小さくため息をついてから体を旦那様に向けると、旦那様はトントン、と自分がかけている眼鏡を軽く叩いた。


「疲れないのか? これは魔力をかなり使うのだが。 それとも魔力量が多いのか?」


「え?」


 眼鏡? と思って首をかしげると、旦那様は自分が付けている中指の指輪と眼鏡を外した。


 するすると変色していた髪と瞳が元の夕焼け色の髪と黒曜石の様な瞳に戻っていくので、眼鏡と指輪の存在を思いだした。


「そのあたりはよくわかりませんが、少々疲れたのは確かです。 ……大切なものをお借りしました、お返しいたします。」


 私も両手を使って眼鏡を外し、指輪を外して旦那様に手渡すと、受け取った旦那様はコートの内側のポケットに入れていたケースにいれ、ポケットに戻した。


「ありがとうございました。 おかげで騒がれずに済みました。」


 栗色から、ド派手な虹色の光を放つ銀髪に戻った髪をつまみ上げ、私は溜息をつく。


「……まぁ正直、ずっとあのままでもよかったのですが。」


「なぜだ?」


 私の、誰に聞かせるわけでもないただの独り言は、旦那様に聞こえていたようで、そう声を掛けられたため、隠すこともないだろうと私はつまみ上げた髪を旦那様に見せるようにした。


「栗色の方が、よほど街中を歩きやすく、生きていくのにも便利でしょう。 私のこの髪は、私を公爵家に縛りつける厄介なものでしかありませんもの……小さい頃から、大嫌いでしたわ。」


 うふふと髪から手を離し、笑う。


「そういえば、旦那様の様な夕焼けを切り取ったような赤い髪にも憧れた時期がございましたわ。 仕事終わりに家に帰る中で見る夕焼けが、一等好きでしたので、私の髪も染まればいいのに、と。」


「そう、か。」


 そこまで聞いて、眉間に深い皺をよせた旦那様は、ふいっと顔を窓に向けた。


(しまった、しゃべり過ぎだったかしら。 ご機嫌を損ねてしまったわ、まだ、屋敷まで先は長いのに。)


「お気に障ったのでしたら申し訳ございませ……」


「私は君の髪の色は、美しいと思っているっ!」


「……へ?」


 慌てて謝ろうとした私の言葉を遮るように、旦那様はこちらもみず、乱暴にそう言い放ち、私に話をさせる隙を与えないように、口早に言葉を続ける。


「昔、兄上と共に北の辺境伯領へ伺った時に、夕方の散歩の最中に、花を見つけた。 白い小さな花だ。 とても小さく可愛らしいと思った私は、家で私たちの帰りを待つ待つ母上にもそれをお見せしたくて、従者たちに持って帰れないかと尋ねた。 しかしそれは無理だと言われた。 なぜならその花は、寒い地方でしか咲かないからだ。」


「……そう、なのですか?」


 窓の外を見たまま、亡きお兄様とお母様のお話をする旦那様に、私は戸惑いながらも静かに相槌を打つ。


「あぁ。 しかし私は諦められなくてな。 翌日、兄上と朝の鍛錬を行った後で、私はその花を摘むために昨日歩いた場所を探した。 しかし、白く小さな花は見つからなかった。 代わりに咲いているのは、朝日を浴びて虹色に光り輝くガラス細工のような小さな花だけだったんだ。 同じ場所なのにどうして花が入れ変わったのか、そしてその美しい花は何なのか。 私には何が何だかわからなくて、ずっと見ていたよ。 するとそれに気づいた兄上に言われたんだ。 『お前の見ている花が、昨日の花だ』と。 私はびっくりした。 たしかに花の形も、大きさも同じだが、色が全く違ったからだ。 兄上が教えてくれるまで、私には本当にそれがあの小さな花だとはわからなかったんだ。 その答えは、辺境伯の息子が教えてくれた。 花の名前は『サンカヨウ』と言い、朝露や雨に濡れると透明になり、光を浴びれば虹色にも見えるのだ、と。 結局花は持って帰る事が出来なかったが、私は何度もその話を母上にした。 いつか一緒に見よう、と。 かなう事は、なかったが……。」


「さようでございましたか……。」


 一体何の話を聞かされているのだろうか? と思いつつ、話に耳を傾け頷く私に、旦那様は先ほどのケースを胸から出すと私につきだした。


「君がその髪のせいで苦労したのは一応は知っている。 何かと不便も多いだろう。 だからこれは君にやる。 亡き母上の物だ、好きに使うがいい。 ……だがその髪は……。 朝露を含み虹色を放つあの花に似て、とても美しいと私は思う。 母上も見たがっていた、雪国の美しい花びらの色だ。 ……だから、嫌ってやるな。」


 そう言われ、私は目を大きく見開いた。


 そんなことを言われるとは、まったく思っていなかったからだ。


「あ、あの……」


「いらないのか。」


 何かを言わなければ、と、言葉を探したが、旦那様にケースを再び突き出されたため、慌てて受け取る。


「あ、いえ。 ……あ、ありがとうございます……。 大切に使わせていただきます。」


(……なんで急にこんなことになっているのかしら?)


 いろいろと感情が追い付かなくて、私は魔道具のケースを見つめ、手に包んだ。

お読みいただきありがとうございます。

気合のもとになりますので、お気に入り、いいね、感想などいただけますと大変に! 嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
旦那急に長文喋りだして笑った
さすがに主人公の思考回路が非情過ぎる。 旦那様もモラハラ凄かったから致し方ないけど、思い出話聞かされてこの反応は、旦那がどうかより人として接する気がないんだな。 旦那の方がよほど人として見ようと努力し…
旦那さまから逃げてほしいなぁ 9も下の子から、女について手取り足取り教えてもらう図エグい このままじゃ彼の母親になってあげるハメになりそう
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