北京動乱編- 鯨は行く
意見求む。漫画家要素がないというので改訂版の作成の必要があるか否かを。
15日朝 シーモア隊
「行ってこーい!!」
「頑張って行けよ!!」
地上の日本兵が空に浮かぶ気球に向かい手を振っている。
そのほかの兵士も空を見上げている。その視線の先の飛行船はプロペラを回し、空を進む。
飛行船が北京に向けて動き出したのだ。シーモア隊が足止めされている地点から北京まではおよそ60㎞。
ツッペリン伯爵が試作した1隻目の飛行船は初飛行で飛行時間17分、およそ6㎞を飛行した。この時の乗員は5名。
2度目の飛行は80分。いずれも故障によって飛行できなくなったことが原因だった。
試作1号船LZ-1は試作品どまりとされ買い手もなかったので解体された。それが史実だ。
だがこの世界では資金調達が史実よりうまくいったことによる初飛行の早まり、同時に行き詰まりも早く訪れたこの船を日本の民間企業が購入。輸送のために解体した。
そして開発技術者を連れた長時間の船旅・・・その間、彼らが何もしないわけがない。ある程度の改修はできる。
そして日本で再建された試作1号船LZ-1が旧来通りの姿でよみがえらせるわけがない試作品なのでとことんいじり倒す。
そして2号船。これには史実2号船LZ-2とは全く違う船であった。先にアメリカから購入企業が招いていた2人の兄弟技師その発想である風洞実験が加わった。風洞実験はドイツ軍初の飛行船となった試作3号船LZ-3で行われたことであった。ゆえにLZ-3で採り入れられた技術が日本で建造された2号船に反映、完成後であったが1号船も改修を受けることになった。
すでに1号船LZ-1と日本で建造された2号船はそれなりのレベルに達していた。
「・・・馬鹿者が・・・」
ドイツ老人が一人。彼は敬礼をしている。そのつぶやきはドイツ語だ。周りの兵士には何を言っているかわかない。だが涙を流している。
「あの船は試作品・・・ドイツにいたころよりはましだが、まだ完全に安定した飛行ができる代物ではないのだ・・・これまでの飛行も地上での助けが可能な地域以外でしか飛んでおらん・・・今回は敵地を飛ぶんだ・・・生きて帰って来るんだぞ・・・若造・・・」
〈だがそれだけ国を守りたいということなんだな・・・できる限り協力してやらんと・・・これだけの覚悟を見せられてはな・・・〉
飛行船 1号船 天磐丸〈アマノイワマル〉 旧LZ-1
「石黒船長、山田さん。こんな危険な仕事に付き合わせてしまって申し訳ない。」
機上の人田中義三が叫ぶ。
「いいんじゃよ。軍人としちゃあお役目を果たせる。死に場所を見つけたりってな。」
「飛行船の開発をしたいという願いにこたえてくださりありがとうございます。」
石黒と山田は笑顔を見せている。
「島津さんやニノさん、兄弟はおいてきても良かったのですか?」
田中の後ろから声をかけてくるのは日野熊蔵だ。
「いいんだよ。ニノさんと兄弟は仕事が別だし、島津さんは爺様の件もある。空で死なせたくない。」
日野熊蔵にこたえるのは田中だ。
「それより熊。地上の様子を撮影することを忘れるな。1台は俺が持って降りちまうんだから。」
田中は席に向かいながら話す。
「わかってますよ。」
日本はそれについてゆく
「いいや分かっていない。とるのは線路だ。どれだけやられているかを示して籠城戦に際して危機感を持ってもらわねば困る。だから今回、重石ももったいないが食料を重しにしているんだぞ。」
「わかりました。」
「石黒船長、山田さん。操縦お願いします。」
南壁 北京城
「なんだあれは!!」
それに気が付いたのは南壁を守る兵だった。指さされたものは時間経るごとに大きくなる。
「コルトを城壁上に上げろ!!迎撃用意!!」
米兵などは警戒して第1次救援隊が持ち込んだコルトブローニングM1895を空に向ける。
しばらくすると、とある兵士が気が付く
「あの鯨の下旗が見えるぞ!!日本の旗だ!!」
「攻撃中止!!柴中佐を呼べ!!」
城壁上が騒がしくなる。その後ろで柴五郎が城壁上に上がってくることには気が付いていない。
「飛行船・・・」
柴はその正体を看破する。
「飛行船・・・ですか?」
ドイツ士官が柴に聞く。
「知り合いの士官がとあるカンパニーと組んで開発しているものだ。知るものはその士官とかかわりのある軍の上層部とその彼を知るものだけだ・・・」
「それがなぜここにあるのか⁉」
「私はその彼に中国についての情報を逐次流していた・・・ということは彼は本国からこの情勢を見抜いてあれを持ち込んでいたということだ!!!」
柴五郎は戦慄した日付を計算してのことだ。今日は15日。第1次救援隊の要請は前月29日。到着は31日今月3日、鉄道が襲撃されたのは4日、第2次救援隊であるシーモア隊出発が10日・・・明らかにシーモア隊が到着できないことを見越して飛行船を派遣している。
「柴中佐!!飛行船から弓が狙っています」
「心配するな!!矢文だ!!敵対行為ではない!!」
「中佐!!」
「この距離で弓は届くが、狙えん!!本気で我々を殺すつもりなら小銃を使っている!!それに奴の足場を見ろ!!縄梯子の上から狙っている!!あれは当たらん!!」
それは柴の言うとおりだった。城壁上に届いた矢には紙が結んである。
「縄梯子がどんどん伸ばされています。どうやら人を下ろす模様です。」
「皆を呼べ。飛行船から縄が2本落とされる川の南側2本の石橋を目印に固定しろとのことだ。」
「了解!!」
北京の公使館区中央には南北に流れる1筋の小川がある。この川には合計3本の橋が架かっている。そのうち1か所は敵に近い。ゆえに比較的安全な2つの橋を利用して飛行船を安定させる。
その縄は飛行船の前後につながっているのでつり合いさえ取れれば問題ない。
飛行船がある程度安定したころに1人の男が水深の浅い小川の上に降り立った。それを見届けた飛行船はすべての縄〈2本+縄梯子〉を切断、錘の袋を投棄。高度を上げ、方向を変える。どうやら帰るらしい。
小川に降りた男は川から上がってきた。それを見ていた公使館区の人間たちのやじ馬ができている。
「田中・・・」
出迎えに来た士官の中、柴五郎がつぶやく
「日本陸軍少尉 田中義三 ただいま到着いたしました。」
英国大使館 大使会議
「シーモア隊の来援が難しい可能性が高いだと⁉」
田中義三が北京の地に降り立つとすぐに大使が集まり、話を聞く。
「私の私見ですが、論より証拠。これを現像してもらえればわかります。」
田中義三は自分が飛行船から降りてきたときに背負っていた背嚢から機械を取り出してテーブルの上に置く。
「これは写真機か・・・」
英国大使マクドネルがつぶやく
「はい。飛行船から撮影しました。現像していただければ状況がわかります。現像時間がかかりますので現像については義勇兵の中にいる写真師にでも任せてもらえば結構です。最新鋭の写真機ですので写真撮影のために静止する必要がありませんのでいい画が取れます。それこそ敵陣がどこにあるかもはっきりと残せます。」
その発言に周りにいた軍人たちが喧騒に包まれる。それは世界を変える出来事だからだ。これまでの航空写真は自由に対象を撮影することが困難だったが、自由に空を移動できる飛行船と組み合わせた場合、それは圧倒的な情報的有利を生むのだ。
だが一部の軍人はその発想をこのような小規模戦争で示す意義を疑ったこれは発想だ。しかも特許にできるような代物ではない。これを知った各国はマネするのは目に見えている。
「日本がとった写真だ。日本が現像するのが道理です。幸い義勇兵の中に写真師がいます。」
柴五郎が写真について意見をする。それについて異議を誰も出せない。日本以外が現像するのであればだれが現像するのかで大きく揉める。その分時間が押してしまう。
「ではお願いします。」
柴の発言に四の五の言う時間を与えぬように田中は柴五郎にカメラを渡す。さらに背嚢から本を突き出す。説明書だ。柴は安藤大尉にそれらを渡すと安藤は義勇兵のもとに向かう。
「ではシーモア隊から北京までの状況をまず説明します。鉄道は文字通り壊滅状態です。シーモア隊が修繕作業をしている間も線路は破壊されています。シーモア隊が1修理している間に少なくとも2以上の範囲が破壊されています。」
「では鉄道を頼っている間は到着できないということか!!」
「残念ながら・・・鉄道を頼っているうちは到達できません。ただ、徒歩行軍を強行すれば敵地に身をさらすようなもの・・・大海原をカッター〈手漕ぎボート〉で越えようとするようなものシーモア隊が全力で向かっても北京に入城できるか怪しいところです。入城できたところで兵士が持てる装備程度では・・・焼石に水でしょう・・・。」
田中の説明はただシンプル 足がないので北京に来れないというものだった。
「むしろ・・・シーモア隊が現状壊滅の危険すらある状況です。こちらはシーモア隊で現像した写真付きで証明できます。」
一部将校は鉄道が壊滅している段階でシーモア隊の入城をあきらめていた。だがその彼らにとっても驚くべき情報がこれだった。
「聶 士成将軍の武毅軍が天津北方に布陣しております。シーモア隊を彼らは無視しました。ですが、彼らが敵に回れば・・・シーモア隊は敵中に孤立するでしょう。」
「対策はしているのだろう?」
柴五郎が合いの手を入れてくる。
「大沽に入港した日本艦より計600名、3編成の列車でシーモア隊への兵站および後方鉄道線の警備に当たっていますが・・・気休め程度です。ことが起きれば警備もたやすく撃破されるであろうことは目に見えております・・・線路に依存している以上・・・鉄道は脆弱そのものです。特に修繕作業が役に立たない鉄橋がある今回の場合、これが破壊されれば撤退すらおぼつかないでしょう」
欧州各国軍には敵国内での鉄道運用など経験は乏しい。彼らは鉄道については安全な国内の兵站輸送についての知見はあるが、今回のような敵地での運用はあまり例を見ない。数少ない例外は南北戦争当時鉄道線破壊を経験したアメリカぐらいだろう。
「鉄橋か・・・1編成おいてでも警備したほうがいい対象だな。」
ゆえにかアメリカ大使がつぶやく鉄橋は爆破なしで破壊されにくいが、一度破壊されればその影響は大きい。鉄道で運べる資材程度では修理のしようがない
「むろんその意見は出していますが・・・支援体制ができていないければ鉄橋ごと1編成が失われかねませんが。その辺はシーモア隊にお任せしています。危惧はお伝えしましたが、シーモア隊の司令部は前進にしか興味がないご様子でした。それにどうやら2列車分400を大沽で必要だから引き抜くという話です。おそらく残存の1編成が兵站輸送を中断して鉄橋守備に入ると思われます」
「大沽で400の兵だど?何をする気なんだ?」
これに対し、田中義三はわからないと答えるしかなかった。
北京籠城戦に田中義三と到着いたしました!!




