第二章3:不気味
「……ぬ……たち……し……」
囁き声が頭に響く。 まるで暗い闇に閉じこまれたのように、オーフィスターニャは指一本すら動けない状態にいた。 目を開けようとも、まぶたは重くて開けない。 口も、針で縫い合わされたみたいに、喋ることすらできない。
「(誰だ!?)」
彼女は頭の中に、果ての無い闇に、彼女は叫んだ。 しかし聞こえてきたのは彼女がさっき叫んだ声の反響だけだった。
闇はまるで氷のように、徐々にオーフィスターニャの体力と体温を奪っていく。 オーフィスターニャは目を開けるのは精一杯だった、口すら開けない、鼻で呼吸するのも限界があった。
その時、オーフィスターニャは初めて『死ぬ』と言う気持ちを知る。 それでも彼女の頭に誰かの声が、僅かでも聞こえる。 ぼんやりとした声が聞こえてた。
「死ぬ……みたち……ふがし……」
『死ぬ』、それは彼女が唯一はっきりと聞こえた言葉。 彼女は困惑した、意味のわからない片言。
オーフィスターニャはその不気味な状況から打破しようとしていたら、体が揺れた。 まるで誰かに揺らされてるみたいな動き。
「お……と……る……! お……さ……!」
揺れてる間、オーフィスターニャは別の声が聞こえてきた。 さっきと違い、今の声は何故かオーフィスターニャの心を安らげる。
すると――、
パッ!!
「イタッ!」
いきなりオーフィスターニャの頭上に激痛を感じたことで、彼女は大きな声で叫んだ。
痛みで目を大きく開けたら、彼女の目の前に、青いシャツと白のジーンズを着ているエルフが立っていた。
「トワベールカさん、ワタクシの授業にお眠りするとは……そんなに面白くないですか?」
「レインハート先生……? あれ……? 夢、だったのか?」
レインハート先生は教科書を自分の手のひらに軽く叩いて、笑を浮かびながら、怒ってる口調で喋る。
対してオーフィスターニャはまだ完全に覚ましていない状態で、ぼんやりして、今でも倒れる感じでふらふらしていた。
「ええそうよ、レインハート先生だ。 貴女たちの数学教師、シーア・レインハート(Siah・Rainheart)先生だッ!」
「ムニャムニャ……」
ドヤ顔で自己紹介とポーズを決めたレインハート先生、しかしオーフィスターニャは既に立ったまま寝ていた。 ぐっすりと。
それに気づかなかったレインハート先生の顔が真っ赤になる、でも彼女は本気で怒る寸前、アルファーニは立ち上がる。
「レインハート先生! ここは私に任せてくれませんか?」
「ほえ?」
予想外の質問で、レインハート先生は反応遅れる。
「彼女と私は同じ机を使ってるクラスメイト、何より、私たちはルームメイトです! だから彼女に責任を問われるなら、私も同罪です」
アルファーニの目に、一つ曇もない、真剣な顔でレインハート先生を見詰める。
先生は分かったみたいで、何も言わず黒板の前に戻って、授業を再開した。
アルファーニはホッとしてため息をついて、寝ぼけてるオーフィスターニャの寝顔を睨む。
「(ふふふ……君を毎日起こすことはもう私の日課、ソレッ!)」
彼女は両手をあげて、オーフィスターニャの耳の近くに置く。 そしてアルファーニは深呼吸する、と同時に手のひらから冷気が放っていた。
「冷たっ!」
冷たい空気はあっという間にオーフィスターニャを強制的に目覚める。
彼女は驚きすぎて、キョロキョロと周りを見いていた。
「おはよう、オーフィスターニャ・トワベールカ、いかがだったか? 私の目覚まし」
アルファーニは無邪気で笑う。
「え? お前だったのか?!」
「ええ」
「この……! 次はもっと優しくしてくれっ! 危うくワタシの脳みそが凍てしまうところだったよ!」
オーフィスターニャは怒ってた、声のボリュームを控えてながらアルファーニに話す。
「すまんすまん、私はこの方法しか思いつかないから。 別にわざとやったわけじゃないからね」
アルファーニの言葉はわざとらしく話す、彼女実は楽しんでいた。 オーフィスターニャを弄ること。
そしてオーフィスターニャは笑う、優しさの無い笑みを浮かべて、彼女は両手でアルファーニの頬を引っ張る。
「お前なぁ……二週間前から言いたかった、お前は毎日ワタシを起こす時、いつもいつもいっつも同じ手段をする。 いい加減にしないと、ワタシは本当に怒るよ?」
「顔が笑ってなひ……」
「お、オーフィスターニャさん! お姉ちゃんをいじめないでくだ、さい!」
その時、アルファーニの後ろ席にいたカティアが立ち上がる。 彼女のとなりに、ミネルヴァが座ってる。
「カティア、ワタシは別にお前の姉をいじめるつもりはない」
「ほえ? ほ、本当ですか?」
「ああ本当だ、なぁアルファーニ」
天使のような笑顔でカティアに見せつけて、悪魔のような微笑みでアルファーニを睨む。
「え? あ、うん……(カティア、そいつに騙されるなぁ!)」
「お嬢様、カティア様、ついでにオーフィスターニャ様、早めにお座り下さい。 レインハート先生の怒りはもう限界に近づいてます」
ふたりはミネルヴァの言葉に気になって、彼女たちは先生の方へ覗く。
そこには背を向けてる先生が鉛筆を片手で折れる姿だった。 オーフィスターニャたちはその姿で言葉を失い、ごっくりと唾を飲む。 そしてそのまま静かに自分の席に座る。
「では授業を続けます。 この公式を使えば、遠隔系魔法の距離感をよりやすく把握出来るわけ……」
オーフィスターニャたちはおとなしく席に座ったことを気付き、レインハート先生は途中に説明していた方程式を続ける。
オーフィスターニャたちも真剣に授業を受けていた、そしてそのまま数学の授業が終わって、昼休み時間に入る。
「うっぅんんん……やっと昼休みだぁ!」
レインハート先生が教室から出た直後、オーフィスターニャは両腕を高く上げる。
「よしっ! 飯だ飯! おい、レスター、お前も一緒に食べる?」
「えっ? あ……はい!」
フィーリアもオーフィスターニャと同様、彼女は腕を前へ伸ばす。
レスターはいきなりフィーリアに声かけられて、危うく机から持ち出すうさぎ柄の布でまとった弁当箱をこぼすところだった。
「「アルトリア! 一緒に、昼ごはん食べよう~」」
フィーリアとレスターがちょうど教室から離れた時、アルトリアの左右に、突如! 双子のゼロとゼノが姿を現わす。
「ウオッ! お前ら、いきなり出るなっ! びっくりしたじゃねえか!」
「いいじゃん、そのくらいで。 それより、今日はゼノと食べよう!」
アルトリアの言葉を無視して、ゼノは彼女の左腕に絡む。
「あああ!! ずりぃよ、ゼノ! 今日アルトリアはゼロと食べるのッ!」
続いてゼロは右腕に絡む。 お互いは譲れないことで睨み合う。
「むむむ……!」
「ぬぬぬ……!」
そして真ん中にいるアルトリアは既に諦めた顔でため息をつく。
「アルトリアのやつ、相変わらず人気者だなぁ」
オーフィスターニャがちょうど席から立ったら、前に座ってたエレオノーラが近づいていく。 アルトリアたちの茶番のことを話す。
「どう見ても修羅場だろ……あ、逃げた……」
まだオーフィスターニャが話してる途中、アルトリアは双子が口喧嘩してる隙に、教室から飛び出した。
そして呆れたゼロとゼノは有無を言わせず、彼女たちは跡を追う。
「…………」
オーフィスターニャたちは唖然。 別にアルトリアがどう逃げ切ったことに感心していたわけじゃない、彼女たちは双子が晒した表情に驚いて、言葉を見付からなかった。
アルトリアが双子から逃げた直後、ふたりは不気味な笑顔を晒していた、まるで獲物を狩ること自体に楽しんでいるみたいだった。
「ところでオーフィス、昼飯はどうする? 一緒に食堂へ行く?」
気まずい雰囲気にエレオノーラは先に口を開ける。
「ん? いいぜ。 アルファーニはどうする? またミネルヴァの手作り弁当?」
オーフィスターニャはエレオノーラの誘いに乗って、彼女はついでにアルファーニを誘う。
「ん……」
アルファーニは腕組みして、頭をさげて悩む。
「今朝の食材が足りませんでしたので、弁当が作ってません」
「……では私たちも一緒に行きます」
その時、ミネルヴァの一言でアルファーニの悩みを一瞬で解決した。 アルファーニもためらいもなくオーフィスターニャの誘いを受ける。
「んじゃ、食堂へレッツゴー!!」
エレオノーラはオーフィスターニャより先に掛け声を出す。
「なんでお前は掛け声を……! せっかくワタシがリーダーっぽくしようとしたのに…」
オーフィスターニャはちょっと拗ねていた、頬を膨らんで、顔を横へ振る。
「「なんで」って……そもそも提案したのは私だ」
「…………」
その一言で拗ねていたはずのオーフィスターニャの顔が無表情に変える。 返す言葉すら見付からず、沈黙した。
気まずい雰囲気はオーフィスターニャたちの周りに漂う。
そしていつの間にか、教室内は彼女たちだけが残された。
「あの……そろそろ食堂へ向かいましょうか? 私はもうお腹がペコペコですぅ……」
カティアは泣きそうな顔でお腹を抱え込む。
アルファーニは黒板の上にあった時計を見る。
「早く行きましょう、昼休み時間が終わっちゃう」
「そうだな」
オーフィスターニャも賛成する。
こうして彼女たちも教室から出たことによって、中はがら空きになる。 そして一緒に食堂へ行こうとしていた。
食堂は一階フロア、階段を降りて、左へ真っ直ぐに行けばたどり着ける簡単なルート。 オーフィスターニャは数分で食堂の入口まで辿りついた。
「ワタシ、入学の二日目以来、ここに来れたことがないんだ。 エレオノーラ、お前は? しょっちゅう寄ってくるのかい?」
心配そうな顔でエレオノーラを見る。
その影響で、エレオノーラ以外も心配になってきた。
「ん……私はたまに来るだけ。 でも心配するな、今は入学の時と違い、すごく穏やかな場所になった」
「そ、そう? でもやっぱり心配だ……目を閉じれば、入学の二日目、この食堂に起きたこと、見た光景は今でも鮮明に思い出す……」
オーフィスターニャが自分の記憶を探ろうとした時、頭の中にある記憶はまるで湖に石を投げて、波紋が浮かんだのように、色んな昔話が浮かんできた。
小さい頃の話、友達と遊んでいた話、さっきまでの話していた会話、夢の中に聞いた不気味な声、そして……二週間前、オーフィスターニャが初めて学園の食堂に来たの出来事……。




