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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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七十九話〜不憫な弟〜



 ローエンシュタイン帝国ーー


 二ヶ月程前、ジュリアスが毒を盛られ倒れた。

 一時は危篤まで陥ったが、どうにか一命を取り留める事は出来た。ただ快気したとはいえ元々身体が弱かった弟は、内臓の一部を損傷しまた床の上での生活を余儀なくされた。

 死の淵で彼女を呼ぶ弟を見て、なんて自分は無力なのだと嘆きながら思った。



 ジュリアスの浮気相手であるメリンダ・フォールは今地下牢の中にいる。

 何故ならジュリアスに毒を盛った犯人だからだ。また彼女の父であるタイラー・フォールも共謀罪で捕まっている。

 皇族殺害未遂とあり本来ならばその場で首を落としている所だが、メリンダが興味深い事を口にしたので特別に生かしている。


 ”マクシミリアン皇子”に指示されたーー

 

 今はまだ調査段階故、詳しい事は分かっていないが、もしこれが事実ならば由々しき事態だ。第二皇子が第七皇子を殺害しようとした事になる。

 だが動機が不明だ。

 昔から父である皇帝はジュリアスを溺愛している。そのジュリアスを殺せば幾ら皇子といえ無事では済まない筈だ。

 それに直ぐに犯人を突き止められた事からしても、内密に事を起こしていたとも考え辛い。かなり杜撰な犯行だ。それ等を踏まえて推測出来る事はーー


 フォール親子はマクシミリアン側の人間で、メリンダがジュリアスと浮気したのは本人の意思というよりマクシミリアンからの指示だった可能性が高い。エヴェリーナをセレーナ宮殿から追い出し、マクシミリアンの息の掛かったメリンダを第七皇子妃にすげ替えようとした。だが思うようにいかず、焦ったフォール親子は独断でジュリアスに毒を盛ったと考えるのが自然だろう。マクシミリアンがそんな指示を出すとは到底思えないからだ。

 ただ仮にジュリアスが亡くなったとして、何の特になるのかが分からない。

 メリンダの供述も二転三転していて話している内容も「私はお姫様になる為に生まれた」などと意味不明だ。父親のタイラーは肝の小さい男のようで、いつ処刑されるかと怯え気が触れたようになり会話にならない。医師からは、正気に戻る可能性もあると言われているのでもう暫くは様子を見るしかないだろう。

 またマクシミリアンの動向に、これまで以上に神経を尖らせなくてはならない。


「兄上……?」


「ああ、目が覚めたのかい」


 ベッドの横で椅子に座るオースティンは、目を開けたジュリアスの頭を優しく撫でた。


「……リナは?」


「まだ見つかっていない」


「……そう」


 見るからにジュリアスは落胆する。

 目覚めるたびに必ず彼女の名を口にする弟を見るのが辛い。


 エヴェリーナの行方だが、最近になり彼女が西大陸を出た事が分かった。

 東大陸の何処かにいると思われるが、東大陸はローエンシュタイン帝国の権威が及ばない領域故、探し出すのは困難を極めるだろう。

 そもそも西大陸を出るまでの彼女の痕跡を辿るのもかなりの時間を要した。それには理由がある。誰かが意図的に痕跡を消していたーー

 彼女を支援する者か或いは彼女の帰還を望まぬ者かは分かっていない。


(そういえば最近、レナルド王子の姿も見掛けなくなったな)


 彼もまたエヴェリーナの行方を探すと言っていた。彼が支援したとも考えられる。

 何にせよ、東大陸を探さなくてはならない事に違いない。


(どんな事をしてでも、必ず探し出さなければならない)


 エヴェリーナがいなくなり初めの頃はどうにか誤魔化していたが、流石に一年近くともなると誤魔化しきれなくなり、最近になり皇帝にエヴェリーナの失踪が知られてしまった。

 だが意外にも許可なく宮殿を去ったエヴェリーナを批難する事はなく、彼女の身を案じていた。その事が本当に幸いだったと言える。

 ただオースティンは、庇護している者として厳しく批難され、父からの信頼は落ちてしまった。


 また仕事も彼女がいなくなってから滞り、これまで円滑にいっていたものが上手くいかないでいる。

 ローエンシュタイン帝国内の事柄ならばどうとでもなるのだが、問題は他国からの案件だ。

 西大陸を統べる国として、様々な国々からの事案が持ち込まれる。

 エヴェリーナがいた時は、彼女の助言を元に取り組んでいた。

 農産物の低迷、人身売買、薬物、経済関連や民衆からの不満など上げればきりがない。

 その都度、必要に応じて経済援助や人員を派遣したりしていた。今はその采配をオースティンが行っているのだが、全てが中途半端な状態となり解決には至らないでいる。

 何度も側近等と話し合いをして対策を講じているものの、上手く行かず何がダメなのかさえ分からない。

 このままでは、他国からの信頼が損なわれ兼ねない。それにこれ以上失態を重ねれば、父からの信頼も完全に無くし立場も危ういものとなる。そうでなくとも、マクシミリアンが皇太子の座を狙っているのだ。


「リナに、会いたいよ……ゴホッ、ゴホッ」


「ジュリアス⁉︎ 誰か医師を呼べ!」


 オースティンはジュリアスの背中をゆっくりと摩る。

 咳き込みながらも「リナ」と何度も繰り返し彼女を呼ぶ姿に胸が締め付けられた。

 以前はエヴェリーナを連れ戻した後は、ジュリアスとは離縁させ自分が責任を持ち引き取ろうかとも考えたが、やはりジュリアスにはエヴェリーナが必要だ。

 弟は確かに過ちを犯した。だが、今はそれを酷く後悔しているし、こんなに酷い罰まで受けた。もう十分だろう。不憫でならない。

 ジュリアスの為にも一刻も早く彼女を、探し出さなくてはーー


「ジュリアス、心配しなくていい。エヴェリーナは必ず連れ戻す。必ず……」


 間違えてしまったが、壊れてしまったが、彼女さえ戻ってくれば全てが元通りになる筈だ。





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