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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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八十六話〜好奇心〜



 その夜、エヴェリーナが部屋で休んでいると扉が叩く音がした。

 まだ就寝するには早いが人を訪ねるには遅い時間だ。一体誰かと扉を開けるとそこにはサイラスが立っていた。


「こんな夜更けにすまないね。少し話がしたいんだがいいかい?」


「……」


 彼の意図はどうあれ、こんな時間に女性を連れ出すのは如何なものかと躊躇う。

 だが相手は公爵であり皇弟でもある。端から拒否権はエヴェリーナにはない。仕方なく静かに頷いた。


 中庭に出るとサイラスに促され側にあるベンチに横並びに座った。そして彼は手にしていたランプを二人の間の地面に置く。

 薄暗いが月明かりのお陰で、この距離感ならば互いの顔は確認出来る。


「昼間はルークを助けてくれて、改めて礼を言う」


「いえ、差し出がましい事を致しましたと反省をしております」


 話を聞けば、今日の昼前にサイラスはルークの姿が見えないと使用人から報告を受け、町まで探しに来たという。

 すると往来で何やら揉めている者達がいて、それがエヴェリーナ達だったという事だ。

 それにしてもあの時は正直助かった。彼が間に入ってくれた事で大事にはならず、喧嘩両成敗となり帰路についた。

 後から考えて少々大人気なかったと思う。もう少し寛大になってもいいのかも知れない。

 何しろここは敵だらけのローエンシュタインではないのだから……。

 


「どうやらルークは君達が町に行く話を聞いていたらしく、追いかけ行ったみたいんだ。だが驚いた。実はルークはあまり町に行きたがらなかったんだ」


 サイラスの話では、養子にする為に屋敷に迎え入れた後、ルークを連れ町へ行ったそうだ。そこで彼を養子にして後継者にする話をしたが、ルークの太々しい態度に住民達はあまり快く思わなかったらしい。

 その後も何度かルークを連れて町へ足を運んだが、子供達と馴染む事は出来なかったという。


「それにしても、君には随分と懐いているようだね」


「そうでしょうか……」


 あれは果たして懐かれているというのだろうか? 

 エヴェリーナは苦笑する。


「ああ、断言出来る。ルークはまだ八歳だが頭が良過ぎる故に、普通や平凡なものには興味や関心を示さない。……君は何者なのかな?」


「ーー」


 穏やかに話していたが、不意に声色が変わったのに気が付き彼を見ると鋭い視線がこちらに向けられていた。


「セドリックからは西大陸から来た平民だと聞いたが、何処の国の貴族のお嬢さんかな?」


「っーー」


 一瞬心臓が跳ねた。

 だが動揺している事が悟られぬように平常心を装う。


「仰っている意味が分かり兼ねます」


「この数日、君を観察させて貰った。私の見立てでは、何処ぞの上級貴族の令嬢ではないかと考えている」


 エヴェリーナの返答は受け流し、サイラスは淡々と自身の見解を述べる。


「君は姿勢があまり良く無いね」


「……」


「人はずっと気を張っているのは難しい。それ故、ふとした瞬間に隠していたものが見える。普通なら気が抜けると姿勢が崩れたりするものだ。だが、君の場合は逆だった。これが何を意味するのか……君なら分かるだろう? 完璧な姿勢を意識する事なく自然体で出来る人間は、幼い頃から余程訓練された者以外は無理だ。平民は無論の事、下級貴族でも出来る者は中々いない。それに町での君の言動を見た時確信を得た」


 迂闊だった。

 あの時、身体が勝手に動いていた。何故かルークを守らないといけないと思った。

 頭の中にこの場を打破する言い訳が次々に浮かぶが、彼の洞察力を考えるとどれも適切だとは思えない。寧ろ墓穴を掘る可能性すらある。

 そんな中、黙り込むエヴェリーナにサイラスは意外な反応を見せた。


「そんなに警戒しなくていい。君をどうこうしようとは思っていないよ。訊ねたのは、ただの好奇心のようなものだ。言いたくないなら言う必要はない」


「……それで、良いのですか?」


「私はこう見えて人を見る目は確かだ。君が誰であろうと、セドリックを任せるに値する人間であると思っている。……はは、解せないという顔をしているね」


 彼の思惑が分からず思わず眉根を寄せる。

 

「久々に見た可愛い甥が我儘になっていた。それは君の影響だ。セドリックはああ見えて我慢強く優しい子なんだ。それ故に自分の感情を押し殺す癖がある。嫌な事を拒否出来ず、波風を立てぬよう兄の為に城を出るような子だ。そんなあの子が、君の事になるとなりふり構わず文句を垂れる。こんな嬉しい事はない。それにルークが君を気にかけている。恐らく君と仲良くなりたいのだろう。あの子は聡い。私同様、人を見る目には長けている。だから私は君に対して一寸の不安もない」


 そう言い切ると穏やかに微笑んだ。

 サイラスはエヴェリーナを信じている訳では無い。彼が信じているのはセドリックやルークなのだろう。それがヒシヒシと伝わってきた。

 だが寧ろその方がいい。手放しで信じていると言われるより何倍も説得力がある。

 エヴェリーナは暫し呆気に取られたが、その笑みに応えた。





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