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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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九十五話〜独占欲〜


 ベッドに横になるリズをセドリックは眺める。

 戸惑う彼女を優しく宥め、今し方ようやく眠りに就いてくれた。


「……リズ」


 無防備にベッドの上に投げ出されている手をそっと取ると、手の甲に口付けをする。

 毎日あれだけ雑事をこなしているというのに滑やかで綺麗だ。


 彼女を失うかも知れないと思ったあの瞬間、全身の血の気が引き粟立った。

 恐怖と怒りでどうにかなってしまいそうだった。

 もし後少し遅かったら……そう考えると今この瞬間も恐怖に駆られ怒りに支配されそうになる。


 リズ達を襲撃した男達の素性は分かっていないが、ただのならず者ではないだろう。

 今回殉職した二人の護衛は優秀な騎士だった。

 彼等はサイラスが城から連れて来た者達で腕は確かであり場数も踏んでいるベテランだ。

 幾ら相手の方が数を上回っていたからといって、命を落とすなど考えられない。そうなると相手もそれ相応の訓練を積み尚且つかなりの実力の持ち主だったと仮定される。恐らく何処かの国の騎士かも知れない。

 そしてルークが逃げた後を追わなかった事からして、狙いはリズである事は明白だ。

 

 以前からリズが訳ありだとは分かっていた。

 あの時彼女は、自分がルヴェリエ帝国の皇子と知って屋敷を去ろうとしていた。だが当初セドリックはあまり深刻に捉えず楽観的に考えてしまった。

 今回の件も踏まえて有能なリズ自身でも手に負えないくらいの問題を抱えているのだと分かった。そう例えば……国際問題などだ。

 仮にそうだとするとリズは西大陸の上流貴族のそれも政治などに強く関わりのある家柄の令嬢か、若しくはこれは考えたくないが密偵や暗殺者などとも考えられる。

 現時点では五分五分と言った所だろう。

 何故ならあの剣の構えは素人ではない。だが剣術自体は素人にしか思えなかった。

 その事実が余計にセドリックを混乱さ

せていた。

 ただいずれにしても関係ない。


(リズを誰にも傷付けさせたりはしない)


 セドリックはリズの解けた長い髪をひと束掴むと今度はそこに口付けた。

 癖になってしまいそうだ。

 



 現時点で既に予定より長く滞在しているが、更に滞在期間の延長をした。その理由は例の事件の調査の為だ。


「内密に進めているんだ、通常よりも時間は掛かるに決まっているだろう」


 水面下で調査を始めて数日経つが、有力な情報は掴めず進展はない。

 

「そこをどうにかするのが叔父上の役目なのでは?」


「無茶ばかり言ってくれるな。これでも出来る限り手は尽くしている」


 セドリックが不満気に文句を言うと、サイラスは深いため息を吐いた。

 

「後三日以内にお願いします」


 何か言いた気なサイラスを一人執務室に残こし退室をする。

 流石にこれ以上は延長は出来ない。

 公務が滞っているし、あまり長い間第三部隊を放置は出来ない。普段ほとんど顔は出さないが、直ぐに駆け付けられる場所にいるのといないとでは雲泥の差だ。

 それにまた襲撃を受ける可能性も否めない。

 あれからサイラスが屋敷の警備を強化したが、やはり辺鄙なヴュストよりも王都であるラルエットの方が安心だ。故になるべく早く事を済ませ帰るのが最良だろう。




 部屋に戻るべく廊下を歩いていると、ふと窓の外が視界に入った。

 そこには中庭でルークと一緒にいるリズの姿があり、思わず立ち止まり二人を眺める。


「……」


 サイラスは自分にルークの面倒をみさせる為にわざわざ呼び寄せたが、彼とは絶対に打ち解ける事はないだろう。

 あの日、ルークが森に行くと言い出さなければあんな事にはならなかった。仮にならず者達に襲われるような事があっても、セドリックが近くにいれば直ぐにリズを守る事が出来た筈だ。

 それに理由はそれだけではない。まだ八歳ではあるが男性に違いなく、妙にリズに懐いている所も気に食わない。

 大人気ないと分かっているが、何もかもが好きになれない。


「リズ、少しいいかな」


「セドリック様」


 中庭に出ると親し気にルークと話している彼女に声を掛けた。

 側には何人もの護衛達の姿がある。


「ルーク様、失礼します」


 丁寧に頭を下げたリズはこちらへとやって来る。

 ルークは分かり易く不満気な顔をしてセドリックを睨んでくるが不敵に笑って見せた。すると益々顔を歪ませる。


「お茶を淹れて欲しいんだ」


「承知致しました」


 快諾する彼女を連れてセドリックは満足そうにしてその場を後にした。





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