日清戦争 -10 幸運の塊
ま、助かりますわな。助からないと話が終わっちまう。
1894年7月26日 夕刻
「小僧!!よかった小池先生呼んでくるぞ!!」
九死に一生を得た田中。夕刻、空腹とともに目を覚ます。直後、痛さに叫びをあげる。それに気が付いた衛生兵の一人が叫ぶ
しばらくして衛生兵と複数の軍医がやってくる。
「二宮衛生卒ご苦労。」
小池先生と呼ばれた医者が声をかけている。
「はッ。」
返事をすると、衛生卒は違う仕事に向かう。
「容体はどうだね。」
小池が聞く。
「体が痛いです。腹が減りました。」
痛みをこらえた笑顔である。
「元気なようで安心したよ。君は幸運だ。状況、受傷部位の具合すべてにおいてだ。普通なら見捨てている。助からないからな。」
小池は笑う。
「そうですね。腹をやられたんです。下手したら糞が漏れてくるでしょうし、血管も多い。当たり所次第では血がなくなって死んじゃいますね。」
その言葉に周りの驚き顔が広がってゆく。
「頭がいいね君は。農家の3男、学校にも行かせてもらえんような余りものの若者とは思えない。『血管に刺せ』というのは誰の意見かな?」
小池は真剣なまなざしを見せる。この情報、人命を救う可能性がある。それを考えてのことだ。
「刺された直後は刺し返した後の記憶がありません。そのようなこと私が申しましたか…」
ある意味言いにくそうにする。答え方次第では面倒なことになるからだ
「君はある意味自らの才が自らを助けた。自分の報告が自分の命を救った。『嫌日感情飢餓商売の結果酷し』の電文から後方支援部隊の増強が指示された。衛生部隊の増派もそれが原因だ。君の発案と聞いた。」
周りが無言に包まれる。
「それに自らの身をもってそれを証明した。そして生還した。見事な事だ。」
外から声が聞こえる。
「やあ、森。来ていたのか?」
「負傷者が出たと聞いてな。まあ、必要なかったが、伝令からいろいろ話を聞いた。血管の話もな。私も聞きたい。」
周りの視線が田中に集中する
「個人的なたとえです。私は血管を鉄道馬車のようなものと考えました。農村から大きな町に必要な食料などを運ぶ鉄道馬車の道。それが血管だと。」
周りがそのたとえに首をかしげる。
「鉄道が破壊されたときに修復する行為は医者がけがをしたときにする処置のようなものであると。」
一部が首を縦に振る。理解したようだ。
「通常、鉄道馬車の通行を止めるでしょう、他からも輸送できますのでそれで問題はない。しかし人体は違うのではないでしょうか。不足するものを確実に運ぶために鉄道馬車は損傷個所を無理やり通過する。当然血液…鉄道馬車を損失する。」
「それを補充するという行為が輸液か…。」
「はい。しかし、鉄道馬車を整備するのは大変です。そこで、普通の道で一度田舎町に運んで、田舎町に集めてから輸送力のある鉄道馬車で運ぶ。普通の道を馬車で運ぶでしょうが、輸送のしやすさは鉄道馬車のほうが圧倒的でしょうね。同じ補充をするなら普通の道の馬車よりも鉄道馬車を優先すべきでしょうね。」
「…」
「大きな町の食糧不足…それを考慮するならば田舎町の備蓄分や輸送待ち分を優先して送り込む…そちらが早い。」
「つまり皮下注射は普通の道、鉄道馬車が血管…都市部への輸送を優先する必要があるということか…言いたいことの大枠はわかった。」
「すみません下手で…」
「そもそもそんなことを知っている方が異常だがな。」
「父が米を下している商店の方を質問攻めにして聞き出したことから考えただけのことですので。それを人の体に当てはめただけです。」
いろいろ名字が出てきました。(笑)わかる人にはわかるでしょう。(笑)




