米西戦争編-9 反撃の応酬
砲兵隊所属 観測兵
数人の兵士が本来弾薬輸送に使用している馬車を走らせている。
「ケーブルは切れていないな!!」
「問題ありません!! ケーブルの補充も問題ありません。」
「通信つながっています。切れている様子はありません。」
彼らはとあるところに向けての通信を確保しようとしている。そのために海に面した崖に向かって走る。
米艦隊
「気球を上げろ!!錨を下せ!!停船射撃!!正確にスペイン砲兵を砲撃する。気球からの電話はもちろん、陸上観測員からの電信・回光通信機による観測を忘れるな。この距離からの砲撃だ。味方の頭上に巨弾を降らせるわけにはいかん。」
「砲弾が完全消耗した場合艦隊を離れ補給を行え。」
米艦隊はできるだけ陸に近づいて錨を下す。
「観測は多い方がいい」
進言をしたのは柴五郎だった。
艦隊には気球はあるが距離があるので正確な観測はできないが、山頂に布陣している米国製の熱気球や砲兵観測員であれば正確な観測が可能だ。
「第1次砲撃艦 装甲巡洋艦ブルックリン及びニューヨーク発射弾片舷全弾。第2次砲撃艦アイオワ・オレゴン全弾。第3次砲撃艦装甲巡洋艦ブルックリン及びニューヨーク・旧式艦テキサス第1次と反対舷側(舷側砲は打てなかったので残りの砲弾)全弾。第4次砲撃インディアナ・マサチューセッツ。」
「砲艦に弾薬輸送艦のもとに走らせろ。補給の手当てをさせるのだ。明日の朝には全力砲撃ができるように準備せよ。」
「気球を上げているテキサスは動かせん。テキサス分はここで補給させろ。砲撃が怖い⁉問題ない。敵艦隊は見込みでしか射撃できない。当たらぬ砲撃は気にする必要性はない。」
「すべての弾薬輸送艦の位置をサンチャゴに近い位置に移動させるんだ。」
艦隊司令部があわただしく命令を出している。
「第1次砲撃艦 位置につきました。錨下し、機関停止完了。機関については火を入れたままにしていますが、蒸気はピストンを迂回させています。弁を開けばすぐに動かせます。」
「第2次砲撃艦も準備完了です。」
「第1次砲撃艦の回頭のためにタグボートを用意しろ砲撃完了後2次砲撃艦の効力射中に方向転換、第3次砲撃に備えるべし。」
「信号旗砲撃準備完了」
「目標敵砲兵観測射撃をしている暇はない。打ち方はじめ!!」
最前線
「撃て敵の突撃を阻止するんだ!!」
米軍は持てるすべての銃器を使用して弾幕を張っている。既にスペイン軍の砲兵支援はできない距離にある。と前線ではみなされていた。その実は距離はもちろん艦砲射撃の影響もゼロではないという状況だったのだが。
「もう芋堀機(コルト・ブローニングM1895のこと)がコックオフを始めた!!休ませるから銃を貸せ」
「ガトリング砲兵 砲撃と狙撃にて被害甚大。弾幕維持できません。」
突撃に対しての的確な防衛手段は弾幕射撃だ。弾幕に飛び込むことはそれすなわち死を意味するからだ。
だが弾幕射撃は負担が大きい。コルト・ブローニングM1895はもちろんガトリング砲にも制限がある。
ガトリング砲はコルト・ブローニングM1895のような過熱の問題は発生しないが極めて重い。ガトリング砲は環状に配置された複数の銃身を外部動力で回転させて連続して給弾・装填・発射・排莢を行う。
複数の銃身を使用するために1本当たりの負担が少ないので過熱による問題は起こりにくい。
だが、その代価は重い。文字通り重い重量が。小型の野戦砲級の重量物。その割に射程は砲よりも短い。必然的に敵に近い位置で射撃せざるを得ない。
それは敵に狙われやすいということを意味する。
狙撃はもちろん、砲兵の射程内に入ることも増える。
そして運用人員も多い。弾薬消費量はコルト・ブローニングM1895をはじめとする機関銃よりもはるかに多い。その輸送人員も必要になる。
更に重いゆえに方向転換に労力が必要になる上、この当時、銃身を回転させる外部動力は人力。このために射撃姿勢は高くなりより狙われやすくなる。
「糞!!狙撃された」
「狙撃者を撃て!!」
「射撃を代われ!!」
1門あたりにかかる人員が多い。それは誰かが斃れたとしても変わりがいるということだ。操砲には影響が出るだろうが。
だが狙撃者が倒されていない以上、次の射撃手もまた斃れる。
こういった狙撃に対しての弾幕射撃はコルト・ブローニングM1895が担当するはずだったが、すでに過熱により射撃が中断されている。
そして射撃再開のために機関銃を使おうとするとその時点で狙撃される。
それでも塹壕という有利な地形で戦えることで互角の兵力ならば米軍有利だった。
コルト・ブローニングM1895の場合、再装填機構がレバーアクション式のライフル銃を参考にしている。そのため、レバーアクションのように銃下面に大きく稼働する部品オペレーティングレバーが存在する。
オペレーティングレバーは地面と干渉する上に取り付け位置が前方にあるので地面と干渉しやすい。
なお、これがポテトディガー(芋掘り機)」というあだ名の由来に当たる。
結果的にどちらの機関銃も小銃を塹壕から射撃するよりは敵に対して大きく身をさらすことになる。それを狙撃されて機関銃が上手く使えない。
ゆえに小銃同士の打ち合いになる。
なお、ウィンチェスターM1895をはじめとするレバーアクション小銃も運用されているが、こちらは手元にレバーがあるので塹壕内という構造を利用すれば条件付きながら通常のボルトアクション小銃並みに射撃姿勢を低くできた。
しかしそれは速射性の高い小銃を装備している精兵の場合だ。
問題は単発、黒色火薬の旧式小銃スプリングフィールドM1873だった。速射性は低い上に黒色火薬による煙によって射撃が継続されれば煙によって敵情がわかりにくくなる。
ゆえにその部隊はまともに突撃を食らうことになる。そこが傷口になり、スペインの後続部隊が次々と塹壕に突入してくる。彼らは奥の塹壕よりも隣の塹壕を目指す。
白兵戦と射撃戦を同時に行うことはできないのでそれを強いれば圧倒的に有利な戦いをすることができる。
その時になってようやく現場指揮官は各地に伝令兵を走らせて第1塹壕線を放棄した。これは第1合衆国義勇騎兵(連)隊も同じだった。
しかしこの際失ったものは多かった。
移動の容易ではないガトリング砲は放棄された。コルト・ブローニングM1895もいくつかは回収できずに放棄されるに至ったのだった。
この際に鹵獲を防ぐため破壊できなかったものは鹵獲されてしまったという。




