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出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました  作者: 秘翠 ミツキ


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七十八話〜報い〜



 コルベール家の事案もようやく落ち着き、リズを取り戻し平穏な日常が戻ってきて数日。

 セドリックはとある夜会に参加していた。

 普段なら特別な時にしか参加しないセドリックが何故今此処にいるのかというと、それは結末を見届ける為だ。

 我ながら性格の悪い事だと笑えるが、これは自分なりのケジメだ。



「珍しいな。君が夜会に顔を出すなんて」


 広間に入ると見知った姿を見つけた。

 それはセドリックの部下であり、第三部隊の副隊長であるクライヴだ。

 彼はセドリック同様、滅多に社交の場には顔を出さない。


「我コラス家は、ギョフロワ家とは昔から親交が深いですから、どんなに仕事が溜まっていようとも参加せざるを得ないんです」


 分かり易い嫌味を言われセドリックは顔が引き攣る。


「もう少し隊長が仕事熱心だとありがたいのですが」


「はは、善処するよ……」


 まるでサボっているみたいに言われ納得がいかないが、実際公務ばかりで騎士団の仕事は彼に任せっきりなので反論は出来ない。


「所で、隊長こそどのような風の吹き回しですか? 珍しいですね、このような所に顔を出されるなど」


「少し野暮用があってね」


「野暮用ですか……。隊長、私はまだ挨拶回りがありますのでこれで失礼致します。それとたまには、稽古場に顔を出して下さい」


 一瞬訝しげな表情を浮かべるが、特に追求をするつもりはないのかクライヴは去って行った。

 その後暫くは、主催者であるギョフロワ伯爵に始まり様々な人間がセドリックの元へと挨拶に訪れた。そんな中、少し遅れて広間に姿を現したのは、婚約をすっ飛ばし異例の速さで結婚した二人ーー今夜の主役であるジョセフとビアンカだ。

 

 二人の登場に広間は一層騒がしくなり注目をする。ただその声や視線は祝福するというよりも、好奇心が強く感じられた。

 まあ当然だろう。あの遊び人で有名で、悪い噂が絶えないギョフロワ家の問題児と、今話題のコルベール家の長女との婚姻だ。誰もが興味があるに決まっている。



「セドリック殿下、まかさお越し頂けるとは思いませんでした」


「折角、招待して貰ったからね。それより、この度は結婚おめでとう」


 セドリックの存在に気付いたジョセフは、ビアンカを連れ声を掛けてきた。


「ありがとうございます。殿下に祝福して頂けるなど、光悦です」


 和かなジョセフとは対照的に、その隣でビアンカは精気の感じられない顔をして黙り込んでいた。


「ビアンカと結婚出来たのは、ひとえにセドリック殿下のお陰です。あの夜、ビアンカと引き合わせて下さったのは殿下ですから」


 ジョセフのその言葉にビアンカはゆっくりと顔を上げようやくこちらを見た。


「それは、どういう事ですの……?」


 僅かに声が震えている事が分かる。


「おや、伝えていなかったかな? 実はあの夜、セドリック殿下と偶然廊下でお会いして、私達が初めて愛し合った部屋に君がいる事を教えて下さったんだよ」


 こんな公然の場で平然と「愛し合った部屋」などと口にするジョセフに内心どん引きため息を吐く。


「嘘……」


「嘘ではないよ。そうですね、セドリック殿下」


「ーー」


 ジョセフの問いに頷いて見せれば、彼女は目を見開き、唇を僅かに開いたままこちらを凝視してくる。絶望したような瞳を向けられるが、セドリックは意に介す事なく和かに会話を続けた。


 適当な会話を暫し交わすと、ジョゼフは他にも挨拶があると踵を返すが、不意にビアンカがセドリックへ声を掛けてきた。


「セドリック、様……わ、私」


「ビアンカ嬢、いや夫人と呼ぶべきかな。心から祝福するよ。いつまでも、君達の幸せが続く事を願っている。ああそれと、君も人妻になったんだ。これからは僕の事は殿下と呼んで然るべきじゃないかな」


「っーー」


 もはや幼馴染でもなんでもなくただの他人に過ぎないと冷たく突き放す。

 自分だけでなく、今回の騒動で結果大切なリズを巻き込み危険に晒す事となった。許される筈がない。今回はこの程度で済んだが、次はない。


 夫のジョセフはまだ結婚して間もないというのにも拘らず、夜な夜な女性達の元を渡り歩いていると耳にしている。

 やはり結婚したくらいでは変わらないようだ。

 更にジョセフの結婚を受けて、彼の子を身籠っているという女性まで現れ色々と揉めてもいるそうだ。

 またジョセフの母親は、息子を溺愛しておりビアンカにかなり風当たりが強いとも聞いている。

 二人の世帯はギョフロワ家本邸の離れにあるらしいので、ビアンカが今どんな状況にあるかは想像するに容易い。

 だが彼女がどんなに辛かろうと離縁など絶対にさせない。まあそうは言っても、彼女の帰れる場所はもうないのが実情だ。

 没落寸前の生家は彼女を溺愛していたユージーンではなくニコラが継ぎ、そのニコラはコルベール家を窮地に立たせた姉を受け入れはしないだろう。

 あのコルベール家(いえ)で、まともなのは結局彼だけだったが、不幸中の幸いだったともいえる。もしニコラまで同類だったならば、今頃コルベール家は没落の一途を辿っていた筈だ。


「末長く幸せに」


 もう用はないとセドリックは踵を返すと、広間を後にした。

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