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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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九十三話〜新たな問題〜




 リズやルーク達が退室後、応接間にはサイラス、アルバートが残りそこにセドリックがブライスを連れやって来た。


「身体は大丈夫なのかい?」


「はい、特に問題ありません」


 セドリックはそう言い何となしにソファーに座った。

 昔とある事件をきっかけに女嫌いとなり、女性に触られると身体に発疹ができ過呼吸を引き起こしていたセドリックが、あれだけ女性に触れて問題ない様子に正直驚いている。

 暫く合わない間に克服したのか、或いは彼女が特別なのか……。


 応接間にはサイラス、セドリック、アルバートにブライス、今回森へ同行していたクラルティ公爵家の騎士団長も同席させていた。


「単刀直入に言います。今回の件は他言無用でお願いします」


 サイラスは眉根を寄せる。

 言葉こそ丁寧ではあるが、とても人に頼み事をしている態度ではない。

 鋭い青眼をこちらへと向け有無も言わせない威圧感が漂っていた。


「その理由はなんだい?」


「何故わざわざ理由を説明しなくてはならないんですか?」


 昔から温厚で良い子だった甥は、やはり随分と様変わりした。これもきっと彼女の影響なのだろう。

 久々に再会した時はそれを嬉しく思ったが、今は複雑な心境となる。


「理由を話してくれないと、こちらも納得出来ないだろう」


「納得する必要などありません」


「セドリック、子供のような事を言うな」


「なら言い方を変えましょう。これは命令だ。何があろうと他言する事は、()()()が許さない」


 一気に空気が張り詰める。

 この場で誰よりも地位が上であるセドリックは、無論その権利を有する。

 幾ら親族だろうが本来ならば口答えなどは出来ない。

 だが可愛い甥の為にもこのまま引き下がる訳にはいかない。


「リズ嬢の事を守りたいのは分かる。だが少し短絡的過ぎる」


「っ‼︎」


 図星だったのかセドリックは分かり易く目を見張り、唇をキツく結んだ。


「彼女に対する違和感はここにいる全員が覚えている。だがそれで彼女を害そうとする人間はここにはいない。それは君も十分に理解している筈だ。少し冷静になりなさい」


 違和感それは、あの構え方だ。

 剣を扱う者ならば一目で分かる。

 普通に考えるならば、あの状況下で咄嗟に身を守る為に剣で応戦したのだと思うだろう。現に彼女の剣の振り方は素人のように見えた。

 だが剣を拾い上げ構えた瞬間、彼女が全くの素人でない事が分かった。

 構え方は教える人間により様々だが、基本となるものがある。それを偶然出来る事はまずあり得ない。

 あれは確かに教えを受けた人間の構え方だった。それを前提に考えた時、一見無闇矢鱈と剣を振り回していたように見えた彼女の動きは意味をなす。

 騎士道には反するが、生き延びる為の技法とでも言えばいいだろうか。所謂護身術だ。


 サイラスはリズの事を西大陸から来た上級貴族の家出令嬢だと踏んでいたが、正直分からなくなった。

 普通、貴族の娘は剣を握る機会などない。

 例えばあれが護身術だと考えたとして、上級貴族ならば必ず護衛がいる筈だ。逆に下級貴族なら余程の理由がなければ外敵に狙われる心配はないだろう。どの道護身術など不要だ。

 そうなると彼女は貴族の令嬢ではないのか? 

 

 サイラスは思考を巡らせるが、逆に迷走する一方だ。

 恐らくセドリックも同じような考えに行きつき混乱していると思われる。


「セドリック、本当に彼女が何者か知らないのか?」


「知りません……。でも、リズが何者かなんて僕には関係ない。リズはリズだーー彼女を傷付ける人間は、誰であろうと僕は絶対に許さない」


「……」


 いっときの恋情に惑わされて己を見失っていると思われたが、セドリックの表情から意思の強さを感じ本気である事が伝わってきた。

 良くも悪くも成長した甥に根負けし苦笑する。

 

「今回の事は他言無用だ。調査は内密に行う。またあの時、リズ嬢は()()で敵に襲われていた。これが事実であり、余計な記憶は消すように」


 サイラスは息を吐くと、困惑するアルバート達にハッキリとそう告げた。

 

「あの場に居合わせた他の者達にも伝えておいてくれ」


「御意」


 騎士団長はサイラスの言葉を受け先に退室をした。

 

「あ、そういえばディアナに呼ばれてたんだった!」


「私もお先に失礼します」


 白々しく叫び出て行くアルバートに続いてブライスも退室し、応接間には二人きりとなる。


「セドリック、あまり深みに嵌るのは危険だ。彼女が悪人だとは思えないが、素性が分からない以上警戒をしなさい」


 ただの家出令嬢だったならば口を出すつもりはなかった。だがあのような事件が起きた以上、見過ごす事は出来ない。


「君はルヴェリエ帝国の第二皇子なんだ、それを自覚……」


「リズは……可哀想に、あんなに震えていたんだ。僕がもっと早く、いや一緒に行くべきだったっ。もう少しで彼女は死ぬところだったんだ‼︎」


「セドリック……」


「その彼女が悪人⁉︎ なんの冗談ですか。リズを害そうとするなら、叔父上だろうと容赦はしない。これ以上、口を出さないで下さい」


 サイラスの返答も待たずにセドリックは応接間から出て行ってしまった。

 ルークの問題を解決する為にセドリックを呼び寄せた筈が、今度は別の問題が浮上したと大きなため息を吐いた。




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